念頭ねんとう)” の例文
れがしきりに交代かうたいされるので、卯平うへいは一しか郷里きやうりつちまなくても種々しゆ/″\變化へんくわみゝにした。かれは一ばんおつぎのことが念頭ねんとううかぶ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
運の悪いいろいろの事情にわざわいされていたことも考えあわせ、また大器晩成流の家風をも念頭ねんとうに置いたために、深く考えても見なかったのである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
そして、おじいさんがつえをついてきて、二人ふたりに、このひかるものをげていったさまが、なお昨日きのうのように念頭ねんとうおもされるのでありました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕はカビ博士のことを念頭ねんとうに思いうかべた。そこで博士の貸してくれた通信機のことをも思い出して胸のあたりをさぐってみると、ちゃんとそれがあった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父親おやじ母親おふくろを始め、家つきをかさている女房のお辰めに一鼻あかしてやらなくては、というこころがなにかにつけて若い彼の念頭ねんとうを支配していたのだった。
わたしはをんなあはせたとき、たとひ神鳴かみなりころされても、このをんなつまにしたいとおもひました。つまにしたい、——わたしの念頭ねんとうにあつたのは、ただかうふ一だけです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
朝から飲まず食わずでも、またこれからいくにち、一てきの水を口にしないまでも、そんなことは念頭ねんとうにない。まさに真剣以上の真剣だ。それに早くまいったほうが惨敗者ざんぱいしゃだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまう、さつきから荷車にぐるまたゞすべつてあるいて、すこしも轣轆れきろくおときこえなかつたことも念頭ねんとうかないで、はや懊惱あうなうあらながさうと、一直線いつちよくせんに、夜明よあけもないとかんがへたから
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして三千代は首皇子を念頭ねんとうに常に安宿を育てていた。首皇子はその幼少に三千代にみたされて育ったかげを、より若く、より美しい安宿の現実の魅力の中で、思いだし、みたされていた。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
幽明ゆうめい交通こうつうこころみらるる人達ひとたちつねにこのこと念頭ねんとういていただきとうぞんじます。
周圍しうゐすべてがさかづきげてくれる當人同士たうにんどうし念頭ねんとううかべるとき彼等かれらあは嫉妬しつとかさねばらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたしは女と眼を合せた時、たとい神鳴かみなりに打ち殺されても、この女を妻にしたいと思いました。妻にしたい、——わたしの念頭ねんとうにあったのは、ただこう云う一事だけです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勘次かんじ自分じぶん身體からだ自分じぶんこゝろとが別々べつ/\つたやうな心持こゝろもち自分じぶん自分じぶんをどうすること出來できなかつた。それでも小作米こさくまいのことは念頭ねんとうからぼつることはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)