生霊いきりょう)” の例文
旧字:生靈
これをもって、死霊しりょう生霊いきりょうの人に憑付することを信ずる徒はなはだ多し。また、世間に人魂ひとだまというも、生霊、死霊と同一物たるべし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その頃は女房のお楽も心がくじけ、その上巫女いちこの口寄せで、お染の生霊いきりょうの祟りで、お七が死んだと聞いては身も世もございません。
六条の御息所みやすんどころと葵の上との争いや、御息所の生霊いきりょうが葵の上を殺す話や、初々しい紫の上との関係や、朧月夜との恋などであったに相違ない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
夜雨やうあきさむうしてねむりらず残燈ざんとう明滅めいめつひとり思うの時には、或は死霊しりょう生霊いきりょう無数の暗鬼あんきを出現して眼中に分明なることもあるべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
市子は梓の弓を鳴らして、生霊いきりょう死霊しりょうの口寄せをするもので、江戸時代の下流の人々には頗る信仰されていたのである。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なにしろそれから二日の間に、かれの姿はいっそうみじめなものとなって、生霊いきりょうのように、ふらりと現れたのが二軒茶屋——玉造たまつくりの東口なのである。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると最初が処分の件、次が生徒取締とりしまりの件、その他二三ヶ条である。狸は例の通りもったいぶって、教育の生霊いきりょうという見えでこんな意味の事を述べた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しまいには私も妻を苦しめぬいた揚句、自分自身までがたまらなくなり、却って妻の生霊いきりょうに憑かれているのではないかとすら、思うようになったのです。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
なぜ自分の目はああした明らかな御息所の生霊いきりょうを見たのであろうとこんなことを源氏は思った。源氏の恋が再び帰りがたいことがうかがわれるのである。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
徳山という友だちの妹が病気で南平に加持をたのんだら生霊いきりょうがついてる。生霊を落すには五両かかると言う。あんまり高く吹ッかけるから夢酔に話をすると
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いにしえは美で人を悩殺したが、今は鬼気を以て人を襲うという凄味があるのは、小町その人の生霊いきりょうこもるというよりも、彫刻師その人の非凡がさせる業に相違ない。
何処どこで伺を立てゝも御鬮みくじ判断をして貰っても死霊と生霊いきりょうとの祟りだと云われて見れば、神経だから家中うちじゅうが心配致し、事によったら吉原の花魁が怨んでは居ないか
生きながら生霊いきりょうとなり、また死んでも霊となって現れるような、切ない女の心に表現されている。
……如何いかがはしいが、生霊いきりょうふだの立つた就中なかんずく小さなまと吹当ふきあてると、床板ゆかいたがぐわらりと転覆ひっくりかえつて、大松蕈おおまつたけを抱いた緋のふんどしのおかめが、とんぼ返りをして莞爾にこり飛出とびだす、途端に
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
非常に貴族的に見識高く、嫉妬心の強い人で、源氏の自由な恋愛生活をうらんで、生前は生霊いきりょうとなって葵の上を苦しめ、死後は死霊となって、源氏の二度目の北の方紫の上を苦しめる。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
生霊いきりょう死霊しりょう、のろい、陰陽師おんようしの術、巫覡ふげきの言、方位、祈祷、物の、転生、邪魅じゃみ、因果、怪異、動物の超常力、何でもでも低頭ていとうしてこれを信じ、これを畏れ、あるいはこれに頼り
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
敬神すべき宛所あてどころが亡われおわりては、ないよりは優れりという心から、いろいろの淫祀を祭り、蛇、狐、天狗、生霊いきりょうなどを拝し、また心ならずも天理教、金光教など祖先と異なる教に入りて
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
死霊しにりょう生霊いきりょう乗り移るということ聞いてますけど、何や光子さんの様子いうたら、綿貫の怨念おんねんたたってるみたいに日増しにすさんで来なさって、ぞうッと身の毛のよだつようなことありますのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
常陸坊は高館落城の当時から、行方不明と伝えられていた故に、後日生霊いきりょうとなって人にくにさしつかえはなく、また比較的重要でない法師であって、ていた様子を語るには都合がよかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もしや何かの生霊いきりょうが、門野に魅入みいっているのではないでしょうか。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
生霊いきりょうや死霊とは違って、あの小女郎ばかりは和尚様の回向えこうでも供養でも追っ付かねえ。ほんとうに困ったもんですよ
