腫物できもの)” の例文
我国にて塩引にしたるを大晦日おほつごもりせちには用ひざる家なし。又病人にもくはす。他国にて腫物できものにいむは、これになれざるゆゑにやあらん。
それを師匠が嫉妬やきもちをやきまして、何も怪しい事も無いのにワク/\して、眼のふちへポツリと腫物できものが出来まして、それがれまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
次女は年が年中腫物できものだらけの頭をしていた。風通しが悪いからだろうというのがもとで、とうとう髪の毛をじょぎじょぎにってしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お忘れかもしれませんが、たった一ぺん、おふくろの腫物できものなおしていただいたことがございましてね。はい。潯陽江じんようこうの張順と申すんで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は今度からだ腫物できものが出来たので、これは是非共ぜひとも、入院して切開をしなければ、いけないと云うから、致方いたしかたなく、京都きょうとの某病院へりました。
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
わたしは腫物できもので困つてゐる者ですが、幸ひに親切な人が一貼いっちょう膏薬こうやくをくれまして、これを貼ればぐになおるといふのです。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
紫錦しきん」と「とっつあん」は云いつづけた。「俺の命は永かあねえ、胃の腑に腫物できものが出来たんだからな。で俺はじきに死ぬ。また死んでも惜しかあねえ。 ...
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
本職でなくてもい。腫物できもののあるのや禿頭病とくとうびょう白雲しらくも田虫たむし湿瘡しっそう皮癬ひぜんなんてのを見繕みつくろって、かわり立ち代り坐り込ませる。これなら親類にいくらもあるだろう?
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
じっとしていると、水面にのぞいている大きな眼のようでもあり、どんよりよどんだ沼の腫物できもののようでもある。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
夫人は身体に妙な腫物できものが出来たといって、温泉の別荘へ来てられた。それは確です。僕はその変名婦人の主治医ということになっていました。それもたしかです。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ハイ、猪の肉は冬の寒い時食べても人の腫物できものきずぐにうみを持つ位で大層刺撃性の強いものです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし驚くべきはこの辺に住んでいる女房たちで、寒い日にはそれをばしきりと便利がって、腫物できものだらけの赤児あかごを背負い汚い歯を出して無駄口をききながら物を洗っている。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうして其処を気にしながら、「腫物できものが出来ましてね。」とこぼしていた。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は元来脾弱ひよわかつたうへに生れると間もなく大変な腫物できもので、母の形容によれば「松かさのやうに」頭から顔からいちめんふきでものがしたのでひきつづき東桂さんの世話にならなければならなかつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
あおぱなだの、腫物できものたかりだの、眼やにくそだの、味噌っぱだの、頬も手も、かじかんでる癖に、寒さを知らない伊吹山の麓の風の子たちが
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼の下へポツリとおかしな腫物できものが出来て、其の腫物が段々腫上はれあがって来ると、紫色に少し赤味がかって、たゞれてうみがジク/″\出ます、眼は一方腫塞はれふさがって
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
腫物できものなんて嘘の皮さ。ただ甘い亭主をだます悪がしこい手段に過ぎなかったのさ。オイ、お豊、わしの推察に少しでも間違った所があるか。あるなら云って見るがいい。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そんなことはありませんよ。腫物できもので瞼が引き釣ったりした場合には必要な手術ですからね」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ただ自分の隣りに腫物できものだらけの、腐爛目ただれめの、痘痕あばたのある男が乗ったので、急に心持が悪くなって向う側へ席を移した。どうも当時の状態を今からよく考えて見るとよっぽどおかしい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほんとにほんとに太郎丸という奴、まるで命取りの腫物できもののような奴だ!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところが近世の新刀となると、これほど錆させたらもうだめですわい。新刀の錆は、まるでたちのわるい腫物できもののように地鉄じがねしんへ腐りこんでいる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっき彼処あすこへ掛ると雨は降出します、土手を下りるにも、鼻をつままれるも知れません真の闇で、すると、お久の眼の下へポツリと腫物できものみたような物が出来たかと思うと
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
瑠璃子は、数日前から身体に腫物できものが出来て、少しも直らないというのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手術ってたって、そう腫物できものうみを出すように簡単にゃ行かないんだよ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
腫物できものなら私だと痛いですから、誰か他の方に紹介して上げましょう」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
またよく見ると、その毛の根には、大きなきゅうあとみたいな古傷がある。幼少の時に病んだちょうという腫物できもののあとで
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高く成ったから不思議で、何うなさるかと思うと、額の肉をいで鼻へ附けて、段々高くしたんですが、飴細工みたようで、少し腫物できものが痛いと云うと、フと斬って、イヤなおったろうと云うのですが
勝家は大紋の衣服のしわを大きく揺りうごかした。ひるまえなのでまだ暑気もさしてではないが、彼には式服の厚着と例の皮膚の腫物できものとが人知れぬ苦痛らしかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耕介の横びんに薄禿うすはげがあって、鼠にかじられたような腫物できものに、膏薬こうやくが貼ってあるところなど——かまの中できずになった陶器やきものの自然のくッつきとも見えて、一だんと
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭の脳天に——ちょうど月代さかやきの辺にちょうという腫物できものわずらって、今でもあざのような黒いあとを残しているので
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひん曲った板屋廂いたやびさしの下や、荒壁と荒壁の路地のあいだから、この界隈かいわいの子達が、あせもだの腫物できものだの、鼻くそ光りの顔をもって、羽の強い虫みたいにいま飛び出して来た。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛮境の乱は、たとえば癬疥せんかいという腫物できもののようなもので、気にすればうるさい病だが、ほうっておけばまたいつのまにか癒るものである。——何とかお考え直しはなりませぬか
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちどの湯浴ゆあみも水拭きもしたことなく、皮膚はあかとこの冬中の寒気で松かさみたいになっている。やや暖かになって来たと思うと、体じゅう得体えたいの知れない腫物できものができてきた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、喰われた後は血になって、それが無数に、胡麻粒ごまつぶほどな腫物できものになっていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内職もやる、百姓仕事もする、それでもなお喰えないとみえ、非番の日は、腫物できものだらけな子どもを負い、洟垂はなたらしの手をひいて、諸家の弓直しや具足の手入れなどさせて貰ってのりをしていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「背なかの腫物できものをこの眼で見たい。鏡をよこせ」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅土産たびみやげは、腫物できものでござったか」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)