邂逅めぐりあ)” の例文
今でもハッキリ覚えているが、宮中を出る少し前の或る月のよい晩であった。僕は茶店へ這入って行った。そして老夫婦に邂逅めぐりあった。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
艱苦かんくを繰り返せば、繰り返すというだけの功徳くどくで、その艱苦が気にかからなくなる時機に邂逅めぐりあえるものと信じ切っていたらしいのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は昔の人の本を讀んで、自分と同じ思想に邂逅めぐりあふ事は數限りもない。時には同じ云ひ𢌞しにさへぶつつかつてハツとする事もある位だ。
三太郎の日記 第二 (旧字旧仮名) / 阿部次郎(著)
岸本はこの仏蘭西の旅に上って来た時、神戸の旅館で思いがけなく訪ねて来てくれた二人の婦人に邂逅めぐりあったことを忘れずにいる。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それだけの罪でもろくなことの無いのは当然あたりまえです。二十年ぶりで現在の子に邂逅めぐりあいながら、その手にかかって殺されると云うのも自然の因縁でしょう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「わしの方は、もう寄る年波じゃよ。が、かく、生きていることは悪うない。そなたに、こうして邂逅めぐりあえたのも、いのちがあったればこそじゃ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あんなに大勢女のいる中で、どうして自分は一人も自分を慰めてくれる相手に邂逅めぐりあわないのであろう。誰れでもいい。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
尼「いや老爺じいさん、心配おしでない、いまに音信たよりが有ろう、不図邂逅めぐりあうことが有るけれども、旅へ出て難義をなすっておいでの様子、殊に病難も見える」
東国へ思い捨てたこどもに邂逅めぐりあう望みを、姉の福慈岳の女神に失望した山の祖神は、せめて弟に望みを果し度いものだと、なおも東の方を志して尋ね歩るき出した。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
古くいたそこの女中の一人に、その後、築地の「八百善」でゆくりなくわたしは邂逅めぐりあったりした。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「君、これは僕のだよ。ガスケル老人が取りにくる迄、僕が預って置く」私は思掛けずにモニカの肖像を手に入れたので再び彼女に邂逅めぐりあう前兆のような気がして嬉しかった。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
黄金丸はひざを進め、「こは耳寄りなることかな、その医師とは何処いずこたれぞ」ト、連忙いそがはしく問へば、鷲郎はこたへて、「さればよ。某今日里に遊びて、古き友達に邂逅めぐりあひけるが。 ...
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
些箇かごとに慰められて過せる身の荒尾に邂逅めぐりあひし嬉しさは、何に似たりとはんもおろかにて、この人をこそ仲立ちて、積る思をげんと頼みしを、あだの如くくみせられざりし悲しさに
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
縁があって邂逅めぐりあって、ゆたかに暮していればいいが、もしひょッと貧乏に苦しんででも居るのだったら、手土産代りと心がけて、何があっても手を付けず、この百両はなげえこと
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
未来永劫えいごうまたと邂逅めぐりあわない……それはなんという不思議な、さびしい、恐ろしい事だ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
後に私が東京へ出た時高輪でフイと橋本に邂逅めぐりあひ、マア私の家へ来なさいと云ふから二三日世話になりましたが、お房が、あなたのお蔭で酒呑みだけれどマア橋本さんと副つて居ます
大和路の壺坂寺の附近ちかくで昔の夢の女——お里に私は邂逅めぐりあったような感じがした。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
伊太利イタリーくに子ープルスかうで、はからずもむかし學友がくいういま海外かいぐわい貿易商會ぼうえきしやうくわい主人しゆじんとして、巨萬きよまんとみかさねて濱島武文はまじまたけぶみ邂逅めぐりあひ、其處そこで、かれつまなる春枝夫人はるえふじんその愛兒あいじ日出雄少年ひでをせうねんとに對面たいめんなし
ところがある日、私は再びこの青年と街で邂逅めぐりあった。私は殆ど凝視するように彼の顔を見た。彼もまた例の冷たい表情で私の方を見かえした。その冷たい目付は、私がよく知っていたものだ。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
邂逅めぐりあひつつ別れけり。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
