つく)” の例文
勿論学んでつくしたりとは言はず。かつ又先生に学ぶ所はまだ沢山たくさんあるやうなれば、何ごとも僕にぬすめるだけは盗み置かん心がまへなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしわたくしはほゞ抽齋の病状をつくしてゐて、その虎列拉コレラたることを斷じたが、米庵を同病だらうと云つたのは、推測に過ぎなかつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
竜の事はなかなか複雑でとても十分にこの誌上でつくし得ぬが、まず上の三章で勘弁を願うとしてこれからこの話の出処系統論に取り掛ろう。
種々さまざまな姿態をつくして、若しも我々が近寄って行ったなら一度に動き出しはせぬかと思われる程、生き生きとした肉体の力を示して居ました。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あらゆる伝統と絵の組織の下敷から這出はいだす事が肝要であり、知りつくした事を忘却せんとする処に新技法の必然的な意味が存在するのであるけれども
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
鯱鉾立しゃちほこだちをしても吾妻屋永左衛門に及ぶ筈もなく、それを知りつくしているだけに、泥んこの中に引っくり返った永左衛門、急に自信を取戻して来ました。
一体学者といふと、自分の専攻範囲はどんな下らぬ事でも知りつくしてゐるが、一あしその外へ踏み出すと、何が何やらさつぱり見当がつかないのが多い。
其は一方、此花の「うつろひ」易き事を、知りつくしてゐる心の一展開であつた。さうして更に、新しい技巧は、「日斜共」と言ふ説明を加へさせて来てゐる。
副詞表情の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
古いところでは『新撰字鏡しんせんじきょう』や『倭名類聚抄わみょうるいじゅしょう』それから大分おくれて『伊呂波いろは字類抄』などが、後々増補してほぼ現存の標準語の数をつくしているように見えるが
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
重宗或時近臣の者に「予のさばきようについて世上の取沙汰は如何である」と尋ねたところが、その人ありのままに「威光に圧されて言葉をつくしにくいと申します」
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
山崎は、勿論、こういうことは知りつくしていた。そこへのアメリカの策動が、どんな意味を持っているか、それは日本人なら、云わずとも、すぐ神経にピリッと来る筈だ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
人間の智慧という奴が無限だか有限だかも人間の智慧では分らないから可笑おかしいのだよ。人間の智慧が無限ならば事物を解釈しつくせるように思うだろうがこれもあやしいのサ。
ねじくり博士 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「にて」はこの場合総合の過程を読者に譲ることによって俳諧の要訣ようけつつくしているであろう。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
生ら熟観稔察じんさつして、深く貴大臣、各将官、仁厚愛物のこころつくし、平生の念またた触発す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
編者の微意は本文中の「開会の辞」につくされているから、ここに重ねて言わない。
中国怪奇小説集:01 凡例 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
悠々たる哉天壌てんじょう遼々りょうりょうたるかな古今。五尺の小躯を以て此大をはからむとす。ホレーショの哲学ついに何等のオーソリチーをあたいするものぞ。万有の真相は唯一言にしてつくす。曰く「不可解」。
巌頭の感 (新字新仮名) / 藤村操(著)
右はただ自分の心覚えまでに、原文十一頁にわたる柳田君の貴重な大論文を、わずかにその四分の一にも足らぬほどの分量につづめたのであるから、十分に意をつくしておらぬのはやむをえぬ。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ゴーゴン・メジューサとも較ぶべき顔は例にって天地人を合せて呪い、過去現世げんぜ未来にわたって呪い、近寄るもの、触るるものは無論、目に入らぬ草も木も呪いつくさでは已まぬ気色けしきである。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「みなぬれにけり」という言葉も率直にこの感じをつくしているように思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
おそときすくなく文意ぶんいつくさずこれりようせよ)
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
つくス故ニ画図ノ此学ニ必要ヤもっとも大ナリ然而しかりしこうして植物学者自ラ図ヲ製スル能ハザル者ハつねニ他人ヲやとうテ之ヲ図セシメザルヲ得ズ是レ大ニ易シトスル所ニ非ザルナリ既ニ自ラ製図スルコト能ハズ且加フルニ不文ヲ以テスレバ如何シテ其うんヲ発スルコトヲ得ルヤ決シテ能クセザルナリ自ラ之ヲ製スルモノニ在テハ一木ヲ得ル此ニシ一草ヲ
