たふ)” の例文
生憎あいにく其方そなたよろめける酔客すいかくよわごしあたり一衝撞ひとあてあてたりければ、彼は郤含はずみを打つて二間も彼方そなた撥飛はねとばさるるとひとしく、大地に横面擦よこづらすつてたふれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何物にか驚かされけむ、お村は一声きやつと叫びて、右側なる部屋の障子を外してたふれ入ると共に、気を失ひてぞ伏したりける。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
故に予は予が人格を樹立せんが為に、今宵「かの丸薬」の函によりて、かつて予が手にたふれたる犠牲と、同一運命を担はんとす。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
にはかに座より躍り上がり、面色さながら土の如く、「我豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺き玉ひしか」と叫び、その場にたふれぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一体あの後奴等の運命はどうなつたであらうか。往古にはダビデは巨漢ゴリアーテをたふした話がある。ダビデは小、ゴリアーテは大であつた。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
松ふく風物をたふすがごとく、雨さへふりて一六七ただならぬ夜のさまに、壁を隔てて声をかけあひ、既に一六八四更にいたる。
そは我面色の土の如く變じたればなるべし。われは室内へやぬちの物の旋風の如く動搖するを覺えて、そのまゝはたと地にたふれぬ。
男は何か言はうとして、僅に手先を動かしたが『阿呍うん』と一唸呻うめき、言下に反繰そつくり返つて仰樣のけざまたふれた。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
が明けて樵夫きこりが一人通り掛かつた。それが己の繩を解いてくれた。その時は己は苦痛と疲労とのために失神してゐたのである。己は気が附いて見ると、地にたふれてゐた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
きわたりたる宇宙は、水を打つたるより静かなり、東に伊豆の大島、箱根の外輪山、仙窟せんくつかもされたる冷氷の如きあしの湖、氷上をべりてたふれむとする駒ヶ嶽、神山、冠ヶ嶽
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
れ真に神を見て信ずるものの信念は、宇宙の中心より挺出ていしゆつして三世十方をおほふ人生の大樹なる乎。生命いのちの枝葉永遠に繁り栄えて、劫火ごふくわも之れをく能はず、劫風も之れをたふす能はず。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
孤鴻既に雞群に投ず、彼の才の雄なる同学の諸友をして走り且たふれしめたるや想見するにへたり。彼が線香一炷の間を課して四言三十首を作り以て其才を試みしは実に当時に在りとす。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
床のにすなほにたふ
如是 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
れてたふれ寄る身の
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
われは眠ることを期せずして、身を藁蓆の上にたふしゝに、さきの日よりの恐ろしき經歴は魘夢えんむの如く我心をおびやかし來りぬ。
時にみねたにゆすり動きて、風叢林はやしたふすがごとく、沙石まさごそら巻上まきあぐる。見る見る一二七一段の陰火いんくわ、君がひざもとより燃上もえあがりて、山も谷も昼のごとくあきらかなり。
良三は此時疲労の甚しきを覚えたので、纔に十徳を脱ぎをはり、未だ紋服を脱ぐに及ばずしてたふれ臥した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
貫一は猛獣などを撃ちたるやうに、彼の身動も得為えせ弱々よわよわたふれたるを、なほ憎さげに見遣みやりつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お春の頬に取着とりつくにぞ、あと叫びて立竦たちすくめる、咽喉のんどを伝ひ胸に入り、腹よりせな這廻はひまはれば、声をも立てず身をもだ虚空こくうつかみてくるしみしが、はたとたふれて前後を失ひけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いさごたふれ嘆くとき
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
われは限なき苦惱を覺えて、我臥床ふしどの上にたふれ臥しゝに、忽ち高熱を發して人事を知らざること三晝夜なりき。
いかにも大木たいぼくたふれたのがくさがくれにみきをあらはしてる、ると足駄穿あしだばき差支さしつかへがない、丸木まるきだけれども可恐おそろしくふといので、もつともこれをわたてるとたちまながれおとみゝげきした
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は競争者の金剛石ダイアモンドなるを聞きて、一度ひとたびけがされ、はづかしめられたらんやうにもいかりせしかど、既に勝負は分明ぶんめいにして、我は手をつかねてこの弱敵の自らたふるるをんと思へば、心やや落ゐぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
橘は根よりたふれぬ。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
その場にたふれぬ。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)