一人前いちにんまへ)” の例文
ところで、たけなかからは、そだかたがよかつたとえて、ずん/\おほきくなつて、三月みつきばかりたつうちに一人前いちにんまへひとになりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
長吉ちやうきち蘿月らげつ伯父をぢさんのつたやうに、あの時分じぶんから三味線しやみせん稽古けいこしたなら、今頃いまごろかく一人前いちにんまへの芸人になつてゐたに違ひない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「僕の身分みぶんは是からさきうなるかわからない。すくなくとも当分は一人前いちにんまへぢやない。半人前にもなれない。だから」と云ひよどんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あひなるべくは多治見たぢみへのして、陶器製造たうきせいざう模樣もやうまでで、滯在たいざいすくなくとも一週間いつしうかん旅費りよひとして、一人前いちにんまへ二十五兩にじふごりやうちうにおよばず、きりもちたつた一切ひときれづゝ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あの『赤い切掛きれかけ島田のうちは』と云ふうたの文句の通、惚れた、好いたと云つても、若い内はどうしたつてしん一人前いちにんまへに成つてゐないのですから、やつぱりそれだけで、為方の無いものです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これは僕自身の話だが、何かの拍子ひやうしに以前出した短篇集を開いて見ると、何処どこか流行にとらはれてゐる。実を云ふと僕にしても、他人の廡下ぶかには立たぬ位な、一人前いちにんまへ自惚うぬぼれは持たぬではない。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その時分じぶん蕎麥そばふにしても、もりかけが八りんたねものが二せんりんであつた。牛肉ぎうにく普通なみ一人前いちにんまへせんでロースは六せんであつた。寄席よせは三せんか四せんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところ汽船きせんは——うそだの、裏切うらぎつたのと、生意氣なまいきことふな。直江津なほえつまで、一人前いちにんまへ九錢也きうせんなり。……明治二十六七年頃めいぢにじふろくしちねんごろこととこそいへ、それで、午餉ひる辨當べんたうをくれたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
えうするにかれぐらゐ年輩ねんぱい青年せいねんが、一人前いちにんまへ人間にんげんになる楷梯かいていとして、をさむべきことつとむべきことには、内部ないぶ動搖どうえうやら、外部ぐわいぶ束縛そくばくやらで、一切いつさいかなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ときに、川鐵かはてつむかうあたりに、(水何みづなに)とかつた天麩羅屋てんぷらやがあつた。くどいやうだが、一人前いちにんまへ、なみで五錢ごせん。……横寺町よこでらまちで、おぢやうさんのはつのお節句せつくときわたしたちはこれ御馳走ごちそうつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうして置いて、世話になる事は、もとより世話になるが、年を取つて一人前いちにんまへになつたから、云ふ事はもとの通りにはかれないつて威張つたつて通用しないぢやありませんか
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そりやだいさんだつて、小供ぢやないから、一人前いちにんまへの考の御有おありな事は勿論ですわ。わたしなんぞのらない差出口さしでぐちは御迷惑でせうから、もう何にも申しますまい。然し御とうさんの身になつて御覧なさい。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)