経机きょうづくえ)” の例文
旧字:經机
兵馬はそんなことを考えると頭が重くなって、経机きょうづくえの上に両手でその重い頭を押えて俯伏うつむいた時、ハラハラと涙がこぼれました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まず厨子ずしの本尊仏をかつぎだし、燭台経机きょうづくえの類をはじめ、唐織からおりとばり螺鈿らでんの卓、えいの香炉、経櫃きょうびつなど、ゆか一所ひととこに運び集める。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内供は、こう云う時には、鏡を箱へしまいながら、今更のようにため息をついて、不承不承にまた元の経机きょうづくえへ、観音経かんのんぎょうをよみに帰るのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分はおごそかなる唐獅子の壁画に添うて、幾個いくつとなく並べられた古い経机きょうづくえを見ると共に、金襴きんらん袈裟けさをかがやかす僧侶の列をありありと目にうかべる。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
旅魚屋の傳次は本堂へ出ましたが、勝手を知らんから木魚につまづき、前へのめるはずみに鉄灯籠かなどうろうを突飛し、円柱まるばしらで頭を打ちまして経机きょうづくえの上へ尻餅をつく。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
廻廊ごしに山の景色の見える、古びてはいるが高雅な部屋に、几帳きちょうを横にし経机きょうづくえり、短檠たんけいの光かすかな中で、飛天夜叉の桂子かつらこが、観音経を書写しょしゃしていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
枕頭ちんとうにすえられた経机きょうづくえにはしきみの枝をかざり、香のけぶりが燈明のまたたきのなかにゆれていた。
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
派手な寝まきの肩もほっそりと隅の経机きょうづくえによって、しきりに何か物思いに沈んでいるようす。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
皆、参詣の人を待って、はじめて扉を開く、すぐまたあとをとざすのである。が、宝物庫ほうもつぐらには番人がいて、経蔵には、年紀としわかい出家が、火の気もなしに一人経机きょうづくえむかっていた。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上に、水のしたたるような高島田にうたオモヨさんの死骸が、丸裸体まるはだかにして仰向けに寝かしてありまして、その前に、母屋おもやの座敷に据えてありました古い経机きょうづくえが置いてあります。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
枕上まくらがみ経机きょうづくえを据え、線香を立てた。奈々子は死に顔美しく真に眠ってるようである。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
或る場合には月代さかやきってやり、或る場合には経机きょうづくえから香炉を取って煙の上に髪の毛をかざしてやり、それから右の手に新しい元結を持ち、その一方の端を口にくわえ、左手で髪をつかね上げて
あるいは漆器の経机きょうづくえ経箱きょうばこ過去帳かこちょう、または応量器おうりょうきだとか香炉台こうろだいだとか、あるいはまた過去帳台とか位牌いはいだとかに、しばしば優れた形や塗のものにめぐり会います。いつも伝灯でんとうの深さが後に控えます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
春の日に仕舞ひてかへる経机きょうづくえ 正秀まさひで
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ただ、畳台たたみだいを一じょう、少し奥のほうへ引き下げて、古びた経机きょうづくえを一つ置き、それを前に、法然は、坐っているのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿闍梨あざりは、身を稍後ややあとへすべらせながらひとみらして、じっとその翁を見た。翁は経机きょうづくえの向うに白の水干すいかんの袖を掻き合せて、仔細しさいらしく坐っている。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
枕許まくらもとに少しはなして、経机きょうづくえを据え、湯呑にしきみの葉が一枚入っていた。それだけで、香も、燈明もあげてはなかった。甲斐は夜具のそば近く坐って、じっと死顔を見まもった。
侍女の声に、萩乃は、むすめ島田の重い首を、突っぷしていた経机きょうづくえからあげて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
両親の墓のある谷中三崎さんさき天竜院てんりゅういんへまいり、和尚に特別の回向を頼み、供養のために丹誠をこらして経机きょうづくえ磐台きんだいなど造って、本堂に納め、両親の命日には、雨風をいとわず必ず墓まいりをいたしました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その中の棚にはすっかけに乗せてあった経机きょうづくえではない小机の、脚をえぐって満月をすかしたはいいが、雲のかかったように虫蝕むしくいのあとのある、ったか、古びか、真黒な、引出しのないのに目を着けると……
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天王寺てんのうじ別当べっとう道命阿闍梨どうみょうあざりは、ひとりそっと床をぬけ出すと、経机きょうづくえの前へにじりよって、その上に乗っている法華経ほけきょう八のまきあかりの下に繰りひろげた。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、ふと内陣の壇を仰ぐと、御厨子みずしのうちには本尊仏もなかった、香華こうげびんもない、経机きょうづくえもない、がんもない、垂帳とばりもないのである。吹きとおる風だけがさわやかであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床の間のまえに、経机きょうづくえが一きゃくいてある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ドンと板縁にこじりをついて、その大刀を横に提げ直した日本左衛門が、ばらばらと方丈の奥へ駆け込もうとすると、内陣の宝燈、経机きょうづくえをくずして、忽然とおどり立った一人のものが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)