かくま)” の例文
「何を隠そう、そうした心は拙者とても同じであった。川長の離れ座敷で、銀五郎や多市などとともに、そちにかくまわれていた頃から」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
して、当地に来ていることまでは気付かぬらしいが、もしそれが分ったら無事には済むまい。それで当分この屋敷におかくまい申そうと思う
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お玉さん、退引のっぴきならねえ行きがかりで、俺もその人をかくまっているんだ、誰にも知られてはならないが、お前は別だから連れて来たんだ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
取此所を立出て島田宿なる水田屋藤八方へ到り豫て侠氣をとこぎの事を聞及べば是迄の始末を語り當分我等兩人をかくまひ呉る樣にと只管ひたすらたのみけるに男を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんのつもりでこんなことを始めたのか、また、四人の娘がどこに押しかくまわれているのか、今までの段取りではまるっきりあたりがつかねえ。
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
衆生済度しゅじょうさいどを旨と致すわれら仏弟子が、救いを求めてすがり寄る罪びとを大慈大悲の衣の袖にかくまうたとて何の不思議がござる。
「そういったものだろうな、——ところで、宗次が立ち廻ったら、早速届けて貰いたいが、かくまったりすると、大変なことになるが——承知だろうな」
武士の意地で殺し、意地からかくまい、意地で来た助太刀である。いつでも対手になってやるという覚悟で、勿論鎖帷子、白昼堂々と槍を立てて又五郎は行く。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
帯刀をする身の上で有りながら、この半治や小兼に比ぶればわれは虫よりも悪い奴だ、殊には己が助けて上総の天神山の松屋にかくまって置く手前の女房お蘭は
かくまわれているのを知っているとか言って出てくる者があれば、それは犯人か犯人のまわし者にきまっている。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
娘にかくまわれるようにして立っていたのだが、それにしては、本人も、顔いろ一つ変えていないし、第一、あるじの壁辰が、落ちつき払って坐りこんでしまった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
やがてそんな登勢を見こんで、この男をかくまってくれと、薩摩屋敷から頼まれたのは坂本龍馬だった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
つまり雨宮紅庵は惚れた女を連れ出しはしたもののかくまふ場所に窮して、安全な隠れ家を探したあげく、伊東伴作に女を一時まかせておくといふ手段のあることを発見した。
雨宮紅庵 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼らは一軒の家をも、おのれの思い出をかくまうべき一隅の場所をも、もってはいない。彼らの喜び、彼らの苦しみ、彼らの日々はすべて、風のまにまに吹き散らされている。
あなたさえ安全な場所へおかくまいすれば、僕は思う存分あいつと一騎討が出来るというものです。あなたの替玉になる男も、実は用意をして、ある場所に待たせてあるのです。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「山霊訶護かご」という題で、山姥やまんばが木に寄掛っていると、其処に鷲が来て、それに対して山姥が山の小動物をかくまっている態のものだが、これは父が苦しんで一所懸命やった彫刻だった。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
一旦そこへ飛び込んだら、どんな悪業の人間でも、かくまってくれるということだ。恐らくそこにいるだろうよ、お前の目差す二人もな。尼僧と聞いては色気がねえ。有髪とあってはそうでもねえ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どんな人間でもかくまう穴や、小道の多い東京へまた戻る決心をした。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
予は快くかくまいつ。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上にも、まことに無理なお願いであるが、どうか拙者をこのままかくまって、かすみうら常陸岸ひたちぎしか、鹿島かしまの辺まで便乗させてもらえまいか
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先月十六日の夜、そのほう居宅に伊原友三郎が逃げこみ、かくまってくれと頼まれたそうだが事実であるか」と滝沢が訊問じんもんした
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
与兵衛がこれほどにかくまてをするその人は、いかなる人で、何の義理があるか、それらもまたお玉にはわかりませんでした。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其方儀先代せんだい嘉川平助におんも有之り候由にて藤五郎藤三郎建部たてべ郷右衞門ばんすけ十郎右四人かくまひ候だん深切しんせつ致方いたしかたに候得共えども身分不相應さうおうなる儀につき以後法外之なき樣心掛べし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「兄が弟をかばうのは無理もないが、諸人の迷惑、公儀の御手数を考えて、この辺で白状したらどうだ。かくまった罪は、兄弟の情誼よしみを考えて、この場限り忘れてやるが——」
「控えさっしゃい。荒してならぬ霊地に怪しき女掏摸めが徘徊はいかい致せしところ見届けたればこそ、これまで追い込んで参ったのじゃ。御僧それなる女をかくまい致す御所存か!」
