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蹣跚
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まんさん
ふりがな文庫
“
蹣跚
(
まんさん
)” の例文
其処へ
蹣跚
(
まんさん
)
と通りかゝつた痩せぎすの和服の酔客を呼び止めて、「泉君、泉君、いゝ人を紹介してやらう———これが谷崎君だよ」
泉先生と私
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
老いたる教師ハツバス・ダアダアのボルゲエゼ家の車の
章
(
しるし
)
に心づきて、
蹣跚
(
まんさん
)
たる歩を
住
(
とゞ
)
め我等を
禮
(
ゐや
)
したるは、おもはずなる心地せらる。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
武松は、久しぶりに
濶然
(
かつぜん
)
たる胸をひらいて、愉快でたまらず、大酔して
蹣跚
(
まんさん
)
とした足もとを、やがて召使の手に
扶
(
たす
)
けられながら、外へ出て
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
歩きだしてから
却
(
かえ
)
って酔を発した其角は、相川町を右に折れて、
蹣跚
(
まんさん
)
と
蜆河岸
(
しじみがし
)
へさしかかった。すると片側町の暗がりから
其角と山賊と殿様
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
政吉 (よきを携げ、金の入った財布の紐を腕にかけ、引き摺るようにして
蹣跚
(
まんさん
)
として来たる、殺人をやった後である)
中山七里 二幕五場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
▼ もっと見る
嘉門はクルリと振り返ったが、例の
蹣跚
(
まんさん
)
とした足どりで、馬酔木の叢の裾をまわって、今度こそ左内とお菊とを見すてて、家のほうへ引き返した。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
蹣跚
(
まんさん
)
として雲を踏むよう、針の山に追い上げられた
泥酔者
(
のんだくれ
)
のように、一歩一歩、床板に弾き上げられて、不作法な怪奇な、命がけの跳躍を続け、手は
死の舞踏
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
咄々
(
とつとつ
)
、酔漢
漫
(
みだ
)
りに
胡乱
(
うろん
)
の言辞を弄して、
蹣跚
(
まんさん
)
として墓に向う。油尽きて
灯
(
とう
)
自
(
おのずか
)
ら滅す。業尽きて何物をか
遺
(
のこ
)
す。苦沙弥先生よろしく御茶でも上がれ。……
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
大井はやっと
納得
(
なっとく
)
した。が、
卓子
(
テエブル
)
を離れるとなると、彼は口が達者なのとは反対に、
頗
(
すこぶ
)
る足元が
蹣跚
(
まんさん
)
としていた。
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
東京には、こういう娘がひとりで
蹣跚
(
まんさん
)
の気持ちを
牽
(
ひき
)
いつつ慰み歩く場所はそう多くなかった。大川端にはアーク燈が
煌
(
きら
)
めき、涼み客の往来は絶ゆる間もない。
蝙蝠
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
後向きに、雪のうえを、まるで
蟻
(
あり
)
が獲ものを運ぶように、
蹣跚
(
まんさん
)
とした。ようやくまた穴にかえった。一呼吸入れて、それから彼は横に寝ているものを揺ぶった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
その夜、大酔した嘉平次が、
蹣跚
(
まんさん
)
として自分のお長屋へ帰ろうとして、台所口を出たときだった。
仇討三態
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
何か砂利のようなものが脚につまって、それが私の歩みを
阻
(
はば
)
むようであった。大通りを避けて見知らぬ露地から露地へ私は
蹣跚
(
まんさん
)
と歩き廻った。見覚えのある路を何度も通った。
風宴
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
鈴蘭燈
(
すずらんとう
)
の強烈なネオンが眼にちかちかと刺すように感じ、彦太郎は
蹣跚
(
まんさん
)
たる足どりで、人混を縫いながら、劇場のある横町に入りこんで来て、
弥次郎兵衛
(
やじろべえ
)
