仲見世なかみせ)” の例文
しかしそれにしても刃物は剣呑けんのんだから仲見世なかみせへ行っておもちゃの空気銃を買って来て背負しょってあるくがよかろう。愛嬌あいきょうがあっていい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もと来た道へ帰ると、お水屋額堂を横に見て仁王門、仲見世なかみせの押すな押すなを右に左に人をよけて、雷門かみなりもんからそのまま並木の通りへ出た。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
はしうへかはうへにぎはひを人達ひとたち仲見世なかみせ映画街えいぐわがいにもおとらぬ混雑こんざつ欄干らんかんにもたれてゐる人達ひとたちたがひかたあはすばかり。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そのころ仲見世なかみせ勧工場かんこうばがあって、ナポレオン一世、ビスマルク、ワシントン、モルトケ、ナポレオン三世というような写真を売っていた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
真夜中に、仁王門の高欄こうらんの上から、まるで石川五右衛門みたいに、人間豹が頬杖ほおづえをついて、仲見世なかみせの通りを見おろしていたという怪談もあった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なアにさ、ここが観音くわんおん仲見世なかみせだ。梅「なにかゞございませう玩具店おもちやみせが。近「べた玩具店おもちやみせだ。梅「どれが……。近「あの種々いろんなものを玩具おもちやふのだ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
どさどさぶちまけるように雪崩なだれて総立ちに電車を出る、乗合のりあいのあわただしさより、仲見世なかみせは、どっと音のするばかり、一面の薄墨へ、色を飛ばした男女なんにょの姿。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雷門で電車をおりて、仲見世なかみせの銀花堂で、下町好みの静枝に見舞ひのお返しになるやうなものを見繕みつくろつてゐると、知つた顔の半玉が二人傍へ寄つて来て声かけた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それからこの間仲見世なかみせで、長方形の木箱のふたが、半ば引開になって、蓋の上には鼠がいて、開けると猫が追っかけて来るようになっている玩具を売ってますのを見たが
それはとにかく、その勧工場のもう一つ前の前身としては浅草あさくさ仲見世なかみせ奥山おくやまのようなものがあり、両国りょうごくの橋のたもとがあり、そうして所々の縁日の露店があったのだという気がする。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「あれ、あすこに石の鳥居が見えますよ。けれども仲見世なかみせはありませんね。」
夢の国 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
やっと終ってそこを出る時、「これから仲見世なかみせだ、何でも買って遣るよ」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
一度は私が父と一しょに浅草の仲見世なかみせを歩いているときだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
仲見世なかみせだの、奥山おくやまだの、並木なみきだの、駒形こまかただの、いろいろ云って聞かされる中には、今の人があまり口にしない名前さえあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのきざはしの前で自分は浅草の観音さまのように鳩の群に餌をいてやったが何故なぜこのお堂の近所には仲見世なかみせのような、賑やかでお土産を沢山買うような処がないのかと
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それぢやアくるませよう、うして浅草あさくさ観音くわんおんさまへれてゆかう。とこれから合乗あひのりで、蔵前通くらまへどほりから雷神門かみなりもんきはくるまり、近「梅喜ばいきさん、これ仲見世なかみせだよ。梅「へゝえ何処どこウ……。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
近きベンチへ腰をかけて観音様を祈り奉る俄信心にわかしんじんを起すも霊験れいげんのある筈なしと顔をしかめながら雷門かみなりもんづれば仁王の顔いつもよりはにがし。仲見世なかみせ雑鬧ざっとうは云わずもあるべし。東橋あずまばしづ。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
裏長屋うらながやのあるじとふのが醫學生いがくせいで、内證ないしようあやしみやくつたから、白足袋しろたびもちゐる、その薄汚うすよごれたのが、片方かたつぽしか大男おほをとこのだからわたしあしなんぞふたはひる。細君さいくん内證ないしようで、ひだり穿いた——で仲見世なかみせへ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その家は仲見世なかみせ寄りの静かな町にあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
足袋たびなしでは仲見世なかみせ出掛でかにくい。押入おしいれでふと見附みつけた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)