おっしゃ)” の例文
時々お二階の部屋へお嬢さんはお入りになりますが、その時はどんな用事でもお部屋へ申上げに行ってはならないとおっしゃいますので……
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何をおっしゃる、奥様、そんな当然至極なことを……ごもっともです……ごもっともですとも、奥様! 私こそそれをお誓いしなければなりません。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「でも、貴方は、一日を争う身だなんておっしゃっていらしったで……それほど大切な時なら、一汽車でも早く東京へ入った方が好からずと思って」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おっしゃるとおりで御座ります。春は蛙、夏はくちなわ、秋はいなごまろ。此辺はとても、歩けたところでは、御座りませんでした。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
していたのです。おかげでやっと食べものが口にはいります。このお礼にはどんなことでもいたしますから、御用がおありでしたらおっしゃって下さい。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
一日いちじつ、お勢の何時になく眼鏡を外して頸巾くびまきを取ッているを怪んで文三が尋ぬれば、「それでも貴君あなたが、健康な者にはかえって害になるとおっしゃッたものヲ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
つないでお役にたてとおっしゃられますか。はい、はい、これも仕方はございませぬ、なまねこなまねこ。おぼしめしのとほりにいたしまする。むにゃむにゃ。
洞熊学校を卒業した三人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
平次殿のおっしゃる通り、風呂場にはしたたかに血の付いた、あわせが一枚、たらいにつけてありました。これは御厚志にむくゆるために、ひそかに申上げる。万事御内聞に——
『木乃伊とおっしゃひましたね。それは何んだか僕には分りませんが。』とジユウルが叔父さんの言葉を遮りました。
「これは日本にわずか三部しかないい版の『十三経註疏ぎょうちゅうそ』だが、おう様がお前のだとおっしゃった。今年はもう三回忌の来る年だから、今からお前のそばに置くよ」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「お父さま、わたしお父さまのおっしゃることがよくわからないんでございますけれど……わたしはやはりお父さまのおそばにいとうございますわ。今までのように——。」
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あなた僕の履歴を話せっておっしゃるの? 話しますとも、じっき話せっちまいますよ。だって十四にしかならないんですから。別段たいしたよろこびも苦労もした事がないんですもの。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
お恥しい話ですが、私の結婚も塀の中で相手を見つけたのです。この頃こちらへお邪魔にあがる女の子の母親ですが、宅の奉公人でした。え、死んだのかとおっしゃるのですか。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
僕のかたの所を抱きすくめるようにして「絵具はもう返しましたか。」と小さな声でおっしゃいました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何とおっしゃっても、言いたくないことは黙って御出おいで」
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
されば是等これら餽物おくりもの親御からなさるゝは至当の事、受取らぬとおっしゃったとて此儘このままにはならず、どうか条理の立様たつよう御分別なされて、まげてもまげても、御受納とした小賢こざかしく云迯いいにげに東京へ帰ったやら
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
例月のものを上げる日にはどうかとも思いましたが、やはり御出にならないので、心配しています。御父さんは打遣うちやって置けとおっしゃいます。兄さんは例の通り呑気のんきで、困ったらその内来るだろう。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ幽霊を出してはかえって凄みがないとおっしゃいました。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
『代議士のドーブレクさんとおっしゃいますね?』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「藤様、今おっしゃった事は、皆本心かいな」
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
蓮月 ——それはまだお若いあなた方のおっしゃる事です。わたくしとてあなた方の年頃にはそうも云い、そうと思い込んで居りました。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「今日は旦那も骨休めだとおっしゃるし、三吉も来ているし、何物なんにも無いが河魚で一杯出すで、お前もそこで御相伴ごしょうばんしよや」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さすがの王さまもとうとうこんまけをなすって、それでは、どうなりとするがいいと、しかたなしにこうおっしゃいました。
ぶくぶく長々火の目小僧 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「お父様もそうおっしゃってたけれど、学校へ行くのがいやだったら、もう行かなくてもいいのだよ」と小さな声で言った。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
それからお気の毒ですが、石郷さんは糸子さんの代役——智恵子さん——と言い争いをしなければなりません。最初、石郷さんはんなことをおっしゃいました?
