戯談じょうだん)” の例文
旧字:戲談
しかも何も気づかないふうで、戯談じょうだんを言いかけて行きなどする源氏に負けて、余儀なく返辞をする様子などに魅力がなくはなかった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「せんだって、往来おうらいとおっていたら、からすが屋根やねにとまって、アホウ、アホウといていたぞ。」と、戯談じょうだんをいったものがあります。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
戯談じょうだんを。そちらこそ違えちゃいけないよ。私はねえ、京都の地にいる人と違うんだよ。ゆうべ夜汽車で、わざわざ百何十里の道を
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
しかしていよいよった時には平然として何のこともなく、草稿にない戯談じょうだんなども臨時に揷入そうにゅうし、幸いに案外の喝采かっさいをうけた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
富士春は、少し崩れて、紅いものの見える膝へ三味線を乗せて、合の手になると、称めたり、戯談じょうだんをいったりして、調子のいい稽古をしていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
若い女を見て、戯談じょうだんを云わないのは、英国の労働者丈だそうだ。一番住みママのは、何と云ってもイギリスなのだそうだ。
「一日何をしているんだな。お前なぞ飼っておくより、猫の子飼っておく方が、どのくらい気が利いてるか知れやしねえ。」と戯談じょうだんのように言う。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なお因縁深ければ戯談じょうだんのやりとり親切の受授うけさずけ男は一寸ちょっとゆくにも新著百種の一冊も土産みやげにやれば女は、夏の夕陽ゆうひの憎やはげしくて御暑う御座りましたろと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
卒業して会われなくなってからは毎日のように互いに手紙の往復をして、戯談じょうだんを言ったり議論をしたりした。月に一二度は清三はきっと出かけた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
などと彼らは戯談じょうだんぶった口調で親身しんみな心持ちをいい現わした。事務長はまゆも動かさずに、机によりかかって黙っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ヨシユキ、貴男あなた戯談じょうだんは私達の国では貴族しか云わなかったのです。それにいまでは貴族は殺されてしまうし、私はボルシェヴィズムの女なのです。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
私達に話すおつもりなんです、殺人者と話した戯談じょうだんを言って、彼にロマンテックな話をさせ、そしてそのままに彼を離そうとなさるおつもりなんです
それからも一つはお嫁さん探しを覚えています。先生はたぶん戯談じょうだんでおっしゃったのでしょうが祖母や伯母は一生懸命になって探していたようです。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
柄の小さい、口の軽い子で、始終戯談じょうだんばかりいっていました。調子がいいので、すぐ、だれにも馴れてしまいました。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
あんた、そないな戯談じょうだんどころじゃございませんがな。——でもかあいそうや、ほんまにかあいそうや、今日もな、あんた、たけにそういいましたてね。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
浅草公園の銘酒屋めいしゅやに遊んで、田舎出の酌婦しゃくふ貯蓄債券ちょちくさいけんをやろうかなどゝ戯談じょうだんを云った。彼は製本屋せいほんやの職工から浅草、吉原の消息を聞いて居たのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それからさらに、ルピック氏は、彼のもじゃもじゃの頭髪あたまへ手を通し、そして、しらみでもつぶすように爪をぱちんと鳴らす。これが、先生得意の戯談じょうだんである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
が、彼が天窓を閉めて捕えにかかると、戯談じょうだんにちょっと逃げ廻って、すぐラム・ダスの首にかじりつきました。
「それは戯談じょうだんだがネ、全体叔母さん余り慾が深過るヨ、お勢さんの様なこんな上出来な娘を持ちながら……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
秀子はそう戯談じょうだんらしい調子で云ってのけた。山田には、彼女が果して本当に考えて口を利いているのか、単なる思い付きで饒舌っているのか、分らなくなった。
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そして令嬢に愛の告白をしたところが、令嬢はさすがにしつかりしてゐて、私は戯談じょうだんがきらひでございます、お引とり下さいませ、とハッキリ言つたさうである。
女体 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それにもかかわらず、西村陽吉は、いつでも戯談じょうだんにまぎらせるけの余裕を残して益々ますます彼女に迫って来た。
兄の機嫌きげんは和歌の浦を立つ時も変らなかった。汽車の内でも同じ事であった。大阪へ来てもなお続いていた。彼は見送りに出た岡田夫婦をつらまえて戯談じょうだんさえ云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せんころはごちそうをいたゞいて実にありがたう、と、ね、その節席上で戯談じょうだん半分酒造会社設立のことをおはなししたところ何だか大分本気らしいご挨拶あいさつがあったとね
