思慮しりょ)” の例文
柳吉はいささかどもりで、物をいうとき上を向いてちょっと口をもぐもぐさせる、その恰好かっこうがかねがね蝶子には思慮しりょあり気に見えていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
昔の男一匹は動物的に猛勇をふるうを特性としたとはいいながら、なおかつ当時においても女子よりは思慮しりょと判断の力がすぐれていたであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いずれの中学校でも一番ぎょしがたいのは三年生である、一年二年はまだ子供らしい点がある、四年五年になると、そろそろ思慮しりょ分別ふんべつができる
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
内乱などということは、外国のできごとだとしか考えていなかったかれにとっては、それは全く思慮しりょにあまることだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
もとより、かれが、卜斎ぼくさいが大刀をふりかぶったとたんに、ふところの独楽こまをつかんだとはいえ、ふかい、冷静な、思慮しりょののちにそうしたのではない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
びとを帰したお政は、いささか気もおちついたものの、おちついた思慮しりょが働くと、さらに別種べっしゅ波瀾はらんが胸にわく。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ああ思慮しりょ知識ちしき解悟かいご哲学者てつがくしゃ自若じじゃく、それいずくにかると、かれはひたすらにおもうて、じて、みずか赤面せきめんする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
きみは天才はあるが、思慮しりょがないよ。持ってうまれた高調子で、とんきょうにやりだす、すぐ上からふろしきをかぶされてしまうのさ。そこはぼくになるとちがう。
『このしとやかな、思慮しりょぶかいむすめが、これまでわたしの知っていたあのジナイーダなのかしら?』
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
先生は新刊第三巻の冒頭ぼうとうにある緒論しょろんをとくに思慮しりょある日本人に見てもらいたいといわれる。
と、並木はからだごと歓声かんせいをあげ、大吉は大吉で兄らしい思慮しりょをめぐらしていたのである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
修行しゅぎょう未熟みじゅく思慮しりょりない一人ひとりむかし女性じょせいがおこがましくもここにまかりまくでないことはよくぞんじてりまするが、うも再々さいさいしにあずかり、是非ぜひくわしい通信つうしんをと
学校がっこうで、ある思慮しりょのない教師きょうしが、純吉じゅんきちのことを
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
とさすが倣岸ごうがんのドノバンも、富士男の勇気と思慮しりょと大きな愛の前に頭をたれた。かれはかたく富士男の手をにぎった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と、そこに思わぬてきを見かけた伊部熊蔵いのべくまぞうは、いきなり小文治こぶんじのうしろ姿すがたを目がけて、思慮しりょなきやいばを飛ばしていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という一がある。せんじつめれば男子の力は思慮しりょとどまらでこれを判断し、しかしてこれを実行するにある。女子の力は判断するについてははなはだ弱い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
糟谷かすやはまた自分の結婚けっこんするについてもその当時とうじあまりに思慮しりょのなかったことをいまさらのごとくいた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
大衆青年というものは、どんなに思慮しりょがあるように思えても、いったん反抗の精神にかりたてられると、どこにいくかわからないし、たいていの場合、破壊はかいに終わるものだからね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
このあたり見掛みかける妖精達ようせいたちがいしてみな年齢としわかいものばかり、性質せいしつ無邪気むじゃきで、一こう多愛たあいもないが、おな妖精ようせいでも、五百ねん、千ねん功労こうろうたものになると、なかなか思慮しりょ分別ふんべつもあり
デミトリチのひだりほうとなりは、猶太人ジウのモイセイカであるが、みぎほうにいるものは、まるきり意味いみかおをしている、油切あぶらぎって、真円まんまる農夫のうふうから、思慮しりょも、感覚かんかく皆無かいむになって
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一同の意気はとみにあがった、だがただひとり、ゴルドンはしじゅう黙然もくねんと腕を組んで一言も発しなかった。思慮しりょ深いかれはこの冒険ぼうけんをあやぶんだ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
もっとも普通に女子は男子に劣るという言葉のうちには、腕力わんりょくの差違を含めることはいうまでもないが、思慮しりょにおいて男子の女子に優越ゆうえつなることを述べたのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ことここにいたっては、思慮しりょぶかい小幡民部こばたみんぶも、もうこれまでである、いちかばちかと、決心して
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うっかりして過渡期かときの時代におったというのが、つまり思慮しりょがたらなかったのだ……。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
手当放題てあたりほうだい殴打なぐらなければならぬものとしんじている、所謂いわゆる思慮しりょわらぬ人間にんげん
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
バクスターはへいそあまりものをいわないが、勤勉きんべんにして思慮しりょ深く、生まれながらにして、建築けんちくの才能があった。富士男がかれを推薦すいせんして工事の部長としたのはむりでない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)