投網とあみ)” の例文
勝則と投網とあみ打ちに行った夜、お京の手紙を見られて以来、マンが、そのことについて、一口もいわないので、内心、気味が悪かった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
陣羽織を脱いで打ちふるい、さらによれよれの浴衣を脱いで、ふんどし一つになって、投網とあみでも打つような形で大袈裟おおげさに浴衣をふるい
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、するどく龍太郎の手をはらった呂宋兵衛は、いきなり駕籠かごにかぶせてあるくさりあみをつかんで、パッと大地へ投網とあみのように投げた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜海岸で投網とあみを打っていると大入道が腰のびくを覗きに来た。七つさがりに山に往って木を伐っていると鼻の高い大きな男が来た。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大小の帆布はんぷ縄類なわるい、鉄くさり、いかり一式、投網とあみ、つり糸、漁具りょうぐ一式、スナイドル銃八ちょう、ピストル一ダース、火薬二はこ、鉛類えんるい若干じゃっかん
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
二人の犬殺しは尋常の犬殺しにかかるつもりで、左右から歩み寄って、一人は例の握飯むすびを投げて、一人は投網とあみを構えるように口環を拡げて
二人はそんな話をしたり、またそのうちなぎの好い日には、投網とあみだの、釣道具だのを持つて、是非船を出さうなどといふ相談をしたりなどした。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
すこし行くと、カステラや羊羹ようかん店頭みせさきに並べて売る菓子屋の夫婦が居る。千曲川の方から投網とあみをさげてよく帰って来る髪の長い売卜者えきしゃが居る。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寝ころんでいるのがきてくると、こんどは乾草の原っぱへ出かけたり、森へきのこをとりに行ったり、でなければ百姓が投網とあみをするのを見物する。
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
掬い網や投網とあみを持ち出して、さんざん追いまわした挙句に、どうにか生捕ってみると、何とその長さは三尺八寸、やがて四尺に近い大物であった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いつ頃からか兄は釣り堀の鯉だけでは満足しなくなつて投網とあみの稽古をはじめ、れいのとほりびくをさげさせてさいさい私を近処の川へつれていつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
妻君「それも美味しゅうございましょう。私どもではこの頃近所の家からよくイナやぼらきたのを貰います。その主人が投網とあみが好きでよくイナや鰡を ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
にんげんを捕る、このあをい投網とあみ。一日跨いだ、数十里の距離が、わたしに「幮のわかれ」を身につけさせる。
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
大川が近いので、男衆はちょっとした際を見ては投網とあみに行って、すずきなどをとって来るのだったが、そんな場合、次郎が一緒でないことは、ごく稀であった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ふと投網とあみの音に気がれて、意識は普通の世界に戻る。彼女はほっとして松浦を見る。松浦も健康な陶酔から醒めて、力の抜けた微笑を彼女に振向けている。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
男がいだけの腰抜け侍とてんから呑んでいるつづみの与吉、するりとぬいだ甲斐絹かいきうらの半纒はんてん投網とあみのようにかぶらせて、物をもいわずに組みついたのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
駅前のカストリ屋のオヤジは投網とあみをもっていて、これも私を頻りに誘う。私がキャッチボールをしていると、野球はカラダに毒ですよ、投網は健康ですぜ、と言う。
釣り師の心境 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一からげに月の投網とあみに引っかかって、あちこち泳ぎまわっているところか、と疑われるばかりだった。
蚊帳の布目の影や、自らその中に身を置くことなどから、自然連想が投網とあみにも及ぶのであるかどうか。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
投網とあみの名人だ相ですが、これが三七郎の妾に夢中で、自分の獲つた魚のうち、目立つて良いのがあると、それを『御新さんへ』と必ず三七郎の家へ持込むんだ相ですよ
桂川あたりで投網とあみで獲るとき、鮎は投網の下をくぐって逃げようとし、そのはずみに砂を食う。
鮎を食う (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
座敷の縁側の軒下に投網とあみがつり下げてあって、長押なげしのようなものに釣竿つりざおがたくさん掛けてある。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
信心の投網とあみさっと打って、水に光るもの、輝くものの、仏像、名剣を得たと言っても、売れないさきには、その日一日の日当がどうなった、米は両につき三升、というのだから
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「アッハハハこれは驚いた。すこし攻撃が手酷てひどすぎるぞ。とは云え確かに一理はあるな。実は俺も考えたのじゃ。どうも運動が足りないようだとな。そこで投網とあみをやりだしたのさ」
