白張しらはり)” の例文
月夜の白張しらはり、宙釣りの丸行燈まるあんどう、九本の蝋燭ろうそく、四ツ目の提灯ちょうちん、蛇塚を走る稲妻、一軒家の棟を転がる人魂ひとだま、狼の口の弓張月、古戦場の火矢の幻。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路端みちばたの人はそれを何か不可思議のものでもあるかのように目送もくそうした。松本は白張しらはり提灯ちょうちん白木しらき輿こしが嫌だと云って、宵子の棺を喪車に入れたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが漸次しだいちかづくと、女の背におぶはれた三歳みっつばかりの小供が、竹のを付けた白張しらはりのぶら提灯ぢょうちんを持つてゐるのだ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ところへ大きなたけしやくもある白張しらはり提灯ちやうちんつるさがつてります、其提灯そのちやうちんわりには蝋燭ろうそくほそうございますからボンヤリして、うも薄気味うすきみの悪いくらゐなん陰々いん/\としてります。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その門前には、造花の蓮華れんげだの、白張しらはり提灯ちょうちんだのが出ていて、小紋の短か羽織を着た田舎人いなかびとだの、編笠をかぶった紋服の人々だのが、大勢、陽溜ひだまりの往来に佇立たたずんでいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手桶片手に、しきみげて、本堂をグルリとまわって、うしろの墓地へ来て見ると、新仏しんぼとけが有ったと見えて、地尻じしりに高い杉の木のしたに、白張しらはりの提灯が二張ふたはりハタハタと風にゆらいでいる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
次の部屋は一面の蘭塔婆らんとうば、舞台をぐっと薄暗くして、柳の自然木の下、白張しらはりの提灯の前に、メラメラと焼酎火しょうちゅうびが燃えると、塔婆の蔭から、髪ふり乱して、型のごとき鼠色ねずいろ単衣ひとえを着た若い女が
たとえば夜の睫毛まつげのような、墨絵に似た松の枝の、白張しらはりの提灯は——こう呼んで、さしうつむいたお桂の前髪を濃く映した。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物凄ものすごき夜と風と雨とを描く。寒き灯火ともしびを描く。白張しらはり提灯ちょうちんを描く。——ぞっとして想像はとまる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芝の大鐘おおがねは八ツ時でちらり/\と雪の花が顔に当る処へ、向うから白張しらはりの小田原提灯を点けて、ドッシリした黒羅紗くろらしゃの羽織に黒縮緬の宗十郎頭巾そうじゅうろうずきん紺甲斐絹こんがいきのパッチ尻端折しりはしおり
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
初七日しょなぬかもうでし折には、なかばれたる白張しらはり提灯ちょうちんさびしく立ちて、生花いけばなの桜の色なくしぼめるを見たりしが、それもこれも今日はのこりなく取捨られつ、ただ白木の位牌と香炉のみありのままに据えてあり。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もりしたこみちけば、つちれ、落葉おちばしめれり。白張しらはり提灯ちやうちんに、うす日影ひかげさすも物淋ものさびし。こけし、しきみれたるはかに、もんのみいかめしきもはかなしや。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見ると、妹の墓地の前——新ぼとけをまつる卒塔婆そとばや、白張しらはり提灯や、しきみや、それらが型のごとくに供えられている前に、ひとりの男がうつむいておがんでいた。そのうしろ姿をみて、僕はすぐに覚った。
海亀 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白張しらはりの小田原提灯が見えましたから
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やぼねの下に流るる道は、細き水銀の川のごとく、柱の黒い家のさま、あたかもかわうそ祭礼まつりをして、白張しらはり地口行燈じぐちあんどんを掛連ねた、鉄橋を渡るようである。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの提灯が寂しいんですわ……考えてみますと……雑で、白張しらはりのようなんですもの。」——
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、界隈かいわいの荒れた卵塔場から、葬礼とむらいあとを、引攫ひっさらって来たらしい、その提灯は白張しらはりである。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歩手前あしてまえの店のは、白張しらはり暖簾のれんのような汚れた天蓋てんがいから、捌髪さばきがみの垂れ下った中に、藍色の片頬かたほに、薄目を開けて、片目で、置据えの囃子屋台をのぞくように見ていたし、先隣さきどなりなのは
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新盆にいぼんに、切籠きりこげて、父親おやじと連立って墓参はかまいりに来たが、その白張しらはりの切籠は、ここへ来て、仁右衛門爺様じいさまに、アノ威張いばった髯題目ひげだいもく、それから、志す仏の戒名かいみょう進上しんじょうから、供養のぬし、先祖代々の精霊しょうりょう
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ともしなき御神燈は、暮迫る土間の上に、無紋の白張しらはり髣髴ほうふつする。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)