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色男
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いろをとこ
「あら、辰つアんなの、いやに
色男に
見えたからさ……ゐるわよ、どうぞ。」
あつとも
言はず、
色男、
搖るやうにわな/\と
身をくねると、がつくりと
成つて、
腰から
先へ、べた/\と
膝が
崩れる。
自分で
許す
色男が、
思ひをかけて
屆かぬ
婦を、
恁うして
人に
誇る
術は
隨分數へ
切れないほどあるのである。
と
怒鳴つた。
裡に
敵ありと
見て、
直ぐに
猪の
如く
飛込まないのが、しかし
色男の
身上であると
思へ。
渾名を
鳶の
鳥逕と
言つたが、
厚眉隆鼻ハイカラのクリスチヤンで、そのころ
拂方町の
教會を
背負つて
立つた
色男で……お
父さんの
立派な
藏書があつて、
私たちはよく
借りた。
且又同じ
一國一城の
主と
成るにも
猛者が
夜撃朝懸とは
質が
違ふ。
色男の
仕こなしは、
情を
含んで、しめやかに、もの
柔しく、
身にしみ/″\とした
風が
天晴武者振であるのである。
從つて、
其の
頃の
巷談には、
車夫の
色男が
澤山あつた。
一寸岡惚をされることは、やがて
田舍まはりの
賣藥行商、
後に
自動車の
運轉手に
讓らない。
立志美談車夫の
何とかがざらにあつた。
「へい。」と、
思はず
口へ
出たのを、はつと
蓋する
色男、
忍びの
體は
喝采ながら、
忽ち
其の
手で、
低い
鼻を
蔽はねば
成らなかつたのは、
恰も
其の
立たせられた
處が、
廁の
前、は
何うであらう。
自分で
許す
色男が、
思をかけて
屆かぬ
婦を、かうして
人に
誇る
術は。
ほゝゝ、
色男や、
貴女に
馴染んでから
丁ど
半年に
成りますわね。
御新造に
馴染んでからも
半年よ。
貴方が
私の
許へ
來て
居るうちは、
何時でも
此方へ
來て
居たの。あら、あんな
顏をしてさ。
一寸色男。