仕切しきり)” の例文
下女げぢよは「左樣さやう御座ございましたか、どうも」と簡單かんたんれいべて、文庫ぶんこつたまゝいた仕切しきりまでつて、仲働なかばたらきらしいをんなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
公衆電話函こうしゅうでんわばこを二つ並べたようになっていて、入口に近い仕切しきりの中で衣類を脱ぎ、その奥に入ると、白いタイルで張りつめた洗い場になっていて
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
干鰯ほしか仕切しきりに楷書を見たることなし、世間日用の文書は、悪筆にても骨なしにても、草書ばかりを用うるをいかんせん。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そういう風に一家の内でもやはり共同便所のような具合になって居って、その間に仕切しきりがない。即ち男女混合ですが少しもずる様子はないです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この月二十日の修善寺の、あの大師講の時ですがね、——お宅のそば虎渓橋こけいばし正面の寺の石段の真中まんなかへ——夥多おびただし参詣さんけいだから、上下うえした仕切しきりがつきましょう。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中甲板におりて、少しいくと、そのかたすみの広い仕切しきりのなかに、羊が二十頭ばかりゐました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
いわゆる良民のうちにも、下地したじが好きで、意志がさのみ強くないものもあります。見ているうちに乗気になって、鋸山のこぎりやまへ石を仕切しきりに行く資本もとでを投げ出すものがないとはかぎらない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二部屋隔てゝゐたにも拘らず私は一語々々聞きとつた——西印度にしインドの家屋の薄い仕切しきりは彼女の狼のやうな叫び聲を隔てるのにほんの僅かしか役に立たなかつたのです。たまりかねて私は云ひました。
つまりこの二つの部屋は仕切しきりがあっても、ないと同じ事で、親子二人がったり来たりして、どっち付かずに占領していたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は、時々、籠のせまい仕切しきりから覗く不思議な鳥の眼差まなざしを見ますよ——活々とした、そは/\した、氣丈なとらはれ者がそこにゐるのです。自由にしてやりさへすれば、それは空高くかけつて行くでせう。
すはくたびれたと見えて、枡の仕切しきりこしを掛けて、場内じようない見廻みまはし始めた。其時三四郎はあきらかに野々宮さんの広いひたいと大きなを認める事が出来できた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私はいつものように手数てかずのかかる靴を穿いていないから、すぐ玄関に上がって仕切しきりふすまを開けました。私は例の通り机の前にすわっているKを見ました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高座こうざ右側みぎわきには帳場格子ちょうばごうしのような仕切しきりを二方に立て廻して、その中に定連じょうれんの席が設けてあった。それから高座のうしろ縁側えんがわで、その先がまた庭になっていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
呑気のんき白襖しろぶすまに舞楽の面ほどな草体を、大雅堂たいがどう流の筆勢で、無残むざんに書き散らして、座敷との仕切しきりとする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると、いつも立て切ってあるKと私のへやとの仕切しきりふすまが、この間の晩と同じくらいいています。けれどもこの間のように、Kの黒い姿はそこには立っていません。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もと植木屋ででもあったらしいその庭先には木戸の用心も竹垣の仕切しきりもないので、同じ地面の中に近頃建て増された新らしい貸家の勝手口を廻ると、すぐ縁鼻えんばなまで歩いて行けた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は返事もずに書斎へ引き返した。椽側にれた君子らんみどりしたゝりがどろ/\になつて、干上ひあがかゝつてゐた。代助はわざと、書斎と座敷ざしき仕切しきりつて、一人ひとりへやのうちへ這入はいつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
坂井さかゐうちもんはひつたら、玄關げんくわん勝手口かつてぐち仕切しきりになつてゐる生垣いけがきに、ふゆ似合にあはないぱつとしたあかいものがえた。そばつてわざ/\しらべると、それは人形にんぎやうけるちひさい夜具やぐであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
座敷の硝子戸ガラスどはたいてい二重にとざされて、庭のこけを残酷に地面から引きはがしもが一面に降っていた。今はその外側の仕切しきりがことごとく戸袋のうちおさめられてしまった。内側も左右に開かれていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)