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
『なるほど尤もな事です。が、あなたのおっしゃる通りだとすると、どんなきのこでも皆な食べていゝんですね。』
おっしゃったとほり云ってだまって向ふの顔いろを見てゐたのですけれどもまるで反応がありませんな、さあ
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おっしゃって、いまは、透き通るようなお手をお組みなされ、しばらく無言でいらっしゃる、お側へツッして、平常ふだん教えて下すった祈願いのりの言葉を二た度三度繰返してとなえるうち
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
僕の大好きな若い女の先生のおっしゃることなんかは耳に這入りは這入ってもなんのことだかちっともわかりませんでした。先生も時々不思議そうに僕の方を見ているようでした。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おれを、どうしろとおっしゃるのだ。尊いおっかさま。おれが悪かったと言うのなら、あやまります。著物を下さい。著物を——。おれのからだは、地べたに凍りついてしまいます。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「旦那さまのおっしゃいましたとおりを言いますと、しくしく泣いていましたの。」
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「マアそうサなんて、変なおっしゃようネ。どういうこと?」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
するからあすこへ閉じこもるとおっしゃるので、ほかのお客を断わってお貸ししてありますのに、赫子さんが来ると何も放り出してあの通り……。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「こんなところに、こんな好い食堂があるかって、皆さんがよくそうおっしゃって下さいますよ」とお力も言葉を添えた。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「じつはわたくしの王さまが、ぜひあなたを王妃にしたいとおっしゃいますので、はるばるお迎いにまいりましたのです。どうか私と一しょにいらっして下さいまし。」
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「アッハッハ。それはどなたもそうおっしゃいます。時に今日は野原で何かいいものをお見付けですか。」
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大体まともな奥さんならば、いくら貴方が買ってやろうとおっしゃったからとて、結婚早々こんな莫大な金を貴方につかわせるというはずがない。あまりにも方図がなさすぎる。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
真の名誉というものは、神を信じて、世の中に働くことにあるので、まことの安全も満足もこの外に得られるものでないと、つねづねおっしゃったことを、御遺言として、記憶しておいで
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
上つ方の郎女が、ざえをお習い遊ばすと言うことが御座りましょうか。それは近代ちかつよ、ずっとしもざまのおなごの致すことと承ります。父君がどうおっしゃろうとも、父御ててご様のお話は御一代。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そんときはまるで嬉しくて仕方がないものだから、この子はどうしたんだろうってお母さまがおっしゃるくらいなんです。だからわたしきょうはいい事があるんだと言っておくの。ほんとにふしぎね。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
神様が斯うおっしゃると、人間の男と女は、うやうやしくおじぎをして、神様の前を去ろうとします。すると神様は、再び二人をお呼びとめになりました。
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おっしゃりながら、その長襦袢を御抱きなすったまま、さんざん思いやって、涙は絶間とめどもなく美しい御顔を流れました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さんおっしゃったわ。ほんとうにあの火それだわ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはわたくしめの家を指してそうおっしゃったにちがいございません。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すると王さまは、その羽根を見せよとおっしゃいました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「名古屋へ参ります前なぞは、毎日寝てばかりおりましたよ。叔父さんが寝てるが可いッておっしゃったから、俺は寝てるなんて、そんなことを申しまして……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ふん、おっしゃるだの、あそばせだのって云うかと思やべいべい、言葉も使い分けるしな、奇妙な婆あだ」
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そんな気の弱いことをおっしゃって、……」
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そんなものと真人間まにんげんと一緒にされてたまるものかなんて、それからも随分激しい調子でいろいろおっしゃったんですよ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「こういうふうなものなら家の商品でまだ沢山ございますからご遠慮なくおっしゃって下さいまし」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)