男子おとこ)” の例文
そのころ良人おっとはまだわこうございました。たしか二十五さい横縦よこたてそろった、筋骨きんこつたくまましい大柄おおがら男子おとこで、いろあましろほうではありません。
「おまえさんの壮年としで、独身ひとりみで、情婦がないなんて、ほんとに男子おとこ恥辱はじだよ。私が似合わしいのを一人世話してあげようか」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妾はこれまで参りますのに、誰もいて来る者が御座いませぬから、旅を致すのに都合のよいように、こんな男子おとこの姿を致して参りました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
新「ヘエ、成程鼻の高い男子おとこだ、眼の下に黒痣ほくろが有りますか、おゝ成程、だが新五郎様と云う証拠が何か有りますか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
男子おとこかたが不行跡で、良人なんぞはまあ西洋にもまいりますし、少しはいいのでしたが、それでも恥ずかしい事ですが、私も随分心配をいたしました。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
父の言うとおり財産のないだけで、清六が今少し男子おとこらしければ、おとよさんも気をもむのではない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「高田殿は乱行、若き男子おとこを屋敷内に引入れて、ちょう衰えると切殺し、井戸の中に死骸を捨てられるよ」
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
目下妊娠していて子供が男子おとこであってくれればよいという事ばかり云っていた。夫は勤めている会社に、このまま、おとなしくさえしていれば、将来生活にこまる事はない。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ぎしりするほど腹立はらたゝしく、此老婆このばゞはりたほすにことけれど、たゞならぬ美尾みを心痛しんつういてはにまでおよぼすべき大事だいじむねをさすりて、わたしとても男子おとこはし御座ござりますれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかも和歌までも堪能かんのうで、男ぶりは何様どうだったか、ひょろりとして丈高く、さし肩であったと云われるから、ポッチャリとした御公卿おくげさんだちの好い男子おとこでは無かったろうと思われる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
またかく真直な上に多くの節がかさなっていますのでこれを婦人の貴い貞節に喩られています。松は豪壮勇偉な男子おとこ、竹は貞節ある淑徳な女子おなご、これは誠に相応ふさわしい双璧ではありますまいか。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「そうだ。達也は男子おとこだからな、これ位のことに負けちゃならんぞ」
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「ええ、男子おとこにも血が起るということは有るで」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いや、もう、先方さき婦人おんなにもいたせ、男子おとこにもいたせ、人間でさえありますれば、手前はしょうのもの鬼でござる。——おおかみ法衣ころもより始末が悪い。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たゞ新五郎様と云う御惣領ごそうりょうの若様が有ったが、今居れば三十八九になったろうけれども行方知れず覚えて居て下さい、鼻の高い色の白い男子おとこだ、目の下に大きな黒痣ほくろが有ったよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やつちよいやつちよい譯なしだと捩ぢ鉢卷をする男子おとこのそばから、夫れでは私たちが詰らない、皆が騷ぐを見るばかりでは美登利さんだとて面白くはあるまい、何でもお前の好い物におしよと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分じぶん三人さんにんのきょうだいのなかかしらほかみな男子おとこでございました。』
「何故ってホントにいらっしゃるおつもりなら差し上げますわ。何でもない事ですから……イクラでも……わたくしモトからエチオピア贔屓びいきですから。私が男子おとこなら自分で行きたいくらいに思っているんですからね」
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
途中で、ははあ、これが二十世紀の人間だな、と思うのを御覧なすったら、男子おとこでも女子おんなでもですね、唐突だしぬけ南無阿弥陀仏なむあみだぶつと声をかけてお試しなさい。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手織の糸織縮いとおりちゞみを広袖にして紫縮緬呉羅むらさきちりめんごろうの袖口が附いて居ます、男子おとこの着物には可笑しいようで、ずいと前を広げても白縮緬か緋縮緬のふんどしをしめるのではありません、矢張晒木綿さらしもめんの褌で
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やつちよいやつちよい訳なしだとぢ鉢巻をする男子おとこのそばから、それでは私たちがつまらない、みんなが騒ぐを見るばかりでは美登利さんだとて面白くはあるまい、何でもお前の好い物におしよと
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ると、むかうに一人ひとりわか男子おとこ姿すがたあらわれました。
以上に列記したるものを、はじめをはり取そろへむか、いくら安くつもつて見ても……やつぱり少しも安からず、男子おとこは裸百貫にて、女は着た処が、千両々々。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
えゝ引続ひきつゞきのお梅粂之助のお話。何ういう理由わけ女子おんなの名を先に云って男子おとこの名をあとで呼ぶ。お花半七とか、お染久松とか、夕霧伊左衞門とかいうような訳で、実に可笑おかしいものでござります。
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どうだね、殊に親も兄弟も叔父叔母もない。ただ手足と、顔と、綾羅錦繍りょうらきんしゅうと、三味線と冷酒ひやざけと踊とのみあって存する、あわれな孤児みなしごをどうするんです、ねえ君、そこは男子おとこの意地だ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男子おとこたるべきものがそんな意気地いくじがない魂ではいかんぞ
無念の情は勃然ぼつぜんとして起これり。繊弱かよわ女子おんなの身なりしことの口惜くちおしさ! 男子おとこにてあらましかばなど、言いがいもなき意気地いくじなさをおもい出でて、しばしはその恨めしき地を去るに忍びざりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)