衣桁いかう)” の例文
とこわきの袋戸棚ふくろとだなに、すぐに箪笥たんす取着とりつけて、衣桁いかうつて、——さしむかひにるやうに、長火鉢ながひばちよこに、谿河たにがは景色けしき見通みとほしにゑてある。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お光は立つて、小池の背後うしろからしわくちやになつたインバネスをがし、自分のひと羽織ばおり一所いつしよに黒塗りの衣桁いかうへ掛けた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
たまたま手がさはつたと思へば、衣桁いかうや鏡台ばかりである。平中はだんだん胸の動悸が、高まるやうな気がし出した。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
中には不景氣な鏡臺と衣桁いかうと火鉢、脱ぎ散らした着物の中に、眞珠太夫は立ちすくんだまゝ少し顫へて居ります。
「これから御勉強でございますか。」と、おくみは後で、衣桁いかうにかけてあつた袴を下して畳んだ。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
橋をわたつたところのうす暗い部屋には衣桁いかうに輪袈裟や数珠がかかつて香の薫がすーんともれてくる。私はそこまでゆきはしたものの急に気おくれがしてためらつてゐた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
かたはらにある衣桁いかうには、紅梅萌黄こうばいもえぎ三衣さんえを打懸けて、めし移りに時ならぬ花を匂はせ、机の傍に据ゑ付けたる蒔繪のたなには、色々の歌集物語かしふものがたりを載せ、柱には一面の古鏡を掛けて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ここの処に衣桁いかうがあつて、始終、目の覚めるやうな着物が、取替へ引替へ掛かつてゐましたつけ……。それから、ここに鏡台が置いてありましたな。奥さんが、朝晩、丹念にお化粧をなさる。
百三十二番地の貸家 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ふしませとそのさがりし春の宵衣桁いかうにかけし御袖かづきぬ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その中に、上衣を衣桁いかうにかけようとした妻は、ふと
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
義兄にいさんのうたほんをおみなさるのと、うつくしい友染いうぜん掛物かけもののやうに取換とりかへて、衣桁いかうけて、ながら御覧ごらんなさるのがなによりたのしみなんですつて。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
衣桁いかうの帯からこぼれる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
東枕ひがしまくらしろきれに、ほぐしたおぐし真黒まつくろなのがれたやうにこぼれてて、むかふの西向にしむきかべに、衣桁いかうてゝあります。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
衣桁いかうに掛けた友染いうせん
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
陽氣やうきで、障子しやうじ開放あけはなしたなかには、毛氈まうせんえれば、緞通だんつうえる。屏風びやうぶ繪屏風ゑびやうぶ衣桁いかう衝立ついたて——おかるりさうな階子はしごもある。手拭てぬぐひ浴衣ゆかた欄干てすりけたは、湯治場たうぢばのおさだまり。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蜿蜒ゑんえんとして衣桁いかうに懸る処、恰も異体いたいにして奇紋きもんある一条の長蛇の如く、繻珍しゆちん、西陣、糸綿、綾織繻珍あやおりしゆちん綾錦あやにしき純子どんす琥珀こはく蝦夷錦えぞにしき唐繻子たうじゆす和繻子わじゆす南京繻子なんきんじゆす織姫繻子おりひめじゆすあり毛繻子けじゆすあり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すそはうがくすぐつたいとか、なんとかで、むすめさわいで、まづ二枚折にまいをり屏風びやうぶかこつたが、なほすきがあいて、れさうだから、淡紅色ときいろながじゆばんを衣桁いかうからはづして、鹿扱帶しごき一所いつしよ
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)