与力満谷剣之助の前でわざと喬之助を喧嘩渡世の茨右近と見誤みあやまり、そこへかくまえと言わんばかりに教えたのも、この日本橋長谷川町の岡っ引き金山寺屋の音松ではなかったか。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もう大分弥次馬やじうまが出ていて、あの古道具屋が休憩所みたいになってしまったのだから、犯人の逃げ出す暇はなかった筈ですが、まさかあの老人達が共犯者で犯人をかくまったと思えませんからね
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
われが改心致せばい女房を世話して遣ろうと云ったは松屋にかくまってあるお蘭の事だ、手前全く改心致せば、れ程までに思うお蘭の心を憫然ふびんに思い、山三郎媒介なこうどいたして連添わせようと申したのだ
中野お犬小屋の犬を、一夜に何十匹も殺した天下の悪戯者いたずらものは、大岡十家が、知っていながらかくまいおいた同族五郎左衛門のせがれ亀次郎だと
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「助けて下さい」と次郎吉の泣き声で訴えるのが聞えた、「あっしはみんなに野詰めにされます、どうかかくまっておくんなさい」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かくまおくでう三河町に浪宅致す山口惣右衞門の白状なりとあびせかけよりては如何の筋合すぢあひ之有これあり渠等かれら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
川手氏を甲府こうふの近くの山中の一軒家へかくまったことは、先日お話した通りですが、あれ程用心に用心を重ねて連れて行ったのに、どうしてこんなことになったのか、殆んど想像もつきません。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
慈悲も済度さいども時と場合によりけりじゃ。あまねき信者が信心こめた献納の祠堂金きどうきんは、何物にも替え難い浄財じゃ。それなる替え難い浄財を尊き霊地に於てスリ取った不埒者ふらちものかくまうことが、何の慈悲じゃッ。
「ちょっとの間、おかくまい下さいまし。悪ものに追われまして——」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一年半も尋ねあぐんだが知れねえんだけれども、今まで人の奉公人を無沙汰でうちへ引摺り込んで、かくまって置くは、訳の分らねえ奴と御立腹でごぜえやしょう、重々私が行届ゆきとゞきません、誠に済まねえが
「当家の離れにおった江戸の男とあの夜の虚無僧、もはやここにはおらぬそうだが、まさか、他へかくまっておくのではなかろうな」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私にもそれがなにより気懸りです、治兵衛は昔の恩義のために私をかくまってくれただけで、彼には些かもとがめられる筋はない。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「この寮にいる御曹子の新九郎と、女あるじの女郎を出せ、山手組が出向いて来たのだ。かくまい立てする分には片っ端から鏖殺みなごろしだぞ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「済まねえがちょっとかくまってくんねえ、追われているんだ」
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まア、ご心配なさいますな、どんなことをしても、夫婦でおかくまい申しますから、当分はまあ、ここでご養生でもなすっておいでなさいまし
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度は命も危ないゆえ、体のえるまで、どうかこの草庵の物置のうちでもよいからかくまってくれい——と、かようにいうのでございまするが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞いていたけど、どうして、釘勘のおじさんのうちに隠れているのだろう? 目明しのおじさんが、そんな悪党の女をかくまっていていいものかしら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甥のやったその手に限ると、兵をやって、姫を奪い、さる女院の古館ふるやかたかくまって、夜ごと夜ごと、通い初めていたのだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やあ心得ぬ仕打ち、如何なるわけで狼藉者をかくまい立てなさる。吾々は京極丹後守の家臣、尋常にその者をお渡しなさい」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほとぼりのさめたところとすきを狙って、江戸へ走ろうという魂胆。——なぜかまた、本田某は周馬の口に乗せられて、あくまで彼をかくまいだてした。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こころえ申した。たしかな者を添えて、一時扇ヶ谷へかくまい、お国元の足利ノ庄へ送らせましょう。ご安心あるがよい」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だって今、親分と言ったではないか。この間うちから、わしも少し腑に落ちないと考えているのだが、率八、お前は日本左衛門をかくまっているな」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大阪へ上陸あがった旅川周馬は、身辺の危険をさとって、わずかな縁故をたよりに、酒井讃岐守さかいさぬきのかみの蔵役人、本田なにがしの屋敷の奥に身をかくまってもらっている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『永い間、おかくまいくださいました上、皆様の御親切……。たとえ、この儘野辺の土になっても忘れはいたしません』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「で私は、ほんとに只今困っております。弦之丞様、どこかへ当分の間、私の身をかくまっておいては下さいませぬか」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)