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生霊いきりょうだの死霊だのというものの実存を信じて、ほとんどが、神経質的な性格をおび、中には、狂疾にすら見える者が生じたのは、栄華の独占が、必ずしも
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御息所は世間で言う生霊いきりょうの説の否認しがたいことを悲しんで、人がどう批評するであろうかと、だれに話してみることでもないだけに心一つで苦しんでいた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうすると、お玉はゾッと水をかけられたようになって、ああこの人には生霊いきりょう死霊しりょうがついている、こわい人、いやな人、のろわしい人、その思いが一時にこみ上げて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
田舎気質かたぎの叔母さんが思い詰めて祈ってるに違いない、実に怖い顔だったよ、不思議だネ、何うも何処で見ても死霊しりょう生霊いきりょうの祟りだという処はあたってるじゃアねえか
他県にて死霊しりょう生霊いきりょうの話は一般にあるが、秋田県のタマシイは生霊に似てしかも違っている。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
生霊いきりょうと札の立った就中なかんずく小さな的に吹当てると、床板ががらりと転覆ひっくりかえって、大松蕈おおまつたけを抱いたふんどしのおかめが、とんぼ返りをして莞爾にっこりと飛出す、途端に、四方へ引張ひっぱった綱が揺れて
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔の人は生霊いきりょうとも言ったワ。
その時代に最も多く行なわれた化け物屋敷の不入いらずの間や、ねたみ深い女の生霊いきりょうや、執念深い男の死霊や、そうしたたぐいの陰惨な幽怪な伝説をたくさんに知っていた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物怪もののけ生霊いきりょうというようなものがたくさん出て来て、いろいろな名乗りをする中に、仮に人へ移そうとしても、少しも移らずにただじっと病む夫人にばかり添っていて
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これより幽霊論そのものを結ばんとするに、まず魂魄こんぱく死霊しりょう生霊いきりょう等の語を解説するを要す。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
どうしていきおいがこんなであるから、立続けに死霊しりょう怨霊おんりょう生霊いきりょうまで、まざまざとあらわれても、すご可恐こわいはまだな事——汐時しおどきさっと支度を引いて、煙草盆たばこぼん巻莨まきたばこの吸殻が一度綺麗きれいに片附く時
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お銀様の生霊いきりょうがいちいちそれに乗りうつって、この薄暗い土蔵の二階の一間には、すべて陰深いんしんたる何かの呪いの気が立てこめているようで、怖ろしくてたまらないから、急いで絵の本を伏せて
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生霊いきりょうで現われた時さえも恐ろしかった物怪が、今度は死霊になっているのであるから、宗教画に描かれてある恐ろしい形相も想像されて、気味悪く、情けなく思召された院は
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
かく機糸を断たれしことは、一回のみにあらず数回ありしかど、だれもかつてその形体を見しことなく、あたかも無形的死霊あるいは生霊いきりょうのごときものありて、暗中になすもののごとし。
あるいはその当時から島川はすでに縊死の覚悟をしていたので、その生霊いきりょうが一種のまぼろしとなって現われたのか。それはいつまでも解かれない謎であると、中原武太夫が老後に人に語った。
百物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それでね、貴方、その病気と申しますのが、風邪を引いたの、おなかを痛めたのというのではない様子で、まあ、申せば、何か生霊いきりょう取着とッついたとか、狐が見込んだとかいうのでございましょう。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうして神や仏がおわしますこの世界に、人間が左様に自然の惨虐に苦しめられなければならないのはどうしたものでしょうかね、罪もとがもない生霊いきりょうが何千何万というもの、あっ! という間もなく
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よって祟のことを説く前に、死霊しりょう生霊いきりょうのことを述べなければならぬ。俗間にて死霊、生霊が人にくということを申しておるが、これは狐狸こり天狗てんぐが人に憑くというに同じく、精神病の一種である。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
白糸 おや、それじゃ私の生霊いきりょうが行ってるのかしら。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一種(幽霊編)幽霊、生霊いきりょう、死霊、人魂ひとだま魂魄こんぱく、遊魂
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
第四、幽霊およびたたりのこと 死霊しりょう生霊いきりょうのこと。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)