獅子頭ししがしら)” の例文
そいつらはらんちゅうとか獅子頭ししがしらとか云うので、育て方がひじょうにむずかしく、父の丹精は誰にもまねのできないものだったそうだ。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きつねは大いばりで獅子ししくび背負せおって、日本にっぽんかえってました。これが、いまでも、おまつりのときにかぶる獅子頭ししがしらだということです。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と聞いてうなずくのを見て、年紀上としうえだけに心得顔こころえがおで、あぶなっかしそうに仰向あおむいて吃驚びっくりしたふうでいる幼い方の、獅子頭ししがしら背後うしろへ引いて
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一一〇 ゴンゲサマというは、神楽舞かぐらまいの組ごとに一つずつ備われる木彫きぼりの像にして、獅子頭ししがしらとよく似て少しくことなれり。甚だ御利生ごりしょうのあるものなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
にぎりには緑色のぎよく獅子頭ししがしらきざみて、象牙ぞうげの如く瑩潤つややかに白きつゑを携へたるが、そのさきをもて低き梢の花を打落し打落し
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
キラと夜目にもしるき獅子頭ししがしら兜巾ときんと、霜花毛しもげ駿馬しゅんめにまたがった一壮漢の姿を、その一勢のうちに見て、宋江はおもわず地獄で仏のような声を発した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北陸一帯は獅子舞が盛であるため、獅子頭ししがしらや胴幕を今も作ります。中に仕事の甚だいのを見かけます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
踊屋台おどりやたいがくる、地走り踊がくる、獅子頭ししがしら大神楽だいかぐら、底抜け屋台、独楽こま廻し、鼻高面はなたかめんのお天狗さま。
獅子頭ししがしらもかぶってみたが被りきれないと見えて、投げ出して行ったものと覚しい。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古い旅籠はたご屋では油屋あぶらやという、元は脇本陣だったそうですが、以前のままの大きな古い建築で、軒下には青い獅子頭ししがしらなどが突き出ていました。剥げちょろけですがね。二階が出張っていましてね。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「ああ、言いそうなこった。御守殿め、チョッ。」と膝を丁とくと、さっと掻巻の紅裏をかえす、お孝は獅子頭ししがしらねたように、美しく威勢よく、きちんと起きて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
獅子頭ししがしらは瓢箪を口にくわえて、その中から水を散らしたり、または柱や障子を噛みまわる真似をして
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
唯継は例のおごりて天をにらむやうに打仰うちあふぎて、杖の獅子頭ししがしら撫廻なでまはしつつ、少時しばらく思案するていなりしが、やをら白羽二重しろはぶたへのハンカチイフを取出とりいだして、片手に一揮ひとふりるよと見ればはなぬぐへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
白衫はくさん銀紗ぎんさ模様という洒落しゃれた丸襟の上着うわぎに、紅絞べにしぼりの腰当こしあてをあて、うしろ髪には獅子頭ししがしらの金具止め、黄皮きがわの靴。そして香羅こうら手帕ハンケチを襟に巻き帯には伊達なおうぎびんかざしには、季節の花。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正面奥の中央、丸柱のかたわら鎧櫃よろいびつを据えて、上に、金色こんじきまなこ白銀しろがねきば、色はあいのごとき獅子頭ししがしら萌黄錦もえぎにしき母衣ほろ、朱の渦まきたる尾を装いたるまま、荘重にこれを据えたり。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いっぺんにガラガラと流し元へ落ちて粉裂ふんれつしたのは、孔雀くじゃくおおかみ二つの体が、板の間へ組んで倒れたのと同時で、折から露地の表の方では、初春の獅子頭ししがしらを町内に振りこんであるく笛太鼓が
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と手を袴越はかまごしに白くかける、とぐいと引寄ひきよせて、横抱きに抱くと、獅子頭ししがしらはばくりと仰向あおむけに地を払って、草鞋わらんじは高くった。とりはねかざりには、椰子やしの葉を吹く風が渡る。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのとき門口かどぐちで、急調な笛太鼓が突然鳴り出した。町内の若い者の懸声といっしょに、獅子頭ししがしらがおどりこんで来たのである。彼女はびッくりして、きゃっと、部屋の隅に小さくなっている。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉脇の妻は、もって未来の有無をうらなおうとしたらしかったに——頭陀袋ずだぶくろにも納めず、帯にもつけず、たもとにも入れず、角兵衛がその獅子頭ししがしらの中に、封じて去ったのも気懸きがかりになる。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼻は獅子頭ししがしらのそれみたいに朱に染まる。けれど八十馬は手を離さない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)