悶着もんちゃく)” の例文
その鶴子が時も時、結婚問題で悶着もんちゃくの起っている今、かくも無惨な変死をとげたのだ。大宅が青くなったのは、別に不思議でない。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところがお秀との悶着もんちゃくが、偶然にもお延の胸にあるこの扉を一度にがらりとたたき破った。しかもお延自身ごうもそこに気がつかなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これ悪漢が持てりし兇器きょうきなるが、渠らは白糸を手籠てごめにせしとき、かれこれ悶着もんちゃくの間に取りおとせしを、忘れて捨て行きたるなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帰るなり、たやすからぬ悶着もんちゃくがおき、投資した金のことにまで発展し、明日中に株券を売払って、息子と二人でべつな家に住むといいだした。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「おい戸倉。きさまが、しぶといから、こんな悶着もんちゃくが起る。早く隠し場所をいってしまえ。この黄金おうごんメダルの半分の方はどこに隠して持っている」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
富仁とみひとしていたところ、これがまた大覚寺の後宇多上皇の御気色にさわり、悶着もんちゃくをみたが、関東方では、交代制を堅持して、とりあわなかった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
校長ルービンシュタインと生徒の間に悶着もんちゃくが起り、演奏会は気違いじみた示威運動に葬られて、チャイコフスキーの音楽は滅茶滅茶めちゃめちゃにされてしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
れと悶着もんちゃくして居る間にが明けて仕舞しまい、私は何にも知らずにその朝船にのって海上無事神戸に着きました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「今のところはあいつは手には負えないが、おれの個人的な悶着もんちゃくが片づいたら、きっといちばん先に痛い目にあわせてやるぞ、しかもできるだけひどくだ」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
あがかまちから草鞋わらじ穿き、笠をかぶり、杖を取って、威勢よく旅を送り出されようとする時、その出鼻で、またしても一つの悶着もんちゃくを見せられてしまいました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
明くる日の朝、妙子は八時に廻された寝台自動車で運び出されたが、その時にもまたちょっとした悶着もんちゃくがあった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鼠小僧と想像される、ある一人の人間が、水神の方から大急ぎで、横歩きでここまで来たところ、十間のあなたで一組の男女が、何やら悶着もんちゃくを起こしている。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
床屋の主人は何んでも世話を焼いて、此所ここで話が決まるという風。お祭礼まつりの相談、婚礼の話——夫婦別れの悶着もんちゃく、そんなことに床屋の主人は主となって口を利いたものです。
最近Aは家との間に或る悶着もんちゃくを起していました。それは結婚問題なのです。Aが自分の欲している道をゆけば父母を捨てたことになります。少くも父母にとってはそうです。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そうそうこのうま命名めいめいにつきましては、良人おっとわたくしとのあいだに、なかなかの悶着もんちゃくがございました。
ここでもし二名の追放がうやむやに終るとすれば、必ず水戸家とめあいだに悶着もんちゃくが再発する、——この問題だけは兄の言葉どおりにするほかはない、頼胤はそう心をきめた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「向こうに着いたらこれで悶着もんちゃくものだぜ。田川のかかあめ、あいつ、一味噌ひとみそすらずにおくまいて」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
父も母も、江戸っ子はだの、さっぱりした気性の人であったから、そのまま私のことでは一度も悶着もんちゃくしたこともないらしく、誰れの目にもほんとうの親子と思われるほどだった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
随分長い談判の結果、母は帰ってもいいが、乳呑児ちのみごをどうするということに悶着もんちゃくが起きた。
「九州は黄櫨の多いところですが、当県下は殊にうです。昔殿様の御奨励で手当り次第に植えましたけれど主のない木が沢山出来まして、実を取る時に能く悶着もんちゃくが起ります」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
寺の住職と町村との間に一悶着もんちゃくあったそうですが、結局、住職が譲歩し、その筋の了解も得て、朝まだきの人の迷惑にならない一時間ほどの間を狩ることになったのだそうです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
長屋の者が、また悶着もんちゃくでも持ちこんできたか?……と、泰軒先生が眉をあげたとたん。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だんだんその理由をただすと、前日友人が来てなかば以上悶着もんちゃくを解決しておいてくれたなどということが、数日あるいは時によっては数年って初めて発見されることをみずからも経験したし
