因業いんごう)” の例文
仕切りの金目垣かなめがきは、いやが上にもよく茂り、野良犬の通路とも見えるかなりの穴が一つある外には、木戸一つない因業いんごうなものでした。
小鳥ことりつたこともないという、ごうつくばりの因業いんごうおやじが、なぜ金魚きんぎょになつたか、そのてんにも問題もんだいがないことはない。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「質屋といえば、因業いんごうときまっているが、奈良井屋さんは、よく貸してくれる。旦那の大蔵様は、苦労人でいらっしゃると……」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
因業いんごうな養父母、植源の隠居、それらの人達から離れて暮せるということを考えるだけでも、手足が急に自由になったような安易を感じた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこへ抱主かかえぬし因業いんごうで、最近持上った例の松村という物持の身受話が段々うるさくなり、うんというか、借金を倍にしてほかへ住みかえでもするか
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これほど細君の病気に悩まされていた健三は、比較的島田のためにたたられる恐れをいだかなかった。彼はこの老人を因業いんごう強慾ごうよくな男と思っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
馬鹿な話さ、保養に来ていながら働くことを考えるのが何よりのたのしみだ。因業いんごうのようだがわしはこれだから兎に角世間並にやって行けるのだと思う。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むしろ私は、私にああした汚点を浸み込ませたのだ——と思うところの、——私の祖母のけちと因業いんごうとに無限の憤りを感ぜずにはいられないのだ。
ところがその居酒屋の親爺なる人物が又、人気の荒い大浜界隈でも名打ての因業いんごうおやじでナカナカそんな甘手あまて元手喰式さやくい慣用手段いんちきに乗るおやじでない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「邪険でも因業いんごうでも、吾、何にも構わねえだ。旦那様のおっしゃる通りきっと勤めりゃそれで可いのだ。」
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
使い道を知っているところへは、金というやつは廻って参りません、因業いんごうなやつでございますねえ
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
過去の因業いんごういまだ尽きず、つたなきすゑものつくりにこねられてかかる見にくき姿とはなりける。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
因業いんごうそうな爺やの顔がふいとその瞬間鮮かに浮んで来ただけ、その閉された小屋は妻がそれをうす気味悪がった以上に、私自身の心に暗い影を与えているにちがいなかった。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
アオーイ鰌屋どじょうや、いくらだ一升、ウ、たけえ高え負けろ、もう二文負けろィ、あれ因業いんごうだな、ヤイ負けねえとぶンなぐるぞ、ア負けたか感心なんまいだぶなんまいだぶ、オイ婆さん
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
因業いんごうじじいだとか、厄病神だとか、早くくたばっちまえとかさ、ところが、——或るとき躯の調子がおかしくなり、医者に診てもらうと、腰椎ようついカリエスだということがわかった」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
会うがいじゃねえか、事にって金でも呉れさしったら、その金で路用も出来るてえもんだ、二つにはまたが亭主の居所も知れるかも知れねえだ、そんな因業いんごうなことを云わねえで
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
青年二 因業いんごうなこと言うなよ。新しいの汲んで来てやったら文句はないだろう。
その頃段々と家運の傾きかけた祖母の家では前宗(前島宗兵衛)に、十万両と云う途方もない借財をこしらえていましたが、前宗と云う男が、聞えた因業いんごう屋で、厳しい督促が続いたものですから
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その方を見ると、きいろな頬の肉の厚いちょいと因業いんごうらしい婆さんですよ。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
因業いんごうな恥知らずのお茶飲みで、二十年間も食事を薄くするにただこの魔力ある植物の振り出しをもってした。そして茶をもって夕べを楽しみ、茶をもって真夜中を慰め、茶をもってあしたを迎えた。」
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ところがその長屋の大屋さんですがちょっとした物持ちでしてな、因業いんごうだったので憎まれていましたが、大屋のうえに金持ちなので歯が立たず、店子たなこたちは歯ぎしりしながらも追従ついしょうしていたそうです。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さういふ或る夜のこと、お銀ちやんの家では例の十七の女——八重ちやんが、うつかりして因業いんごうなひやかし客を呼び込んだ。二人は、呼び込み口の内と外とで、引つ張つたり引つ張られたりしてゐた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
