わすれ)” の例文
人々ひとびと御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。」此世このよ御扶おんたすけ蒼白あをじろいこのわが罪業ざいごふあがなたまはなかつた。わが甦生よみがへりまでわすれられてゐる。
年頃としごろめで玉ひたる梅にさへ別れををしみたまひて「東風こちふかば匂ひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれぞ」此梅つくしへとびたる事は挙世よのひとの知る処なり。
文「この御親切は決してわすれませんぞ、さゝ、お前さんは人に心付かれぬように早くお帰り下さい、お礼はあとで致します」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は殊更ことさら父母から厳しく云付いいつけられた事を覚えて居る。今一つ残って居る古井戸はこれこそ私が忘れようとしてもわすれられぬ最も恐ろしい当時の記念である。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
で、いよいよ移居ひっこしを始めてこれに一朝ひとあさ全潰まるつぶれ。傷もいたんだが、何のそれしきの事にめげるものか。もう健康な時の心持はわすれたようで、全く憶出おもいだせず、何となくいたみなじんだ形だ。
十分に加療を施して死に至らしむるこそ、馬匹に対するの大義務たるべきなり、予は老体をわすれて尚活溌に至らんと欲するなり、かつて札幌に於ては又一が出兵するを以て
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
夜がければつねの人である。制服を着けて、帳面ノートを持つて、学校へた。たゞ三拾円をふところにする事だけはわすれなかつた。生憎時間割の都合がわるい。三時迄ぎつしりつまつてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今日けふわすれないでなさい如何どうじや大變たいへんかほいろわるいやうじやがそんな元氣げんきのない顏色かほいろをしててはなかわたれるものではない、一同いつしよをがんだも目出度めでたえんじや
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「さては彼の狐めが、また今日も忍入りしよ。いぬる日あれほどこらしつるに、はやわすれしと覚えたり。憎き奴め用捨はならじ、此度こたびこそは打ち取りてん」ト、雪を蹴立けだてて真一文字に
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
それとも、かつてつてたひととして思出おもひだすこともなくおたがひわすれられてゐたかもしれない。そして、またもしも電車でんしやで、おたがひ東京とうきやうてゐたならば、かほあはせるやうなこともあるかもしれない。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
すくいになったことを、法王はまだおわすれにはなりませぬから。
なすうちやゝ酒の醉もまはりしかば後藤は近江あふみ盜賊どろぼうの一件もはたわすれて仕舞至極酒の相手には面白く思ひ終に是より道連みちづれとなし飮合たる勘定も拙者がはらいや私しが拂ひますと爭ふ位の中になり其後の勘定は面倒めんだうなしに一日代りとめければ半四郎は大いによろこ道々みち/\の咄し相手となし先今夜は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
年頃としごろめで玉ひたる梅にさへ別れををしみたまひて「東風こちふかば匂ひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれぞ」此梅つくしへとびたる事は挙世よのひとの知る処なり。
下さいますと、わたくしは生涯おわすれ申さないのですが。
我れ幼年えうねんころはじめて吉原を見たる時、黒羽二重に三升の紋つけたるふり袖をて、右の手を一蝶にひかれ左りを其角にひかれて日本づゝみゆきし事今にわすれず。
だってお目の前にいなくなれば、おわすれなさいますわ。
我れ幼年えうねんころはじめて吉原を見たる時、黒羽二重に三升の紋つけたるふり袖をて、右の手を一蝶にひかれ左りを其角にひかれて日本づゝみゆきし事今にわすれず。
胡場こば北風ほくふういなゝき、越鳥ゑつてう南枝なんしくふ、故郷こきやうわすれがたきは世界の人情にんじやう也。