店者たなもの)” の例文
第一若いお客といへば、まあお店者たなものか独身ものの勤め人なんだから、深くでもなれば、お互ひの身の破滅ときまつてゐるんですからね。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
唐桟とうざん素袷すあわせに高足駄を突っ掛けた勘弁勘次は、山谷の伯父の家へ一泊しての帰るさ、朝帰りのお店者たなものの群の後になり先になり
性わるとか、おんなたらしなどと云われる客は、かえって扱いよかったが、若い職人とかお店者たなものなどで、本気になってかよって来る者には困った。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もうヘベレケに酔っ払った吉原よしわら帰りのお店者たなものらしい四五人づれが、肩を組んで調子外れの都々逸どどいつ怒鳴どなりながら通り過ぎた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
石に腰掛けて甘酒を飲んでいるお店者たなものもあった。柳の並木が茂りつづいている時分のことで、岸から石垣の下の方へ長く垂下った細いえだが見える。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
典型的なお店者たなもので、物柔かな調子や、蒼白い顏や、物を正視することのできない臆病な態度など、岡つ引に取つては、くみし易い方ではありません。
むむ、宇吉か。お前はなかなか景気がいいな。お店者たなものの小僧のくせに、蕎麦屋へ来て天ぷらにあられとは、ばかに贅沢を
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お構いなくかれるかえ、人情としておめえの飛び込むのを見て、アヽうかといって往かれねえじゃアねえかんで死ぬんだよ、店者たなものだから大方女郎のつかい込みで
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今までたしかに日傘の中に忍ばされていたと思われたあのお店者たなものからすり取った紙入れが、もういつのまにか位置を換えて伝六の懐中にねじ込まれていたものでしたから
ちょうど夕食の時間ではあるが、この辺はお店者たなものの縄ばりで、彼らはお店で食事をいただくから、こういう飲み屋を利用するのは夜更けに限るらしく、あんまり客はいなかった。
夕刻から夜に掛けてお店者たなもの並びに職人のわいわい連中が押して来て非常な騒ぎとなる。
夜更けて湯帰りのお店者たなものや堀江新町あたりの素見ぞめき帰りが好んで立ち寄るここの店では、美味しい美味しい白味噌汁へ、注文次第で烏賊でも蛸でも鱧でもを投り込んで食べさせてくれる。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
障れば絶ゆる蜘の糸のはかない處を知る人はなかりき、七月十六日の夜は何處の店にも客人入込みて都々どゝ端歌はうたの景氣よく菊の井の下座敷にはお店者たなもの五六人寄集まりて調子の外れし紀伊の國
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
約束通り貴殿きでんに渡し今日は寛々ゆる/\小夜衣にあうて行んと來りしに仁術じんじゆつ家業かげふの身を以て現在げんざいめひの小夜衣をも知ぬ抔とは何故なりや然すれば我を店者たなものと最初よりして見侮みあなどの小夜衣をばとなし我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
最近彼の運も少しは好くなつてゐたが、客としてあがつてくる若いお店者たなものなどを見ると、つい厭な気がして、弟の境涯きやうがいを思ひやつた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
典型的なお店者たなもので、物柔かな調子や、蒼白い顔や、物を正視することのできない臆病な態度など、岡っ引にとっては、くみしやすい方ではありません。
栄三郎が、黙って振り向くと、前垂れ姿のお店者たなものらしい男が、すぐ眼の下で米きばったのようにおじぎをしている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
新どんと言って、いくらか旦那の遠い縁つづきに当るとかで、お店者たなものらしく丁寧な口の利きようをする人であった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つけ板のまわりにはほかに二人、お店者たなものらしい中年の男が、この店のかみさんの酌でひっそりと飲んでいた。房二郎はあいそのない亭主の言葉にむっとした。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちょうど仁王門におうもんの手前——その手前までさしかかったところで、はしなくも向こうから日本橋あたりのお店者たなものらしい若い男が、お参りをすまして帰ってきたのに行き合わせると
今から一と月ほど前にお店者たなものらしい四十格好の男がたずねて来て、お定を門口かどぐちへ呼び出して何かしばらく立ち話をした上で、ふたりが一緒に連れ立って出て行ったことがあると
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今長兵衞が橋の中央なかばまで来ると、上手うわてに向って欄干へ手を掛け、片足踏み掛けているは年頃二十二三の若い男で、腰に大きな矢立を差した、お店者たなもの風体ふうていな男が飛び込もうとしていますから
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
障れば絶ゆるくもの糸のはかない処を知る人はなかりき、七月十六日のは何処の店にも客人きやくじん入込いりこみて都々一どどいつ端歌はうたの景気よく、菊の井のした座敷にはお店者たなもの五六人寄集まりて調子の外れし紀伊きいくに