というおでん屋に入った。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
と彼は、
蹣跚
(
まんさん
)
というほどではないが相当の
酔心地
(
よいごこち
)
、ふらふら「恋鳩」の裏手口を過ぎようとした時に……。いきなり内部から風をきって、彼の前へずしりと投げだされたものがある。
人外魔境:05 水棲人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
余
乃
(
すなわち
)
携
(
たずさゆ
)
ル所ノ
巨玉巵
(
きょぎょくし
)
ヲ出シ自ラ
酌
(
く
)
ムコト三タビニシテ、コレヲ属シ即チ辞シテ去ラントス。毅堂マタ満ヲ引イテ連酌シ
忽
(
たちまち
)
ニシテ大酔シ興ニ乗ジテ同ジク門ヲ出デ
蹣跚
(
まんさん
)
トシテ橋ニ到ル。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
円タクで
白山坂上
(
はくさんさかうえ
)
にさしかかると、六十恰好の巌丈な仕事師上がりらしい爺さんが、
浴衣
(
ゆかた
)
がけで車の前を
蹣跚
(
まんさん
)
として歩いて行く。丁度安全地帯の脇の狭い処で、車をかわす余地がない。
KからQまで
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
本郷へ來ると、彼
醉僧
(
すゐそう
)
は汽車を下りて、富士形の黒帽子を冠り、小形の
緑絨氈
(
みどりじうたん
)
のカバンを提げて、
蹣跚
(
まんさん
)
と改札口を出て行くのが見えた。
江刺
(
えさし
)
へ十五里、と停車場の案内札に書いてある。
熊の足跡
(旧字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
本郷へ来ると、彼
酔僧
(
すいそう
)
は汽車を下りて、富士形の黒帽子を
冠
(
かぶ
)
り、小形の
緑絨氈
(
みどりじゅうたん
)
のカバンを
提
(
さ
)
げて、
蹣跚
(
まんさん
)
と改札口を出て行くのが見えた。
江刺
(
えさし
)
へ十五里、と停車場の案内札に書いてある。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
某政治家も
爛酔
(
らんすい
)
して前後もわきまえず女中の助けをかりて
蹣跚
(
まんさん
)
として玄関に来たが、自分の強さ加減を証拠だてるため、女中が
冠
(
かぶ
)
らせた帽子を、
戦
(
おのの
)
く手より奪いとり、玄関の柱に
叩
(
たた
)
きつけ
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
二人は
蹣跚
(
まんさん
)
たる足どりで、縺れ合うようにして噴水のある池の端までやって来た。
青銅
(
ブロンズ
)
の鶴は形のいい翅をキラキラと光らせながら蒼白い水の吐息を噴上げ、今にも空に舞上ろうとするよう。
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
私はのみ過ぎた酒の為に、
稍
(
やや
)
蹌踉
(
そうろう
)
蹣跚
(
まんさん
)
として歩いていたわけです。
悪魔の弟子
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
半蔵門の方より来たりて、いまや
堀端
(
ほりばた
)
に曲がらんとするとき、一個の
年紀
(
とし
)
少
(
わか
)
き美人はその
同伴
(
つれ
)
なる老人の
蹣跚
(
まんさん
)
たる酔歩に向かいて注意せり。
渠
(
かれ
)
は編み物の手袋を
嵌
(
は
)
めたる左の手にぶら
提灯
(
ぢょうちん
)
を携えたり。
夜行巡査
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
(
蹣跚
(
まんさん
)
として、暗き長廊下を歩み近づく。)
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
其処へ
蹣跚
(
まんさん
)
と通りかゝつた痩せぎすの和服の酔客を呼び止めて、「泉君、泉君、いゝ人を紹介してやらう———これが谷崎君だよ」
青春物語:02 青春物語
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
で、ほどなく道誉は、腹心たちにささえられながら、
蹣跚
(
まんさん
)
たる足どりで、茶堂から本丸のほうへひきあげて行ったのだった。
私本太平記:07 千早帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
晦日
(
みそか
)
の空は眞つ暗で、柳原土手はこの間からの辻斬の噂で人つ子一人通りません。和泉橋のところから新し橋近くなると、八五郎の足は
蹣跚
(
まんさん
)
として居ります。
銭形平次捕物控:317 女辻斬
