骨肉こつにく)” の例文
明るい電燈の下に葉子と愛子と向かい合うと、久しくあわないでいた骨肉こつにくの人々の間にのみ感ぜられる淡い心置きを感じた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
悦ばせはりある魚はなぎさに寄る骨肉こつにくなりとて油斷は成じ何とぞ一旦兩人の身を我が野尻のじりへ退きて暫時ざんじ身の安泰あんたいを心掛られよと諫めければ傳吉は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
殊に相手はおいと云っても、天下のいちひとであり、昭宣公の跡を継いで摂政せっしょうにも関白かんぱくにもなるべき人であるのが、さすがに骨肉こつにくの親しみを忘れず
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
姑必ずしも薄情ならず、其安産を祈るは実母と同様なれども、此処ここ骨肉こつにく微妙びみょうの天然にして、何分なにぶんにも実母に非ざれば産婦の心を安んずるに足らず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あの人たちは、みなじぶんを心のそこからいとしんでくれる、骨肉こつにくのようなやさしさと、温味あたたかみをもっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伯氏あには菊花のちかひを重んじ、命を捨てて百里をしはまことあるかぎりなり。士は今尼子にびて一三六骨肉こつにくの人をくるしめ、此の一三七横死わうしをなさしむるは友とするまことなし。
彼らはわしの武器を取り上げてしまったから、しかし死にきれなかった。わしは死にきれない自分を恥じた。しかし骨肉こつにくの愛と清盛に対する復讐心ふくしゅうしんとがわしを死にきれさせなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ぐおあいの隣りには、おあいの叔母にあたる人がすんでいた。この人は、全くの独り者で、骨肉こつにくというものはただおあい一人しかなかった。おあいは、極めてはきはきとした勝気の女であった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おまへ兄貴あにきだな、そんぢやえゝ、徒勞むだだ」といたはなたしめた。百姓ひやくしやう骨肉こつにくいたはりがさけをぎつとちからめてかせない。そんなおもひきつた手段しゆだんくははることは出來できないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ただ漢人はこれをごまかし飾ることを知り、我々はそれを知らぬだけだ、と。漢初以来の骨肉こつにくあいむ内乱や功臣連の排斥はいせき擠陥せいかんの跡を例に引いてこう言われたとき、李陵はほとんど返す言葉に窮した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
骨肉こつにくは父と母とにまかせ来ぬわがたましいよ誰れにかへさむ
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
中津人は俗物であるとおもって、骨肉こつにく従兄弟いとこに対してさえ、心の中には何となくこれ目下めした見下みくだして居て、夫等それらの者のすることは一切とがめもせぬ、多勢たぜい無勢ぶぜい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さるを骨肉こつにくの愛をわすれ給ひ、八五あまさへ八六一院崩御かみがくれ給ひて、八七もがりの宮に肌膚みはだへもいまだえさせたまはぬに、御旗みはたなびかせ弓末ゆずゑふり立て宝祚みくらゐをあらそひ給ふは
お通の胸にも、お通の知らない幻覚げんかくだけの親たちがいて、こうしている間も絶えず、呼びかけたり呼びかけられたりしているらしいが、彼女は、その骨肉こつにくの愛も知らない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その母の所に貞世は行きたがってあせっている。なんという深いあさましい骨肉こつにくの執着だろう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
見廻すにやみの夜なれども星明ほしあかりにすかせば白き骨の多くありて何れが父のほねともれず暫時しばし躊躇ためらひたりしが骨肉こつにくの者の骨にはしみると聞し事あれば我がしぼり掛て見んとゆびかみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さうよ、此處こゝらは洪水みづ心配しんぺえはさうだにしねえでもえゝとこだかんな」勘次かんじ從來これまであひだがどうであつたにしても偶然ぐうぜんつたおつたにたいしてだん/\はなしてるうちにはおな乳房ちぶさすがつた骨肉こつにく關係くわんけいかれ淺猿さもしいこゝろそこ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それを見ると葉子は骨肉こつにくのいとしさに思わずほほえませられて、その寝床にいざり寄って、その童女をがいに軽く抱きすくめた。そしてしみじみとその寝顔にながめ入った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これほどまでに自分の帰りを待ちわびてもい、喜んでもくれるのかと思うと、骨肉こつにくの愛着からも、妹だけは少なくとも自分の掌握の中にあるとの満足からも、葉子はこの上なくうれしかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)