御尤ごもっとも)” の例文
ただその理窟を御尤ごもっともとも何ともいわず、「理窟いはるゝ」とだけいったところに、多少のおかしみを生じているような気がする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「娘が飛んだ不調法を致しまして御立腹の段は重々御尤ごもっともさまでござりますが、何卒どうぞ老体のわたくしへお免じ下さいまして、御勘弁を願いとう存じます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほんとは何とおっしゃるのか知りませんが、そうお話になるのを聞いて、「御尤ごもっともで」と、幾度も母はうなずきました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
朋輩は此の無理難題を一言の口答もせずに御尤ごもっとも様で聴いているのだったが、登恵子はもう我慢が出来なかった。で
女給 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
「種」を手本に毎日のみの数が進んで行くにつけて、いかにも御尤ごもっともと感じて、彫る上にも気乗りがして来ました。
……なに馬鹿を言え、犬の面がそんなものに似てたまるかと……御尤ごもっともでありますが、どうも時々そう見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私もくは知りません。たれも好くは知りますまい。あなたが御存じのないのも御尤ごもっともです。これまでのところでは、履歴もくわしくはおおやけにせられていないのですから。
「これはいかにも御尤ごもっとも、昔から貧乏でございます」こうは云ったが弁才坊は意味ありそうに云い続けた。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
学校時代の教師の教にさえ内心では十分に服せぬ娘が、妻となりましたからといって夫の言葉を一一いちいち御無理御尤ごもっともと和するほどに今の教育は女を愚に致してはないはずです。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
其御言葉は一応御尤ごもっともには存ずるが、関白も中々世の常ならぬ人、匹夫ひっぷ下郎げろうより起って天下の旗頭となり、徳川殿の弓箭ゆみやけたるだに、これに従い居らるるというものは
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「比良野様の御意見は御尤ごもっともと存じます。度々の不始末で、もうこの上何と申し聞けようもございません。いずれとくと考えました上で、改めてこちらから申し上げましょう」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
叔母さんのおっしゃる事は一々御尤ごもっとものようでも有るシ、かつわたくし一個ひとりの強情から、母親おふくろ勿論もちろん叔母さんにまで種々いろいろ御心配を懸けましてはなはだ恐入りますから、今一応とくと考えて見まして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
また主観客観の区別、感情理窟の限界は実際判然したる者に非ずとの御論ごろん御尤ごもっともに候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
重々御尤ごもっとも千万と存じているので御座いますが……しかし……ここに遺憾千万な事には、その正木先生が、この一個月以前に、突然、私に後事を托されたまま永眠されたので御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あなたのおっしゃるのは御尤ごもっともなようですから、わたくしはおいとまをいたしましょう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
『だまれっ。——最前さいぜんから、何を訊ねても、ただ御尤ごもっともで、御尤で、とばかり申し居って、それでは一向に量見りょうけんが、わからんではないか。和解いたすのか、せぬ気か、はっきりとお答えせいっ』
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、芳子はほとん喧嘩けんかをするまでに争ったが、矢張だんとしてかぬ。先生をたよりにして出京したのではあるが、そう聞けば、なるほど御尤ごもっともである。監督上都合の悪いというのもよく解りました。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
御尤ごもっとものことです。就職試験といふわけですね。然し、手紙にも申上げてある筈ですが、僕は学校で経済を学んだこともなく、特に株に就いでは全くの門外漢で、ただ霊感の能力をお貸してこれを
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
これも御尤ごもっともには違ないが、いくら騎兵だって年が年中馬に乗りつづけに乗っている訳にも行かないじゃありませんか。少しは下りたいでさア。こう例をげれば際限がないから好加減いいかげんに切り上げます。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、御尤ごもっともです。——すると、兇行の時間は、十時……?」
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それはただ伺っていますと、かなり御尤ごもっともなようですが
御尤ごもっとももなる仰せ……」
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうも全く孝助はらないようにございます、お腹立はらだちの段は重々御尤ごもっともでござりますが、お手打の儀は何卒なにとぞ廿三までお日延ひのべの程を願いとう存じます