そこで旅物語を廃めてしまつた。此間の事情は八月二日に茶山の蘭軒に与へた書に就いてつくすことが出来る。これも亦饗庭篁村あへばくわうそんさんの所蔵である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「うちの息子は学問をして日本語はすつかり知りつくしてしまひましたから、今度はわざわざ西洋へ行つて『いろは字引』にない言葉を習つてゐます。」
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
肉体の関係ということにもいろいろある佐助のごときは春琴の肉体の巨細こさいを知りつくしてあます所なきに至り月並の夫婦関係や恋愛関係の夢想むそうだもしない密接な縁を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恋愛の実境はそんな言ではつくし得ない、すべて少年は縹緻きりょうを重んじ中年は意気をたっとぶ、その半老以後に及んではその事疎にして情うたさかんに、日暮れ道遠しの事多し
併し俳諧はいかい、辯舌、男前、わけても金の力では大井久我之助、鯱鋒しやちほこ立ちをしても吾妻屋永左衞門に及ぶ筈もなく、それを知りつくしてゐるだけに、泥んこの中に引つくり返つた永左衞門
これ以外にも学界その他から得た栄誉の表章は色々あるがここには述べつくし難い。
工学博士末広恭二君 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
秋の或季節の趣は、殆どこの一句につくされているように思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
淇園は人の皆知る所なればしばらく置く。文台、名はげんあざな子長しちやう、伊賀の人である。渉筆に霞亭の自記と、韓凹巷かんあふこうの文とがあつて、此人の事がつくしてある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕は僅かに一年ばかりの間にどのくらいここにも罪悪や悲劇の行われているかを知りつくしていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
書きにくい文体で委曲をつくすように書き上げることはさほどむずかしいとも思わなかったが、書き過ぎると逆効果になる恐れがあるので、押し付けがましく聞えないように
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
半之丞は思わず吐息といききました。主君大場石見の暴圧を永年の間どれだけ緩和して来たことか、この人には、お組が言ったように、決して悪意のないことを平次も知りつくしていたのです。
「物にまぎるゝ」という七字が簡単にこれをつくしている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
少くも未だ其覊旅の状況をつくさざる時の語である。霞亭の将孥しやうど東徙は恐くは春の末、夏の初であつただらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕は僅かに一年ばかりの間にどのくらゐここにも罪悪や悲劇の行はれてゐるかを知りつくしてゐた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
多クノ「夫」ハ彼ノ妻ノ肉体ノ形状ニツイテ、恐ラクハ巨細ニわたッテ、足ノ裏ノしわノ数マデモ知リつくシテイルヿデアロウ。トコロガ僕ノ妻ハ今マデ僕ニ決シテ見セテクレナカッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
半之丞は思はず吐息といききました。主君大場石見の暴壓を永年の間どれだけ緩和して來たことか、この人には、お組が言つたやうに、決して惡意のないことを平次も知りつくして居たのです。
「金の工面くめんなどはどうにでもなる。」——そうも親切に言ってくれたりした。が、たとい旅行に行っても、わたしの憂鬱のなおらないことはわたし自身誰よりも知りつくしていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は彼をいこう暇なく興奮させ、その血壓を絶えず上衝させることに手段をつくした。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
然れども更に其區別の立てかたをとみかうみるに、いまだ其義をつくさゞるところあらむを恐る。われ思ふに所謂叙情と世相との目には、別に普通の意義にて理想、實際の兩語に當れるところあるべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ゴルゴタの十字架は彼の上に次第に影を落さうとしてゐる。彼はこの事実を知りつくしてゐた。が、彼の弟子たちは、——ペテロさへ彼の心もちを理解することは出来なかつた。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
復讐ふくしゅうの神をジュピタアの上に置いた希臘人ギリシアじんよ。君たちは何も彼も知りつくしていた。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)