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
紀州の沖や土佐の沖じゃ、一網に何万とぼらが入ったのぶりが捕れたのと言うけれどこの辺の内海じゃ魚の種が年年尽きるばかりだから、しだいに村同士で漁場の悶着もんちゃくが激しゅうなるんじゃ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
兄頼家が辞めて、翌年修善寺で殺されるまで、なかなかの悶着もんちゃくがあった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
僕も、うっかり、レヤチーズの壮烈な最後に熱狂し、身辺の悶着もんちゃくを忘れていた。叔父さんは、御自分のうしろ暗さを、こんどの戦争で、ごまかそうとしているのかも知れぬ。案外、これは、——
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたくし一人でございます——これはアグラフェーナ・アレクサンドロヴナの悶着もんちゃくが始まって以来、旦那が御自身でお決めになった手はずです、しかし夜になると、わたくしは旦那の言いつけで
それゆえ、会長になれば必ず一と悶着もんちゃく起すにきまっているので、「おいそれ」と会長にはならなかったのだ。もちろん、改革に着手するとなれば、ファラデー側の賛成者もあることは確なのである。
結局、小鉄も切羽せっぱつまって、ダルトンと自分との関係を明かしたが、梁福はまだ素直に信用しない。その悶着もんちゃくの最中に、椰子の梢でがさがさという音がして、大きい一つの実が小鉄の頭の上に……。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
悶着もんちゃく以来まだ五日にもならぬに、お政はガラリその容子ようすを一変した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかる処後家の方にても不身持の事につき、親戚中にてもいろ/\悶着もんちゃく有之候が、万一間違など有之候ては、かへつて外聞にもかかはり候事とて、結局得念に還俗げんぞく致させ候上、入夫にゅうふ致させ申すべきおもむき
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
五十前後のやかましそうな浪人者が、お勝手いっぱいに、通せん坊をするように立ちふさがりました。たぶん娘のお妙と、なにか一と悶着もんちゃくのあった様子です。
これは次期市議選挙に対する予備工作のひとつだったんだろう、せいぜい三千部ばかりの古雑誌だったが、これを妻君とのひと悶着もんちゃくを恐れて、彼女には知らせずに寄付したものさ。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
幾条いくすじも持っているために、隣接の諸国、たとえば、北条、徳川、織田、斎藤などにしても、彼と外交し、彼と戦い彼と悶着もんちゃくするなど、明けても暮れても、応接にいとまがなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
磯五は、それを思い出して、悶着もんちゃくのないようにこの出し入れをしなければならないと思った。新しいおしんという女は、手腕うでも達者だし、すこしは人も使えて、人間もいいというのである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのことでは、姦夫姦婦の間に悶着もんちゃくが絶えぬということが、あとで分った。瑠璃子にしては、いやな大牟田敏清を殺してくれたのは有難いが、その為に子爵家の実権を失うのが口惜しかった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
騒動って何があったのですと聞くと、例の差配人との悶着もんちゃく一件である。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女中と出来合って悶着もんちゃくが起ったのを、男の方は何とかいう、あっちの堅気の名主様かなにかが出て、あやまったし、女の方はわたしが頼まれて口を利いてあげただけの縁なんだが、その歳どんが
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
若し相愛あいあいしていなければ、婚姻こんいんの相談が有った時、お勢が戯談じょうだん托辞かこつけてそれとなく文三のはらを探る筈もなし、また叔母と悶着もんちゃくをした時、他人同前どうぜんの文三を庇護かばって真実の母親と抗論する理由いわれもない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
詮索せんさくすればなにが出てくるかわからないし、こんな事で悶着もんちゃくを起こすときではない。
だから平家一門の公達輩きんだちばらは、みえにして、各〻めいめい、名馬を争い持った。名馬を手に入れる事では、屡〻しばしば悶着もんちゃくや喧嘩さえ起った。そういう平家人のあいだでは、こんな事すら云われていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じとき持木屋の店先でも悶着もんちゃくが起こっていた。田丸屋益造たまるやますぞう折屋伝内おりやでんない水尾割助みずおわりすけなど五人の旦那が、それぞれ額面壱万両の持木屋の手形を出して「すぐ現金に替えてもらいたい」と請求したのだ。
そこでかなりな悶着もんちゃくが始まったのである。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「弱った、また悶着もんちゃくだな——」
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)