錚々そうそう)” の例文
茂助吉晴は、いまでこそ、錚々そうそうたる羽柴麾下きかの一将だが、その青年期までは、岐阜ぎふの稲葉山つづきの山岳中に育った自然児である。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火星観測——などというと、いかにも錚々そうそうたる天文学者の一行のように聞こえるけれど、実は大村昌作はサラリーマンなのだ。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
長州の俗論党の錚々そうそうたる人であったらしく、旧姓山県九郎右衛門という(この人について、御存じの方は御一報願いたい)
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それはひどく雪の降った日のことであったという。座には早川千吉郎、益田なにがし、その他錚々そうそうの顔触れが居並いならんでいた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小杉君や神代君は何れも錚々そうそうたる狩猟家である。おまけに僕等の船の船頭の一人も矢張り猟の名人だということである。
鴨猟 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
全体の釣合いからいえばよく整うていて不具ではないが、柄を見れば子供、面を見れば老人、肉を見れば錚々そうそうたる壮俊わかもの
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実に年寄の多いクラスだった。しかしこの北村さんは現に○○市の市会議員で鳴らしている。第一回生の錚々そうそうたるものだ。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
錚々そうそうたる土木家である増田長盛や、長束ながつか正家なんかが共同でやった仕事だから、姑息な小田原城の将士の度肝を抜くことなんか、易々いいたるものだったと思う。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
年少ながら錚々そうそうたるものがあり、ことに青年男女間に於ては、湧きかえるような人気がある人物だった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三上重四郎は、いわゆる二世中の錚々そうそうたるもの。在学中、はやくも化石素ペトリン堆積説なるものを発表した。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
事実、当時のロンドン警視庁は、かの大ブラウンやフォルスタア氏をはじめ錚々そうそうたる腕きがそろっていて、空前絶後といってもいい一つの黄金時代だったのである。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
人も知るごとく、通禧は文久三年の過去に、攘夷御親征大和行幸じょういごしんせいやまとぎょうこうの事件で長州へ脱走した七卿の一人である。攘夷主唱の張本人とも言うべき人たちの中での錚々そうそうである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小松原舞二郎、生来せいらいの多病。それで剣道は自ら廃し、好める学問の道にむかい、林家りんけの弟子として錚々そうそうたるもの。広太郎と同年で二十三歳、それでいてすでに代講をする。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昔ローマでは、女子が弁護士業を営むのを公許したことがあって、ホルテンシア(Hortensia)、アマシア(Amasia)などという錚々そうそうたる者もあったとか。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
数年前、米屋がますを使用していた時代には彼は錚々そうそうたる職人として桝取業をしていた。彼の腕にかかれば、必要に応じて、一斗の米が一斗五升にも八升にもはかりかえられた。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
今日の金港堂は強弩きょうどすえ魯縞ろこう穿うがあたわざる感があるが、当時は対抗するものがない大書肆だいしょしであった。その編輯へんしゅうに従事しその協議にあずかるものは皆錚々そうそうたる第一人者であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さすがに錚々そうそうたる連中も、この論文にはいささか度胆どぎもを抜かれたようであった。何が何だか分らなくて、まるで夢のようなことをいってるということにして、片づけてしまった。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
が、その代り、その日の暮近くになって、白亭自身、一人の紳士を連れて蒼徨そうこうとしてやって来た。紳士と云うのは、白亭とは中学時代の同窓で、いまは錚々そうそうたる刑事弁護士の大月対次おおつきたいじだ。
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
しかも舞台に上ると自然愛嬌が出て柔和に見え、人違いのする多年修養の功、晩年は病弱のため不遇に終ったが、斯界第一の故実家で門人にも、野間、小早川その他の錚々そうそうたる連中があった。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「うむ、はじめてだ。本田っていうんだ。五年の錚々そうそうたる人物だよ。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
またもや剣を取っては錚々そうそうたるひとりの同志を、まるで流れ矢にでも当たったように他愛なく射殺したのだから月輪の剣連、瞬間、栄三郎をも泰軒をも忘れて、ひとしく驚愕と畏怖にたじろいだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
渓斎英泉は北斎を連想すべきその漫画と魚屋北渓ととやほくけいならひたる藍摺あいずりの支那画山水とまた広重に似たる名所絵並に花鳥によりて、西洋人の著書中には十九世紀中葉の浮世絵師中錚々そうそうたるものとなされたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新郎しんろう勝田君は、若手で錚々そうそうたる劇作家ドラマチストである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ええ、そう、だけどあれでもアルゲマイネ・ゲゼルシャフトの錚々そうそうたる社員だわ。あの人とゼネラル・エレクトリックのクリーバーって社員とは、それやいつも熱心よ。あたし、今夜はフィルゼルと逢ったら、すぐクリーバーとも逢わなくちゃならないの。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
丹羽、滝川、柴田、或いは佐々、明智、前田などの錚々そうそうたる人々もその中にあるかに思われたが、官兵衛は秀吉以外の誰とも口をきかなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、隊士中の錚々そうそう、鈴木樹三郎、服部武雄、加納道之助、毛内有之助、藤堂平助、富山弥兵衛、篠山泰之進の面々が、粛々としてこれにせ向った。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