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平次と島吉はまず幾松の行李こうりを引出しました。ふたを払って見ると、中はお店者たなものの着換えが一と通り詰まっているだけ。
皆角帯、前垂掛で、お店者たなものらしく客を迎えている中で、全くの書生の風俗なりが、巻きつけた兵児帯へこおびが、その玻璃ガラスに映っていた。実に、成っていなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と聞くと、そこらにいた町の人々、気の早いとび人足や、お店者たなものなどが、ワイワイ与吉の前に立ちふさがって
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こんなざまにしたなあ誰だ、素っ堅気のお店者たなもの、これっぽっちも世間の汚れを知らなかった者を、だまし放題に騙しゃあがって、大恩ある主人の金を持ち逃げさせ
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どこかお店者たなものらしい若者でしたが、遠目に見届けたときのとおり、おりよくもそのときが断末魔へいま一歩という危機一髪のときでしたが、まだ肢体したいにぬくもりがありましたので
さわればゆるくもいとのはかないところひとはなかりき、七月十六日の何處どこみせにも客人きやくじん入込いりこみて都々どゝ端歌はうた景氣けいきよく、きく下座敷したざしきにはお店者たなもの五六人寄集よりあつまりて調子てうしはづれし紀伊きいくに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれは店者たなものの習いとして夜なかに早帰りをしなければならなかった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中肉中背で、あまり陽に當らない蒼白い顏もお店者たなものらしく、悧巧さうな眼、赤い唇など、何んとなく女性的な感じはするが、いかにも好い男振りです。
旅仕度に身をかためたお店者たなものらしい若い男が、振分けの小荷物を肩に、道中差しの短い刀をめちゃくちゃにふりまわしながら鼠のようにこっちへ飛んでくる
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
下腹をあげられたやつは跼んだまま、まだうめいていたし、さぶに掴みかかった男は、吃驚して棒立ちになった。縞の着物に角帯だから、お店者たなものとあまくみたのであろう。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうだ、そうだ。いいところへ気がついた。小僧がいつまでも帰らなけりゃあ、新次郎は心配して出て来るに相違ねえ。だが、相手は店者たなものだから、そう早くは出られめえ。今夜は夜ふかしと覚悟して、今のうちに腹を
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兩國の橋のたもとの雪駄直しが、お店者たなものや水茶屋の姐さん連の文の受け渡しをして、飛んだ甘い汁を吸つてゐようとは、錢形平次も思ひ及ばなかつたのです。
どこから見ても相当工面のいいお店者たなものという風俗で、待遠しそうに土間のかまちにきちんと腰をおろしている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ばなすすり啜り僅かな銭をせびるんだ、どんなに僅かでもまだ小僧の身には痛かった、けれどもいやじゃあなかった、店を閉めたあとの買食いはお店者たなものの楽しみの一つになっている
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
店者たなもの風の四十男、しぶい好みですが、手堅いうちにも贅があつて、後金の緩んだ雪駄を穿く人柄とは見えません。
店者たなものていのが、わらい絵らしいのを手早く買って、逃げるように出て行くところだった。
あの顔 (新字新仮名) / 林不忘(著)
店者たなもの風の四十男、渋い好みですが、手堅いうちにもぜいがあって、後金の緩んだ雪駄を履く人柄とは見えません。
起上りざま鼻をりつけんばかりにして見ると、武家屋敷出入の骨董屋の手代とでも言いたいお店者たなものあけに染んで倒れていて、初めは二人かと思ったほど、上半身が物の見事にかれていた。
平次と島吉は幾松の行李かうりを引出しました。ふたを拂つて見ると、中はお店者たなものの着換へが一と通り詰まつてゐるだけ。
「ところで、あの足音だ、——後金あとがねゆるんだ雪駄せつたを引摺り加減に歩くところは、女や武家や職人ぢやねえ、落魄おちぶれた能役者でなきア先づ思案に餘つたお店者たなものだ」
これは典型的なお店者たなもので、少々輕薄らしくはあるが、色白で顏の道具が華奢で、なか/\の好い男でした。
「ところで、あの足音だ、——後金あとがねの緩んだ雪駄せったを引摺り加減に歩くところは、女や武家や職人じゃねえ、落魄おちぶれた能役者でなきゃアまず思案に余ったお店者たなものだ」
固い一方で通つた男、三十五まで獨り者で暮したお店者たなものが、金覆輪きんぷくりんのお職華魁と、生れて始めて口をきいたんだから、フラ/\になつたのも無理はありませんよ。
「堅い字でした。今時あんな字を書く者は滅多にありません。女子供やお店者たなもの筆跡じゃございません」
「堅い字でした。今時あんな事を書く者は滅多にありません。女子供やお店者たなもの筆跡ぢや御座いません」
万一そんなことが知れちゃ、お店者たなものは一代の恥っかきだ。——八五郎が帰って来て幾松が一と晩安宅を動かなかったと解れば、小三郎を縛ってまず間違いはあるまい。
日本橋の東詰の晒し場、この間まで相對死の片割れの、不景氣なお店者たなものを晒してゐた筵圍むしろがこひの中に、五十前後の立派な中老人が、死骸になつて晒されてゐるといふのです。