つばくろ)” の例文
東の方に大天井岳や、つばくろ岳が見えはじめたが、野口の五郎岳あたりから北は、雪に截ち切られている、脚の下を、岩燕が飛んでいる。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
つばくろは年々帰って来て、どろふくんだくちばしを、いそがしげに働かしているか知らん。燕と酒のとはどうしても想像から切り離せない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つばくろ岳、台原山の連脈が東沢乗越のっこしで一旦低下して更に餓鬼、唐沢の二山を崛起くっきしているが、此処から見た餓鬼岳の姿は素派すばらしいものである。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そしてそのまま、見返りお綱、つばくろの飛ぶかとばかり逸早いちはやく走って、あッと思うまに、宏壮な屋敷べいの角を曲って、ヒラリと姿を隠しかけた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もの干越ほしごしに、みのわたりたい銀河あまのがはのやうに隅田川すみだがはえるのに、しげころつばくろほどのも、ためにさへぎられて、唯吉たゞきち二階にかいからかくれてく。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それは薬師をもった山脈と、つばくろ、常念などをもった山脈とのあいだに挟まって、一万尺に近い峰の幾つもをもって、遠く南へとうねり伸びている山脈である。
烏帽子岳の頂上 (新字新仮名) / 窪田空穂(著)
油のきれた戦闘機の群が、かなしい叫をあげながら、疲れたつばくろのように、ばらばらと波の上へ落ちて行った。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
おまへつばくろ不在るすつばくろの巣に入り、の十二時過ぎ迄も話し込み早く帰れよがしに取扱はれても、それを自分に対する尊敬と思ふ程、それ程自信の深い好人物だ。」
何しろ日本という国は、温泉がふんだんにありますからなあ、この点ではまことに仕合せな国に生れたものですよ。つばくろの下の中房へ行きましたか。ああ、そうですか。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
越路こしじの方の峰には、雲が迷っていたけれど、有明ありあけ山、つばくろ岳、大天井おてんしょう、花崗石の常念坊じょうねんぼう、そのそばから抜き出た槍、なだらかな南岳、低くなった蝶ヶ岳、高い穂高、乗鞍、御嶽おんたけ、木曾駒と
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
中房なかぶさ温泉着約十二時、名古屋内燃機の人四人(加藤という人もありき)と逢えり、温泉に入浴昼食をとり一時中房温泉発、急なる登りなり、四時半つばくろ小屋着、途中女学生の一隊多数下山するに逢う。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
とんとつばくろか何ぞのやうに、その儘つと部屋を立つて行つてしまうた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「玄関」と又左衛門が云った、「つばくろがまだ帰らないようではないか」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つばくろ反橋そりはしなりにとびにけり 助叟
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
つばくろのゆるく飛び居る何の意ぞ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
つばくろ
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
それつばくろ方面から槍ヶ岳へ登る人は、大天井岳の南の東天井岳から二ノ俣へ下りて、更に槍沢を遡らなければならなかった。
旅商人たびあきんどの男は、小風呂敷の中に包んでいた紺合羽こんがっぱを、ひらっと、つばくろみたいに引っかけると、前かぶりに笠を抑えて
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしんばつばくろが紺の法被はつぴを脱ぐ折はあらうとも、福田博士にそんな事はあるまいと思はれた名代の木綿羽織である。だが、実際博士はそれを脱いで、皺くちやな背広をてゐた。
雀を見ても、つばくろを見ても、手をつかねて、寺にこもってはいられない。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つばくろやヨツトクラブの窓の外
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
土蔵どぞう長屋のひさしに、つばくろが、群れ鳴いている。陽の暮るるも知らず、親燕は巣の中のひなに、を運びぬいているらしい。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小岩鏡こいわかがみなどの紅花を点綴てんていしたお花畑を眺めながら、つばくろの小屋場といわれていた山稜上の一地点に達するのである。
仏蘭西語でシヤルパンチエーといふのは、天にも地にも自分一人のために拵へられた固有名詞で、普通名詞としてつばくろのやうな紺の法被を着た大工を呼ぶなどは、以ての外だと思つてゐるのだ。
つばくろのしば鳴き飛ぶや大堰川おおいがわ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
身のはやさは浪をかすめるつばくろのようである。また、白雪のくずがひらめく風と戦っているようなものだ。そしてうかとすればすぐ繊手せんしゅの二刀が斬りこんでくる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中房温泉からつばくろ岳への路は、もとは濁沢の左岸の尾根を登るものと、カッセン沢の下手から登るものとの二があって、両方とも濁ノ頭の三角点付近で一に合する。
「……かりが帰る。つばくろが来る。春は歩いているのだ。やがて、吉平きっぺいからも何かいい報らせがあろう」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一ノ瀬ではつばくろダルミ又は笠取峠と呼んでいる。峠を十四、五間広瀬方面に下ると教えられた如く草間を水が流れている。雁坂峠までは最早もはや水がないので、早昼飯を遣った。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
牛王院ごおういん山(御殿岩)、唐松尾、枝沢山、つばくろ山、古礼これい山、水晶山、雁坂山、破風山、木賊とくさ山(雲切山)、甲武信岳、三宝山(真ノ沢山)、股沢山、富士見、東股頭、国師岳、奥仙丈岳、朝日岳
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
明治三十九年に小島烏水君がつばくろ、常念間を縦走したのが其嚆矢こうしであろう。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)