もう矢もたてもたまらず、直ちに大島氏の家に行って、右の趣を述べ、大島老人は物の能く分る人ゆえ、引き留めもせず、誠に御尤ごもっともだといって機嫌きげんよく暇をもらい
従者 お驚き遊ばすは御尤ごもっともでござりますが、唯今は驚いてばかりいる時ではござりませぬ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御尤ごもっともでござりますとも。……まだ胎内おなかります内に、唯今の場末へ引込ひっこみましてな。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空論ばかりにては傍人に解しがたく、実例につきて評せよとの御言葉御尤ごもっともと存候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
利家の威も強く徳もあり器量も有ったので上首尾に終ったのである、殿下が利家に此事を申付けられたのも御尤ごもっともだった、というので秀吉までがめられて、氏郷政宗の仲直りは済んだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「……御尤ごもっともです……では全部纏めまして、おいくら位……」
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御尤ごもっともだと申します。
御尤ごもっともです。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
御尤ごもっともの彦兵衛
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御尤ごもっともさまでございますけれども、私共わたくしども夫婦の者は、萩原様のお蔭様でようやく其の日を送っている者でございますから、萩原様のおからだにもしもの事がございましては
「なるほど、お考えは一応御尤ごもっともと存じますが、しかし木の方は幾人ありますか」
師匠と親は無理なものと思え、とお祖師様が云ったとよ。無理でも通さにゃならねえ処を、一々御尤ごもっともなんだから、一言もなしに、御新造も身を退いたんだ。あんなにお睦じかった、へへへ
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町野も合点の悪い男ではなかった。老眼に涙を浮べて、御尤ごもっともの御仰と承わりました、然らばそれがし一期いちごの御奉公、いさぎよく御先を駈け申そう、と皺腕しわうでをとりしぼって部署に就く事に決した。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「は、御尤ごもっともでございますな」二人の刑事も同意見であった。千住警察署の警官達や法官や医者が来た頃には大方の目星や手筈まで武東氏の胸中には出来上がっていて命令めいを下すばかりになっていた。
えゝ御尤ごもっともでございやす、あれだけの御身代が東京へ来て、裏家住うらやずまいをなさろうとは夢にもわっちは存じやせんでした、お嬢様もちいさかったから私も気が付かなかったが
私たち技芸員はまことに御尤ごもっとものことであると存じたわけでありました。
はい、はい、御尤ごもっともで。実はおかを参ろうと存じましてございましたが、ついこの年者としよりと申すものは、無闇むやみと気ばかりきたがるもので、一時いっときも早く如来様にょらいさまが拝みたさに、こんな不了簡ふりょうけんを起しまして。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誠にどうも御尤ごもっともで、お前さんは感心な方で、お前さんの御亭主をわたしが悪くいっては済まんが、此の文面の様子では、三年あとお前さんを女房に持ってから、志を見抜いて
「……御尤ごもっとものお言葉で……その狆は誰方どなたがお持ちなんですか」
しばらくお待ち下さい、其のお腹立はらだち重々じゅう/″\御尤ごもっともでございますが、お嬢様がわたくしを引きずり込み不義を遊ばしたのではなく、手前が此の二月始めて罷出まかりいでまして、お嬢様をそゝのかしたので
「いかにも御尤ごもっともです」
女「はい、お忘れは御尤ごもっともでございます、わたくしは三宅島に居りまして、いろ/\お世話どころではございません、一命をお助け下さいました八丁堀阿部忠五郎の娘お瀧でございます」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
成程至極御尤ごもっともの儀ではございますが、別段わたくしが其の親から頼みを受けたということもなし、世帯道具を残らず置いて娘の行方を尋ねに参った事で又帰る様な事に成りましょうから
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今日こんにち生憎あいにく主人が下町までまいって居りませんから、手前は帳場に坐っている番頭で、御立腹の処は重々御尤ごもっともさまでございますが、何分にもへえ、全体お前さんが逆らっては悪い
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その御不審は御尤ごもっともですが、越後にいる時分この山中に迷っている美人があると云うことを風の便りに聞きましたから、江戸に帰る途中、もしやと思って昨日きのうから捜した甲斐あって
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
豐「御尤ごもっともでございますよ、でもうせあるのはあるのだね、私が死ねば添われるから、何卒どうぞ添わして上げたいから云うのだよ、新吉さん本当に私は因果だよ、私は何うも死切れないよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貴方は親の耻になると云うは御尤ごもっともだけれども、何もこれは決して言いませんよ、誰が聞いても……わたしは随分お饒舌しゃべりだが、旦那にむかえばわしだって言わぬと云ったら決して言いませんから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)