事蹟じせき)” の例文
百何十年かった今となっては、功業の跡、夢の如くせて、その事蹟じせきは、ドラゴン退治の伝説の英雄となんの選ぶところがない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
あれこそはひとりこの御夫婦ごふうふだいかざる、もっとうつくしい事蹟じせきであるばかりでなく、また日本にほん歴史れきしなかでのりの美談びだんぞんじます。
もちろん義経の事蹟じせき、ことに屋島やしまだんうら高館たかだて等、『義経記』や『盛衰記』に書いてあることを、あの書をそらで読む程度に知っていたので
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
またその後、帝国学士院では、大谷亮吉氏に依嘱いしょくして、忠敬の事蹟じせきを詳しく調査し、これが「伊能忠敬」と題する一書となって刊行されています。
伊能忠敬 (新字新仮名) / 石原純(著)
その奥には社殿の燈明とうみやう——わたしその一生を征旅せいりようちに送つて、この辺土に墓となつた征西将軍宮せい/\しやうぐんのみや事蹟じせきを考へて黯然あんぜんとした。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
もし佐橋甚五郎が事にいて異説を知っている人があるなら、その出典と事蹟じせきの大要とを書いて著者のもとに投寄してもらいたい。大正二年三月記。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
古人が杜詩を詩史と称えし例にならわば曙覧の歌を歌史ともいうべきか。余が歌集によりてその人の事蹟じせきと性行とを知り得たるもその歌史たるがためなり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
岸本はアベラアルとエロイズの事蹟じせきが青年時代の自分の心を強く引きつけたこと、巴里に来て見るとあのアベラアルが往昔むかしソルボンヌの先生であったこと
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その翌日からわたしは早速新曲の資材となるべき事蹟じせきを求めたいと例の『燕石十種えんせきじっしゅ』を始めとして国書刊行会飜刻本ほんこくぼんの中に蒐集しゅうしゅうされた旧記随筆をあさり初めた。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私たちの尊い先輩が造り、今またこのわたしたちが現に造りつつある日本の切支丹の事蹟じせきは、決して単に日本一国の史上においてのみの異彩のある光ではありません。
それから一つの特徴としては、王の軍中に随行して、時々のいくさの模様や王の事蹟じせきを即興的に歌った詩人(Scalds)の歌がところどころにはさまれている事である。
春寒 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
じんは以て下にあつけんは以てもちゐるにたるくわしてゆるめずくわんしてよくだんずとされば徳川八代將軍吉宗公の御治世ぢせい享保年中大岡越前守忠相殿たゞすけどの勤役きんやく數多あまた裁許さいきよ之ありしうち畔倉あぜくら重四郎ぢうしらう事蹟じせき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
昔から増上慢ぞうじょうまんをもっておのれを害し他をそこのうた事蹟じせきの三分の二はたしかに鏡の所作しょさである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今でも固く主張するのに無理はないが、私もかつて少年時代に太平記を愛読した機縁から南朝の秘史に興味を感じ、この自天王の御事蹟じせきを中心に歴史小説を組み立ててみたい、———と
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
賢君忠臣の事蹟じせきむなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさをなげいて泣いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
是非ぜひ一読いちどくして批評ひゝやうをしてくれと言つて百五六中まいも有る一冊いつさつ草稿そうかうわたしに見せたのでありました、の小説はアルフレツド大王だいわう事蹟じせき仕組しくんだもので文章ぶんしやう馬琴ばきんまなんで、実にく出来て
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かくて杉田一家の我が国の医学に貢献した事蹟じせきは決してすくなくはなかったと言わなければなりますまい。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
荏野の翁が事蹟じせきも多い。飛騨の国内にある古社の頽廃たいはいしたのを再興したり、自らも荏野神社というものを建ててその神主となり郷民に敬神の念をよび起こすことに努めたりした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
従来寺院のものであった聖譚曲——聖書の中の事蹟じせきを音楽として、背景も扮装ふんそうも用いずに、地味じみ抹香臭まっこうくさく歌われた「聖譚曲」を、社会とお宗旨関係者の反対を押し切って劇場に持ち来り
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
このお二人ふたりにからまる事蹟じせきすこしでも現世げんせ人達ひとたちつたわることになれば、わたくしつたな通信つうしんにもはじめていくらかの意義いぎくわわるわけでごさいます。わたくしにとりてこんな冥加至極みょうがしごくなことはございませぬ。
もっとも馬琴ばきんの作に「侠客きょうかく伝」という未完物があるそうで、読んだことはないが、それは楠氏の一女姑摩姫こまひめと云う架空かくうの女性を中心にしたものだと云うから、自天王の事蹟じせきとは関係がないらしい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
誰一人おの事蹟じせきを知ってくれなくともさしつかえないというのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それで私はここでいくらかのすぐれた科学者の事蹟じせきについて皆さんにお話ししてようとするのにあたって、まずガリレイのことから始めるのが、当然の順序であると考えるのです。
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
岸本に取っては旅の心を引く一つの事蹟じせきがあった。他でもない、それはアベラアルとエロイズの事蹟だ。英学出の彼はあの名高い学問のある坊さんにいてくわしいことは知らなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この異国の物語は何となく彼女の精神こころを励ましたように見えた。彼はそれを嬉しく思って、何かまたアベラアルの事蹟じせきいて書いたものでも手に入ったら、それを彼女に送ろうと約束した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)