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
東京には、かういふ娘がひとりで
蹣跚
(
まんさん
)
の気持ちを
牽
(
にな
)
ひつつ慰み歩く場所はさう多くなかつた。大川端にはアーク燈が
煌
(
きら
)
めき、涼み客の往来は絶ゆる間もない。
蝙蝠
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
唐代の
衣冠
(
いかん
)
に
蹣跚
(
まんさん
)
の
履
(
くつ
)
を危うく踏んで、だらしなく腕に巻きつけた長い袖を、童子の肩に
凭
(
もた
)
した酔態は、この家の
淋
(
さび
)
しさに似ず、
春王
(
はるおう
)
の四月に
叶
(
かな
)
う楽天家である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
蹣跚
(
まんさん
)
として歩いて行く。と、またもや左のほうへ、ヒョロヒョロヒョロヒョロとよろめいた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
われは
蹣跚
(
まんさん
)
として
階
(
きざはし
)
を下り、舟を
喚
(
よ
)
びて水の
衢
(
ちまた
)
を逍遙せり。二人の
柁手
(
こぎて
)
は相和して歌ふ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
あの腫物は直ったかしら? ——酔歩
蹣跚
(
まんさん
)
たる四十起氏と、暗い往来を歩いていたら、丁度我々の頭の上に、真四角の小窓が一つあった。窓は雨雲の垂れた空へ、斜に光を射上げていた。
上海游記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
酔歩
蹣跚
(
まんさん
)
といったぐあいに肩から先に前のめりになってヨロヨロと二三歩泳ぎだすかと思うと、とつぜん立ちどまってはげしく大息をつき、両手で胸のあたりを掻きむしるような真似をして
顎十郎捕物帳:24 蠑螈
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
瞼
(
まぶた
)
はもう離れようとしなかった。意識は何も受けつけないのだ。
蹣跚
(
まんさん
)
とした大広間の往復が、自席に着いてどっと疲労を呼びおこした。彼は
潰
(
つい
)
えるように横になった。
肱枕
(
ひじまくら
)
に他の手を添えた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
これだけ繰り返した津田はいったん
塞
(
つか
)
えた。その
後
(
あと
)
で
継
(
つ
)
ぎ
足
(
た
)
した文句はむしろ
蹣跚
(
まんさん
)
として
揺
(
ゆら
)
めいていた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「は」と
返辞
(
いらえ
)
て市之丞は、御嶽冠者にまず一礼し、それからつと立ち上がったが、
疲労
(
つか
)
れた体には歩くことさえ出来ず、
蹣跚
(
まんさん
)
として倒れようとするのを素早く走って支えた姫
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ボーイ長が引き退ると間もなく、縮れっ毛団栗眼の、「長崎絵」の
加比丹
(
カピタン
)
のような面をした
突兀
(
とっこつ
)
たる人物が一種
蹣跚
(
まんさん
)
たる足どりで入って来て、皇帝の前へ直立すると、危なっかしいようすで敬礼をし
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
品行が方正でないというだけなら、まだしもだが、大に
駄々羅遊
(
だだらあそ
)
びをして、二尺に余る料理屋のつけを懐中に
呑
(
の
)
んで、
蹣跚
(
まんさん
)
として登校されるようでは、教場内の令名に関わるのは無論であります。
文芸の哲学的基礎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
元気よく
蹣跚
(
まんさん
)
として彷徨って行く。手拍子を打つ手がヒラヒラと動いて、明るい初夏の日をはね返して、手首が肩の上へ上がるごとに、手の甲のほうが日蔭となって、
掌
(
てのひら
)
のほうが明るんで見える。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
云いすてて陸奥守は
蹣跚
(
まんさん
)
と、この座敷から出て行った。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
“蹣跚”の意味
《名詞・形容動詞》
よろめくさま。
(出典:Wiktionary)
蹣
漢検1級
部首:⾜
18画
跚
漢検1級
部首:⾜
12画
“蹣跚”で始まる語句
蹣跚蹣跚
蹣跚飄々