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
藤木さんがそんな戯談じょうだんをいった時に、唐茄子の中にははいっていたものがあったのだった。あんまり大きくなるが様子が変だからと、庖丁ほうちょうを入れたら小蛇がれて出た。
どうかすると先生の口から先生自身がリップ・ヴァン・ウィンクルであるかのような戯談じょうだんを聞くこともある。でも先生の雄心は年と共に銷磨しょうまし尽すようなものでもない。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寧ろ冷蔵庫入りの物ではないかと戯談じょうだんにそう思ったりして、若し冷蔵庫入りの物だとしたら余りあたためていては、却って毒ではないかと、一人でからからと笑って見た。
私達わたくしたち夫婦ふうふあいだにはそんな戯談じょうだんくちをついてるところまであっさりした気分きぶんいてました。
戯談じょうだんおっしゃいよ! 嘘にも、そんな事を云って、事が起ったら子供たちはどうするの?」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
酔っ払いを見まいとしていた。そして顔が赤くなるほど露骨な戯談じょうだんを言いかけられると、それを黙らせようとして穏かに努めた。しかしクリストフにはその理由が分らなかった。
風が吹いて桶屋が喜ぶという一場の戯談じょうだんもあながち無意義な事ではない。厳密に云えば孤立系(isolated system)などというものは一つの抽象に過ぎないものである。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
『それは結構だ。時に吉さん女房にょうぼを持つ気はないかね』と、突然だしぬけにおかしな事を言い出されて吉次はあきれ、茶店の主人あるじ幸衛門こうえもんの顔をのぞくようにして見るに戯談じょうだんとも思われぬところあり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
シャルコーの随想の中には、ケルンで、兄が弟に祖先は悪竜を退治した聖ゲオルクだと戯談じょうだんを云ったばかりに、尼僧の蔭口をきいた下女をその弟が殺してしまった——という記録が載っている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しゃあしゃあとしていう番頭のつらしゃくに触ってならなかった。戯談じょうだんじゃない。これから先は一町でも一里に当る。旅館の不親切、呆れたものだ。十町を歩いて湯田中見崎みさき屋へ泊る。感じのいい家なり。
時には自分で戯談じょうだんばなしや警句を発して笑い興ぜられたのです。
酒間の戯談じょうだんは、たれも一時の戯談としか聞いておりませんから
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と栄三郎も、戯談じょうだんめかして迷惑らしい口ぶり
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なに来世らいせい戯談じょうだんっちゃいけません。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
戯談じょうだんを言うな、机竜之助だぞ」
こんなこともお言いになることがあるのですよ、あなたは私と夫婦になれたりしてもったいなく思いませんかなどと戯談じょうだんをね。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
初めは皆なも、平常ふだんから、あんな温順おとなしいに似ず、どうかすると、よく軽い戯談じょうだんなどを言ったりすることもあるので
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
洒落と、戯談じょうだんと、哄笑こうしょうとで、商談をすすめて行く。日本の商人に限って仇敵と、取引しているように、真剣である。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そしてあんまり棒の太くない首人形をお土産に持って来て呉れるのを忘れない様になどと戯談じょうだんらしく書きそえた。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
千々岩は参謀本部の階下に煙吹かして戯談じょうだんの間に軍国の大事もあるいは耳に入るうらやましき地位に巣くいたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
折り目正しい長めな紺の背広を着た検疫官はボートの舵座かじざに立ち上がって、手欄てすりから葉子と一緒に胸から上を乗り出した船長となお戯談じょうだんを取りかわした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
今時分田舎から都へ出る人はあろうとも、都から田舎にわざ/\引込ひきこむ者があろうか、戯談じょうだんに違いない、とうっちゃって置いたのだと云う事が後で知れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
戯談じょうだんいっちゃいけない。自然の要求というものは、こりゃ、誰一人おさえることはできないんだから……」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
クルウ大尉が、セエラさんを印度から伴れて来て、私に預けた時、大尉は戯談じょうだんらしくこういわれました。
え? なんだって、猿芝居だって? 戯談じょうだんじゃないよ、廻りの八丈の方が本役だって? そうですよ、そうだよ。ヘイ、三角銀杏老みつかどぎんなんろうお見舞いたす。おみゃくはいかがかな?
戯談じょうだんに書いたり、のんきにたわむれたりしていることばかりである。三十四五年——七八年代の青年を描こうと心がけた私は、かなりに種々なことを調べなければならなかった。
『田舎教師』について (新字新仮名) / 田山花袋(著)