原野げんや)” の例文
そしてこの草は中国の北地、ならびに満州〔中国の東北地方〕には広く原野げんやに生じているが、わが日本にはあえて産しない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それは痩せた土地である。背の低い草が一面に生えていて、一望千里の平らな原野げんやである。光は弱く、空も草原も鼠色の一色に塗り潰された世界である。
八月三日の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
利根とね水源すゐげん確定かくていし、越後えちごおよ岩代いわしろ上野かうずけの国境をさだむるを主たる目的もくてきとなせども、かたは地質ちしつ如何いかん調査てうさし、将来しやうらい開拓かいたくすべき原野げんやなきやいなや良山林りやうさんりんありやいなや
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
西にし神通川じんつうがは堤防ていばうもつかぎりとし、ひがし町盡まちはづれ樹林じゆりんさかひし、みなみうみいたりてき、きた立山りふざんふもとをはる。此間このあひだ見通みとほしの原野げんやにして、山水さんすゐ佳景かけいいふべからず。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
阪を上って放牧場の埒外らちそとを南へ下り、ニタトロマップの細流さいりゅうを渡り、斗満殖民地入口と筆太ふでぶとに書いた棒杭ぼうぐいを右に見て、上利別かみとしべつ原野げんやに来た。野中のなかおかに、ぽつり/\小屋が見える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なにしろ、そのころの鉄道てつどうといったら、人の足あとどころか、北海道名物ほっかいどうめいぶつのからすさえもすがたを見せないような原野げんやひらいて通したのだから、そのさびしさといったらなかった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
ここはその試験場であるが、見渡すばかりの原野げんやであった。方々に、塹壕ざんごうが掘ってあったり、爆弾のため赤い地層のあらわれた穴が、ぽかぽかとあいていたり、破れた鉄条網てつじょうもうが植えられてあったり。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さて徳太郎君は和歌山わかやま城下じやうかは申すにおよば近在きんざいなる山谷さんこく原野げんやへだてなく駈廻かけめぐりて殺生せつしやう高野かうや根來等ねごろとう靈山れいざんのちには伊勢いせ神領しんりやうまであらさるゝゆゑ百姓共迷惑めいわくに思ひしが詮方せんかたなく其儘そのまゝ捨置すておきけりこゝに勢州阿漕あこぎうらといふは往古わうこより殺生禁斷せつしやうきんだんの場なるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
北海道の開拓民たちが、遙々と内地の村から移り入るいわゆる原野げんやのことを語ろうとするならば、まず北海道の広さについての正確な概念をつくる必要がある。
荒野の冬 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
えきみぎると、もう心細こゝろぼそいほど、原野げんや荒漠こうばくとして、なんとも見馴みなれない、ちぎぐもが、大円だいゑんそらぶ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
茫漠ぼうばくたる原野げんやのことなれば、如何に歩調をすすむるも容易やういに之をよこぎるをず、日亦暮れしを以てつゐに側の森林中しんりんちうりて露泊す、此夜途中とちう探集さいしふせし「まひたけ」汁をつく
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
今残されている所は釧路や根室の原野げんやの湿地帯か、それで無ければ泥炭地方である。
泥炭地双話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
洋々やう/\たる大河たいがとも漠々ばく/\たる原野げんやむ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
街を一歩出ると、人家はもちろんなく、畑の形跡さえ見られない未墾の原野げんやである。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
豊原を出ると間もなく、汽車はもう荒れた未開墾の原野げんやの中を走っていた。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
長い排水溝を掘り、新しい土を入れて、三十年の年月をかけて、一望千里の原野げんやの中に、数町歩の畑を作る。そして篤農家という名前を貰って、小さい賞状を額に入れて爐の上に飾るのである。
泥炭地双話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)