旅の不自由と、国の言葉の恋しさと、信じ難いほどの無聊ぶりょうとは、異郷で邂逅めぐりあう同胞の心を十年の友のように結び着けるのだとも想って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
江戸から遙々はるばる追って来て、邂逅めぐりあってみれば死骸である。病気ではない切り死にだ。こういう憂き目に会うほどなら、江戸にいた方がよかったろう。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あんなに大勢おほぜい女のゐる中で、どうして自分は一人も自分をなぐさめてくれる相手に邂逅めぐりあはないのであらう。れでもいゝ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、これも相互たがいに顔を見識みしらなかったので、二十年ぶりで初めて邂逅めぐりあった現在の父と子が、ここたちまち敵となった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この両人ふたりもこれをきゝますと呆れるばかりで物がいわれません。やがて伊之助も岩次も出てまいり、親子兄弟不思議な邂逅めぐりあいにたゞ/\奇異のおもいでござります。
さればとよよくききね、われ元より御身たちと、今宵此処にて邂逅めぐりあはんとは、夢にだも知らざりしが。今日しも主家のこものかれて、このあたりなる市場へ、塩鮭干鰯ほしか米なんどを、車につみて運び来りしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
方々——いや五郎蔵殿のお身内、拙者はいかにも伊東頼母、先夜、父の敵五味左門に邂逅めぐりあいました際には、ご助力にあずかり、千万忝けのうござった。お礼申す。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その仏蘭西の青年の通っている古い大学こそ往昔むかしアベラアルが教鞭きょうべんを執った歴史のある場所であると聞いた時は、全く旧知に邂逅めぐりあうような思いをしたのであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十三年振ではからずも永禪和尚に邂逅めぐりあいまして、始めの程は憎らしい坊主と思いましたなれども、亭主が借財も有りますからいッのがれと思いましたも、もとよりよごれた身体ゆえ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は死なうと云つた以前の戀人を思出す。今頃はどこに居て、何をして居るか。どうかして一度邂逅めぐりあひたい。何故私はあの時しななかつたのであらう。藝術は果して戀よりも美しかつたであらうか。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
『たとへいかなる目を見ようと、いかなる人に邂逅めぐりあはうと決して其とは自白うちあけるな、一旦の憤怒いかり悲哀かなしみこのいましめを忘れたら、其時こそ社会よのなかから捨てられたものと思へ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
紙帳は、主人に邂逅めぐりあったのを喜ぶかのように、落葉樹や常磐木ときわぎに包まれながら、左門の方へ、長方形の、長い方の面を向け、微風に、その面へ小皺を作り、笑った。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しんから底から切れるなんかッてえ気は微塵もありゃアしないのさ、ひょんなことがあったからね、これでは伊之さんに邂逅めぐりあっても愛想をつかされるだろうと悲しく思ってるを
『たとへいかなる目を見ようと、いかなる人に邂逅めぐりあはうと、決して其とは自白うちあけるな、一旦の憤怒いかり悲哀かなしみ是戒このいましめを忘れたら、其時こそ社会よのなかから捨てられたものと思へ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そう云えば彼処あすこの息子と来たら綽名あだなを喇嘛王と云われるだけあって、そりゃ素敵に気高うがす。そして何んでも十八年ぶりに邂逅めぐりあったとか云うことですよ。しかも拉薩の都でね
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五郎蔵たちの一団と、戸板を置き捨て、逃げて行った二人の乾児とが邂逅めぐりあい、二人の乾児によって、頼母と、お浦と、典膳との居場所を知った五郎蔵たちの揚げた声であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼が再び近づくまいと堅く心に誓っていた繁子にはからず途中で邂逅めぐりあった時のことは、仮令たとえ誰にも話さずにはあるが、深い感動として彼の胸に残っていた。それが彼から離れなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……が以前むかしわたしのもとへ、造顔に参りましたお侍様は、うらみある敵を討とうとしても、昔ながらの容貌では、邂逅めぐりあっても逃げられるだろう、そこで手術をするようにと、このように申しておりました。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)