樺山かばやま伯、牧野男、有馬伯、佐竹子などは呂昇贔屓の錚々そうそうたる顔ぶれであり、実業家や金満家には添田寿一そえだじゅいち氏、大倉喜八郎氏、千葉松兵衛氏、福沢捨次郎氏
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私は常に黒幕のうしろに居り、田鶴子には婦人探偵の錚々そうそうたるところの数名を当らせたんです。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新任地は九州の○○市、中学校も県で錚々そうそうたるものだった。無名で置くのも具合が悪いから、県立中学校錚々館そうそうかんと仮に名をつける。同僚が三十名からいて、私が一番年若だった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
山毛戸やまかいどの源太郎、中新田の源七、玉川の権太郎、閂峰吉、錚々そうそうたる猪之松の乾児達が、首を揃えて集まってはいたが、狂人きちがいに刃物のそれよりも悪く、酒乱の陣十郎に抜身を持たれ
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いったい堀見亮三氏は、岳南鉄道以外にも幾つかの会社に関係していた錚々そうそうたる手腕家なのだが、この数年来二進にっち三進さっちも行かない打撃を受けて、押山の父から莫大な負債を背負わされていた。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
この人は、荒木又右衛門あらきまたえもん一門の血統で、流石さすがに血筋は争えない。剣を取っては、番部屋第一の名があったもので、年齢は四十五、六、はらも相当に据わった、まず、御書院番士中では錚々そうそうたる人材だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何しろ蔵前の札差で山長と云えば、今で云うと、政府の御用商人で二三百万円の財産を擁しておろうと云う、錚々そうそうたる実業家に当る位置ですから、その一人娘の——もっとも男の子は二人あったそうです。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その心理を、後世裁判精神病理学の錚々そうそうたる連中が何故引用しないのだろうと、僕はすこぶる不審に思っているくらいなんだよ。ところで、この場合は、すこぶる妖術的な共鳴現象を思いついたのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何かにつけ、質子ちしの身であり、若年だし、帷幕いばく錚々そうそうたる武将たちの間では、元康の存在など、余りに小さかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまちに円卓会議を開き、議長がプロ亀、それに安直、金十郎、エド蔵、ゲビ蔵、薯作いもさく、テキ州、古川をはじめ、三ぴん連の鉄中錚々そうそうとまでは行かなくとも
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その人ならば、思い違いをしたおかしい話があると、なんでも浜子さんが十五、六の時分ではなかったのでしょうか、錚々そうそうたる歌人たちを歌会を開いて招いたときの話で
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
錚々そうそうたるものさ」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小野派の錚々そうそうたる中でも、梶派一刀流の別派を工夫し出したほどの梶新左衛門までがさまで激越な火も散らさず、鐘巻自斎の精妙剣に敗れてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かく覚禅房は出家として、武芸を後に残すことを好まれなかったが、門下には錚々そうそうたる豪傑ごうけつがおったじゃ。
そこに湯川氏の数算と長年の蘊蓄うんちくが役に立って石川の家運はあがった。その頃の湯川氏の知己の名は自毛村じけむらであるとか、三野村みのむらだとか錚々そうそうたる大実業家となった人たちである。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
このところ実に錚々そうそうたる人材がおのずから叢淵そうえんをなして来た観があったが——その中に、また一人の本多弥八郎正信が帰り新参としてえたのを見ると
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元弘建武以来の錚々そうそうたる大名であり、山陰の尼子氏の如きもその分家に過ぎない——松の丸の閨縁けいえんによって豊臣秀吉の寵遇ちょうぐうを受け——といった名家であることは
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その当時の大阪は摂津大掾せっつだいじょうがまだ越路こしじの名で旭日あさひの登るような勢いであり、そのほかに弥津やつ太夫、大隅おおすみ太夫、呂太夫の錚々そうそうたるがあり、女義には東猿とうえん末虎すえとら長広ながひろ照玉てるぎょくと堂々と立者たてものそろっていた。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いわば戴宗としては、主目的の使命には失敗したが、代りに、錚々そうそうたる新党員四名と、三百の兵力、十車に余る財などを、みやげに連れて帰ったわけである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは下っ端の争いではなく、いずれも幕の錚々そうそうたる関取連が、腕力沙汰を突発せしめたのだから、事のていが、尋常よりはずっと大人げなくも見え、殺気立っても見えます。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
越前の援軍は、総勢一万余騎、朝倉孫三郎景健かげたけを主将として、魚住うおずみ左衛門、小林端周軒はしゅうけん、黒坂備中守などの錚々そうそうたる将僚をそろえ、その兵卒らは声を合わせて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにまた、江州長浜という土地は、昔は錚々そうそうたる城下の地であったが、近代は純然たる商工都市になっている。そうして同時に信仰の勢力がなかなかあなどり難いものがある。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いよいよその地歩をめて、新旧勢力の大官中に伍し、いつのまにか若年ながら錚々そうそうたる朝臣の一員となっているところ、早くも凡物でない圭角けいかくは現れていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月心院の屯所とんしょの大きな火鉢を囲んで、伊東配下、御陵衛士隊の錚々そうそうたるもの、鈴木三樹三郎、篠原泰之進、藤堂平助、毛内もうない有之助、富山弥兵衛、加納道之助の面々が詰めきって