いが)” の例文
捜してるとき落ちてきた枯れいがにいやというほど頭を打たれ なるほど と昔の智慧を思いだして羽織を頭からすっぽりかぶる。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
子ガニに加勢をしたのは、臼と、トチの実と、ベゴウシの糞と、クリのいがであった。それらがサルの家にいって待伏せしていた。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
これも上げ汐につれずつと海岸沿ひに一列になつて押し寄せて來るのです。例の栗のいがの形で、いつ動くとなくむんづ/\とやつて來るのです。
樹木とその葉:33 海辺八月 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
樹枝状の枝が中心から八方に伸び出ることもあって、その時は結晶は丁度栗のいがのような形となる。第20図(第7図版)がその好い例である。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
穴からくぐり出た釆女は、そこらの落葉を踏みしだいて、水を汲むうつわらしいものを探しあるくと、そこには乾いた栗のいがが幾つもころげていた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
というのは、そのすくすくと伸びた栗の木の枝には、なんと五寸釘のようなとげをもったお祭り提灯のような巨大ないがが、枝もたわわに成っているのである。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
かれ大豆だいづいてにははこんだころはまだあつ落付おちついていがはじめたくりこずゑからにはをぢり/\とてらしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すっかり葉を落して了っているが、枝のさきにいがを二つ三つつけているので、ガサガサと根もとまで登って見た。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
時は初秋、一味清涼の秋風が空には流れても、山間の雑木林にはささ栗のいががまだ青く揺れてゐる頃であつた。
神童の死 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
『あんなところにちてるのが、あれがえないのかナア。』とはくりいががよくとうさんにふことでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
髮は二寸も延びて、さながら丹波栗のいが泥濘路ぬかるみにころがしたやう。目は? 成程獨眼龍だ。然しヲートルローで失つたのでは無論ない。恐らく生來うまれつきであらう。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
野々宮があの家を訪れたのはちやうど栗の実る季節で、栗のいがを踏みながら土蔵へ通つたものであつた。嵐の多い季節であつた。土蔵の中で、嵐の音をきいたのだ。
栗はいがを脱ぎ、人は新しい帽子をなければならぬ時節になつて来た。今日は一つ帽子の話をする。
屍体は俯向うつむきに倒れ、頭のところから流れ出た黒い液体が土の上をギラギラと光らしていた。大きな傷が後頭部の濡れた髪の毛を栗のいがのように掻き乱して、口を開いていた。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
僕はまあ云ってみれば美しい栗のいがを胸に抱いているようなものです。もう離れて見れないほど強く密接に抱いているんです。それでも畢竟は僕の胸と栗の毬とは相容れない別々のものなんです。
囚われ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ものの切尖きっさきせたおとがいから、耳の根へかけて胡麻塩髯ごましおひげが栗のいがのように、すくすく、頬肉ほおじしがっくりと落ち、小鼻が出て、窪んだ目が赤味走って、額のしわは小さな天窓あたま揉込もみこんだごとく刻んで深い。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葉子も瑠美子と女中をつれて、潮の退いた岩を伝いながらせせらぎを泳いでいる小魚を追ったりくりいがのような貝を取ったりした。彼女はその毬のなかから生雲丹を掘じくり出すことも知っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いがを離れた栗の実は
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夏末に雑木林を通ると、頭の上に大きな栗のいががぶら下っているのを見かけることがよくある。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
たかいところをると、ワンとくちいたくりいがえだうへからとうさんのはうわらつてまして、わざとちたくり塲所ばしよをしへずに、とうさんにさがまはらせてはよろこんでりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そうして、そのでっかちないがくり頭をはずれた枕へ持ちあげ、借着かりぎ寝衣ねまきの前を深く深く合せてやると、そのままぐっすりと眠ってしまって、すぐと河霧かわぎりの白い白い夜あけが来た。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
栗は花も木もわづらはしいが、乾いた落葉と、その中に實を含みながら笑みわれて落ちてゐるいがを見るのは樂しい。毬ばかりか、それこそ、本當の栗色をしたあの實の形も可愛いいではないか。
たべものの木 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
拾う栗だから申すまでもなくいがのままのが多い。別荘番の貸してくれた鎌で、山がかりに出来た庭裏の、まあ、谷間で。御存じでもあろうが、あれは爪先つまさき刺々とげとげを軽くおさえて、手許てもとへ引いてく。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三つづゝ一くみになつたくりいがと一しよちたのをとうさんにひろはせてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いてある道はただくりいがの上へ赤い筋が引張ってあるばかり。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の頭髪あたまが栗のいがのやうに伸び過ぎてゐるのに気がいた。
吹く風の幅は揉みぬく栗の葉の葉あひに青くいがの群れたる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
吹く風の幅は揉みぬく栗の葉の葉あひに青くいがの群れたる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)