卯木うつぎ)” の例文
雨露次夫婦が、いや、服部治郎左衛門元成と妻の卯木うつぎが、その夜、初瀬蛍はつせほたるの吹き舞う川音のなかで、兼好へ虚心に語ったものである。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯木うつぎの花が咲いている。石榴ざくろの花が咲いている。泉水に水どりでもいるのであろう、ハタ、ハタ、ハタと羽音がする。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
予ハ実ノトコロ予ノ長男デアリ卯木うつぎ家ノ嗣子デアル浄吉ノコトヲ、殆ド何モ知ルトコロハナイ。大切ナ忰ノコトニツイテコレホド無知ナ父親ハ少イダロウ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼等かれら少時しばし休憩きうけいにもかならたふしたむぎしりいてしろ卯木うつぎしたわづかでもける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
したくと學士がくし背廣せびろあかるいくらゐ、いまさかりそらく。えだこずゑたわゝ滿ちて、仰向あをむいて見上みあげると屋根やねよりはたけびたが、つゐならんで二株ふたかぶあつた。すもゝ時節じせつでなし、卯木うつぎあらず。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
外向に咲かたがるや卯木うつぎ垣 四睡
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「子供は強いなあ。子供にはかなわんよ。大人どもはつい妄想だけでも疲れはてる。……子といえば、卯木うつぎ妊娠みごもっているということだが」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯木うつぎと一緒に、小丘のように盛り上がってい、その裾に、栗色の兎が、長い耳を捻るように動かしながら、蹲居うずくまってい、桜実さくらんぼのような赤い眼で、栞の方を見ていたが
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あめふくんだくも時々とき/″\さへぎるとはいへ、あつのもとに黄熟くわうじゆくしたむぎられたときはたけはからりとつて境木さかひぎうゑられてある卯木うつぎのびつしりといたしろはな其處そこにも此處こゝにもつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひどくなつかしがってから、雪子たちもこの木に注意するようになり、仏和辞典を引いてみて、日本語では「さつまうつぎ」と云うところの卯木うつぎの一種であることを知ったが、この花の咲くのは
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すでに、宵の打合せで、小右京にはつづみをたのみ、元成が太鼓を勤め、卯木うつぎは笛を持つことになっていた。地謡じうたを謡い出たのは老法師右馬介である。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中門の側まで来た時であったがつきの木の大木が立っていて、その裾に萩と卯木うつぎとのくさむらが、こんもり丘のように繁っていたが、その蔭から男女の声が、ヒソヒソとしてきこえて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
帰りしなに、正成から、或ることづてをうけていた正季は、城内へはいるとすぐ、妹の卯木うつぎの良人、服部治郎左衛門元成を、武者溜りからよびだして
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一所ひとところ岩が飛び出していた。一面に苔が生えていた。そこにあたかも雪のように、純白の花を開いているのは、富士植物の踊子卯木うつぎで、卯木の花は散っていた。微風がソヨソヨとそよぐからであろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「……よし。わしから明朝言ってきかせよう。正行も十五、男の子だ、そうあっても一概には叱られまい。ところで……久子、卯木うつぎから何か聞いたか」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「また、お内儀もそのかみは、後宇多院ごうだいんのみきさき西華門院せいかもんいんのお内で、雑仕ぞうし卯木うつぎと仰せありし小女房でおわしたの」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、久子でございます。めずらしいお方がただいま御門へ見えられました。卯木うつぎさまと仰っしゃるおいもさまが」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——烏丸からすまどのが御自慢の家臣元成と、西華門院の雑仕ぞうし卯木うつぎは、火もおろかな仲とみゆるが、さて、千種殿ちぐさどのの弟君が、だまって指をくわえていようか」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お妹の卯木うつぎさまが、ついさき頃、御安産なされました。まだ産屋囲さんやがこいのうちにおせりではございますが」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
疎開先から、もとの家郷かきょうへ帰るのだ。めでたいに違いない。けれど卯木うつぎ夫婦は淋しげであり、久子が三郎丸を抱いて輿こしに乗るまぎわまで、別れを惜しみあっていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、爺の左近や南江正忠などに、消息を告げ、晩には、卯木うつぎと元成の夫妻へも、それを示して
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
封は卯木うつぎと元成の夫婦ふたり名前になっているが、筆つきからみて、良人の元成がしたためたものらしい。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆に、あんなにまで、芸道へ生きたいといっていた元成と卯木うつぎの夫婦すらも、ついに時の浪にさらわれて、余儀なく以前の武士に返ったと、昨日の便りでは告げていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんの、忘れては正成こそ相すまぬ。——あの夜、妹の卯木うつぎ夫婦の者は、お辺に救われて河内を
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、母やら卯木うつぎへの土産も買って、やがていそいそ、従者十騎と共に河内へ帰って行った。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「治郎左。卯木うつぎ妊娠みおもだと聞いていたが、この陣中暮らし、体のほうはどうなのか」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日、卯木うつぎ夫婦が連れていた若者は、幼名を観世丸かんぜまるといっていたが、やがて観世を姓に直して、まだ二十五の若手ながら、大和結崎座やまとゆうざきざの観世清次せいじと、未来を嘱望しょくもうされている者だった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、仰せはおつたえ申しましたが、今日は卯木うつぎさまのお頼みで、これを」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正成はさっきから赤鶴しゃくづるの仕事にしげしげと見とれていた。天野沢あまのさわの金剛寺前に住んでいる仮面打めんうちの老人で——越前の遠くから移住してきた者だと、この道にくわしい卯木うつぎ夫婦から聞いている。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、卯木うつぎが、家来どもの疎漏そろうを悔やむと、良人の服部治郎左衛門元成も
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蔦王つたおうに持たせてよこした卯木うつぎの短冊にも
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……さ、元成どの、卯木うつぎどの
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)