艱難辛苦かんなんしんく)” の例文
お前は活溌な生れ付きで、気象きしょうもしっかりしているから、きっと、あらゆる艱難辛苦かんなんしんくに堪えて、身分を隠しおおせるだろうと思う。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日まで共に艱難辛苦かんなんしんくをして来た妹を、このような不幸な結果におとすなら、むしろいさぎよくお浜館の前で兄妹ともに命を捨てるべきだ。
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はそのとおりをしようと努めました。それからというもの、私は艱難辛苦かんなんしんくして修業しました。それはずいぶん苦しみましたよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
空恐そらおそろしいやらで……その後、わたくしの受けました厳しいお調べや折檻せっかんなど、あなた様の艱難辛苦かんなんしんくに比べれば、物の数でもござりませぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其方共儀むこ夫等をつとら災難さいなんを歎き艱難辛苦かんなんしんくの上公儀巡見使じゆんけんしうつたへ出申立明了あきらかなるにより善惡判然と相あらはれ九助の寃罪ゑんざいそゝぎし信義しんぎ貞操ていさうの段厚くほめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
このほか、報効義会ほうこうぎかいの会員四名。この人たちは、占守しゅむしゅ島に何年か冬ごもりをして、多くの艱難辛苦かんなんしんくをなめて、漁業には、りっぱな体験をもった人々。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
最愛いとしい、沢山たんとやつれ遊ばした。罪もむくいもない方が、こんなに艱難辛苦かんなんしんくして、命に懸けても唄が聞きたいとおっしゃるのも、おっかさんの恋しさゆえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その恨みを晴らす役目は誰の仕事ですか、この年月、兵馬がこうして艱難辛苦かんなんしんくしているのも何のためだと思召おぼしめす……
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
数年すねん勉強の結果をむなしうして生涯二度の艱難辛苦かんなんしんくと思いしは大間違おおまちがいの話で、実際を見れば蘭と云い英と云うも等しく横文にして、その文法もほぼあい同じければ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかもその主人公はこうまいなる理想を持ち、その理想ゆえに艱難辛苦かんなんしんくをつぶさにめ、その恥じるところなき阿修羅あしゅらのすがたが、百千の読者の心に迫るのだ。
めくら草紙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕たちの船長は、艱難辛苦かんなんしんくのうちにたたき上げて得た勇気と、胆力と、沈着とによって、人びとの信用のまととなっている、粘り強い、磊落らいらくな船員の標本の一人であった。
その平生へいぜい涵養かんよう停蓄ていちくする所の智識と精神とにるべきは勿論もちろんなれども、妾らを以てこれを考うれば、むしろ飢寒きかん困窮こんきゅうのその身をおそうなく、艱難辛苦かんなんしんくのその心を痛むるなく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
仏さまのためには、どんな艱難辛苦かんなんしんくもいとわない、命なんかいつでもすてるという気風きふうなんだ。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのあいだの短い期間に、いかに寿命じゅみょうのちぢまるような艱難辛苦かんなんしんくをなめたかは、その姿にもあらわれていた。あかは襟につみ、顔は真っ黒にけ、眼のくぼの肉すら薄くなっている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さま/″\の艱難辛苦かんなんしんくをいたしましたが、それでも神様のお助けで、虎のあぎとのがれまして、再び貴方にお目に懸ることが出来ました、これと云うのも矢張やっぱり神様のお助けでございます
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こういう大大名おおだいみょうのうしろだてを持っている彼らのかたき討よりも、無名の匹夫ひっぷ匹婦ひっぷのかたき討には幾層倍いくそうばい艱難辛苦かんなんしんくが伴っていることと察しられるが、舞台の小さいものは伝わらない。
かたき討雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十年の間艱難辛苦かんなんしんくして来て、やうやくつきとめられさうになつた仇敵を、今ここで許してやることなどどうして出来るものかと思つてゐた。しかし医者のいふことなどどうでもよかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
女ひとり永年艱難辛苦かんなんしんくの末、ようやくにしてたずねあてたる父のかたきにめぐりあい、優曇華うどんげの花咲くここちいたしておりまするに、この場において仇討ちならぬとおおせられまするか?
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
どんな艱難辛苦かんなんしんくを為ても、きつと貴方に添遂そひとげて、この胸に一杯思つてゐる事もすつかり善く聴いていただき、又この世で為遺しのこした事もその時は十分為てお目に掛けて、必ず貴方にもよろこばれ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いずれの関門長も俗にいう狐につままれたごとく、ことにかの眼の鋭いチーキャブ、二十年以来インド地方に在って艱難辛苦かんなんしんくめつつ種々の世渡りをして来たかの人足廻にんそくまわしのダルケさえ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
艱難辛苦かんなんしんくして育った父さんは、人様に馬鹿にされる口惜くやしさが昂じて、一生のうちには、土にかじり付いても検校の位に上り、今まで馬鹿にした人達を、眼下に見てやろうと思い立ったのです
しかし我々の両親や教師は無邪気にもこの事実を忘れている。尊徳の両親は酒飲みでも或は又博奕ばくち打ちでも好い。問題は唯尊徳である。どう云う艱難辛苦かんなんしんくをしても独学を廃さなかった尊徳である。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とにかく、これだけの艱難辛苦かんなんしんくによって一等三角網が完成される。
地図をながめて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
當に行先々の氣配りに難儀なんぎ艱難辛苦かんなんしんくともいはん方なき事どもなり漸々にして三州岡崎迄はきたれどももとより手薄てうすの其上に旅の日數も重なれば手當の金子かね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どんな艱難辛苦かんなんしんくを加えようとも、この動物と行程を共にしようとの気持になったのであります。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其後ようとして消息を絶った為に異郷に死せるものと信じられていたが、実はあらゆる艱難辛苦かんなんしんくを嘗めて大身代を作り、余生を楽しく送らんが為に、莫大な財産を携えて帰って来た。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
元来不幸といひ、窮苦といひ、艱難辛苦かんなんしんくといふもの、皆我を我としたる我をもつて、他に——社会に——対するより起る処の怨言ゑんげんのみ。愛によりて我なかりせば、いづくんぞそれ苦楽あらむや。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
せっかくいままで、艱難辛苦かんなんしんくをきりぬけてきたものを、また、これからさきも、命のあるかぎり、働こうというのに、名も知らぬ島の野生の草の実で、命をなくしたり、病気になっては、たまらない。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
「ウム。ではそのためには、どんな艱難辛苦かんなんしんくもいとうまいな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謀反人むほんにんの娘として、お紋は艱難辛苦かんなんしんくめました。
そこで私も雪の中を艱難辛苦かんなんしんくしてあれまでまいる必要がないような心持になりました
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(それを相手に悟られない為に、彼はどれ程の艱難辛苦かんなんしんくめたであろう。)
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
世話好者せわずきの多きは常なるに傳吉か宅へ其夜來し人々は翌朝五六人おせんを野尻のじり宿の與惣次方へおくり行き前夜の始末しまつを話し又傳吉が心の廣きこと恨みある伯母に艱難辛苦かんなんしんくしてためし金の半分を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)