「さあ、あれで因業いんごうな事が出来るだらうか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「なんて因業いんごうな娘つ子だらう」
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
因業いんごうな生まれだなあ」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
割り算は因業いんごう
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
少しも面白くはありません。番頭の庄七は因業いんごうなことに商売のことしか掛引を知らねエ。——さア、何とか、返答せいッ——と脇差を
貧しい作男の哀願に、堅く財布の口を締めている養父も、傍へお島に来られてくちれられると、因業いんごうを言張ってばかりもいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おい、天堂、そいつは少し因業いんごうすぎるだろう。宅助の事情も聞いてみればもっともなところがある」とお十夜がなかをとって
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて英国にいた頃、精一杯せいいっぱい英国をにくんだ事がある。それはハイネが英国を悪んだごとく因業いんごうに英国を悪んだのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この算用を算盤そろばんぱちぱち、五を引いて二が残り、たった三厘の相違があってもたぶさつかんで引摺倒ひきずりたおそうという因業いんごうな旦那を持ってるから、夜の更けるまで帳場に坐って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかえしに、色仕掛いろじかけで、たらしこんでしこたまかねさせてやろうとかんがえたつてわけ。ところが、ほんとうに因業いんごうおやじでどうにもならない。おまけに、嫌疑けんぎまでかけられてさ。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「差配の因業いんごうじじい、お梅ばばあのしみったれ」と彼は喚いた
客「どうだもうけえろうじゃアねえか、因業いんごう武士さむれえ畜生ちきしょう
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何という因業いんごうな事でしょう
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
慾が深くて因業いんごうで、若い時からずいぶん人を泣かせてきた様子ですから、どこに深怨しんえんやいばぐ者があるかもわからない情勢です。
「うんにゃ、四匹の虎を退治したあげく、こんどは自分が虎になって、あの因業いんごう旦那のそうに密告され、たったいま、県役署へ曳かれて行った」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんぼ因業いんごうだって、あんな因業な人ったらありゃしないよ。今日が期限だから、是が非でも取って行くって、いくら言訳をいっても、すわり込んでいごかないんだもの。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
騒ぐまいてや、やい、嘉吉、こう見た処で、二と一両、貴様にかしのない顔はないけれど、主人のものじゃ。引負ひきおいをさせてまで、勘定を合わしょうなんど因業いんごうな事は言わぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それほど性根しょうねには分っていながら、なんで因業いんごう旦那と有名な曹家そうけの酒なぞ食らやがって、いい気になってしまったのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘエ、——まア、私も悪いには違いありませんが、あんまり因業いんごうだから、ツイ、面白くないこともありました。
「ええ、蚊がくうどころのことじゃないわね。お前もあんまり因業いんごうだ、因業だ、因業だ。」
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「女房は鼻で斃れ、主人は因業いんごうで斃れ、子分は探偵で斃れか」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
村の曹閑人そうかんじんというのは、ひどく因業いんごうで欲張り者という評判で有名な小長者だが、これを聞くと、自身、門を開いて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あ、因業いんごう佐野喜の親爺おやじか、この春の火事で、女を三人も焼き殺したうちだ。下手人げしゅにんが多すぎて困るんだろう」
唯今ただいまは御慮外をいたしまして、恐入ってござります。命をつなぐためとは申せ、因業いんごう活計くらしでござりまして、前世さきのよの罪が思い遣られまする。」と啜上すすりあげて、南無阿弥なむあみと小声にて唱え
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殺されたのは、雑司ヶ谷きっての大地主で、とら旦那という四十男、けち因業いんごうで、無慈悲で乱暴だが金がうんとあるから、殺されたとなると世間の騒ぎは大きい。
「後家のお嘉代かよというのが荒物屋をやって、内々は高利の金まで廻しているという名代の因業いんごう屋だろう」
「言ったよ、待ったなしと言ったに相違ないが、そこを切られちゃ、この大石たいせきがみんな死ぬじゃないか。親分子分の間柄だ、そんな因業いんごうなことを言わずに、ちょいとこの石を待ってくれ」
「桶屋の甚三郎じんざぶろうと言や、日本橋で知らない者のない因業いんごうな片意地な人間ですぜ」