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「寝ちまいな」と和助が投網とあみつくろいながら云った、「鉄もおしづも寝ちまったぞ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と見るよりも早く、蠅男の隙を狙って寝台の下からパッと投げつけた渋色の投網とあみ
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「今日はひとつ、伝馬船で投網とあみに案内すべえと思ってるが、旦那……。」
初秋海浜記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
べにと緑の光弾、円蓋えんがい火箭ひや、ああ、その銀光の投網とあみ傘下からかさおろし、爆裂し、奔流ほんりゅうし、分枝ぶんしし、交錯し、粉乱ふんらんし、重畳ちょうじょうし、傘下からかさおろし、傘下し、傘下し、八方に爛々らんらんとして一瞬にしてまた闇々あんあんたる、清秀とも
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
投網とあみのように拡がった巡警の船に横切られてしまうと
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼は、投網とあみをうつ時だけ風呂にはいるわけである。
月に対す君に投網とあみの水煙
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
先夜、投網とあみ打ちに行ったとき、息子に、光丸に許婚いいなずけがあるという話をした。その許婚と、来春、結婚、仲介は友田喜造、そのことも告げた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そしてたちまち半壺はんこを飲みほし、さて、礼を言いながら起ちかけようとしたときである。向う側にいた一人の男が、ぱっと林冲の頭から投網とあみをかぶせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
投網とあみも乾してあります。そこで私は小船を借り一人の子供を乘せて水の上を漕ぎ𢌞つたこともあります。
指の尖二三本で流行色の藤紫を布地と模様と一緒に検められる呉服屋の店頭の飾りつけ。水槽に上から投網とあみを垂れ冠せて、その中で初鮎を跳ねさせている食料品店。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
外へ出ると、あわて者の八五郎は、入口までかけて干してゐる、投網とあみに首を突つ込みました。
舟か陸かわからぬが、とにかく投網とあみを打っている男がある。ざぶんと打つ網の音が闇を破って聞えるが、人は黙々として打続けるらしく、五月の闇は濃くその姿をつつんでいる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
朝になって水の男の云ったことばをおもいだしたが、気の広い勘作はすぐ忘れてしまって漁に往き、午飯ひるめしに帰って飯をすまし、庭前にわさきの柿の立木たちきしてある投網とあみの破れ目をつくろうていると
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「寝ちまいな」と和助が投網とあみつくろいながら云った、「鉄もおしづも寝ちまったぞ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いや、注意が行ったというまでのことはなくても、つとその人々の動きが造酒の意識いしきに入って来た。と思うと、魚心堂が、ぱアッ! 投網とあみを下ろすように全身を躍らして竿をしごいたのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
手前は舟をやとうて芝浦へ投網とあみに参りましてな、その帰り途でござった、浜御殿に近いところで、見慣れぬ西洋型のバッテーラが石川島の方へ波を切って行く、手前の舟がそれとり違いざま
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平助が困ったように考え込んでるのを見て、ある晩、正覚坊は何と思ってか、そこにあった投網とあみをしきりに引っ張ります。それを見て平助は、これは投網を打ちに行けというんだなとさとりました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
投網とあみおもりをたたきつぶした鉛球を糸くずでたんねんに巻き固めたものをしんとし鞣皮なめしがわ——それがなければネルやモンパ——のひょうたん形の片を二枚縫い合わせて手製のボールを造ることが流行した。
野球時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かぶの葉に濡れし投網とあみをかいたぐり飛びかへ河豚ふぐを抑へたりけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
月に対す君に投網とあみの水煙
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そう呟いて、面白くもなさそうに、ところどころに、投網とあみを入れた。気乗りもせぬ打ちかたをしているのに、不思議に、いくらでも入る。大漁である。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「あっ、そうだ、その塙江漢はなわこうかん様なんで。——いつか、八丁堀の旦那方と一座して、中川尻なかがわじりへ、投網とあみのお供をして行ったことがあるから、たしかに、覚えています」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蟻群の甘きにつくがごとく、投網とあみの口をしめるように、手に手に銀磨き自慢の十手をひらめかして、つめるかと見れば浮き立ち、退しりぞくと思わせてつけ入り……朱総しゅぶさ紫総しぶさときならぬ花と咲かせて。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かぶの葉に濡れし投網とあみ真昼間まつぴるまひきずりて歩む男なりけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
月に対す君に投網とあみの水煙
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)