ぬさ)” の例文
暮れゆく春への手向けのぬさの袋かと見える。几帳きちょうなどは横へ引きやられて、締まりなく人のいる気配けはいがあまりにもよく外へ知れるのである。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうすると一行の連中のうちから、わざと物々しげに拝殿から持ち出した細い紙のぬさで、その善男善女の頭を撫でてやり
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「白木綿花(神に捧げるぬさの代用とした造花)に」などと現代の人の耳に直ぐには合わないような事を云っているが
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
不思議ふしぎなことにそんな場合ばあいには、いつもぬかづいているわたくしあたまうえで、さらっとぬさおといたします。そのくせけてても、べつなにえはしませぬ。
ぬさ立てて、小松植ゑてな、あなさやけおもしろ、雪よ雪こんこよ、ハレヤとう、ヤソレたたらと、夜すがら遊ぶ。
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きよめ砂置いた広庭の壇場には、ぬさをひきゆい、注連しめかけわたし、きたります神の道は、(千道ちみち百綱ももづな、道七つ。)とも言えば、(あやを織り、にしきを敷きて招じる。)
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また代王の内蔵の物失せて戸締りはもとのごとし、士嘉これきっと猴牽さるひきが猴を使うたのだと言いて、ぬさを庭につらね、群猴をしてよぎらしめて伺うに、一つの猴がつかみ去った
其の後一五〇御廟みべう一五一玉もてり、一五二丹青たんせいゑどりなして、稜威みいづあがめたてまつる。かの国にかよふ人は、必ずぬさをささげて一五三いはひまつるべき御神なりけらし。
※※ぼくそくとして視る無き瞎驢くわつろの何を悟らむ由もなく、いたづらに御祓みそぎすましてとり流すぬさもろともに夏を送り、窓おとづるゝ初時雨に冬を迎へて世を経しが、物に定まれる性なし
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
白いぬさを立てた、三尺四方ほどの堂と、賽銭箱さいせんばこと、鈴と、それに赤い小さい鳥居と。
宮人たちは歓呼の声を上げながら、二人を目がけて柏の葉を投げた。白洲の中央では、王妃のかけた真澄鏡ますみかがみが、石の男根にがったぬさの下で、松明たいまつほのおを映して朱の満月のように輝いた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
雨乞いならば八大はちだい龍王を頼みまいらすべきに、壇の四方にぬさをささげて、南に男山おとこやましょう八幡大菩薩、北には加茂大明神、天満天神、西東には稲荷、祇園、松尾、大原野の神々を勧請かんじょうし奉ること
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぬさの如く束ねたる薄金うすがねはさら/\と鳴り、彩りたる紐はたてがみと共にひるがへり、ひづめの觸るゝ處は火花を散せり。かゝる時彼鐵板は腋を打ちて、拍車にちぬると聞く。群衆は高く叫びて馬の後に從ひ走れり。
八隅やすみししわが大君、かむながらおもほし召して、大八洲国おおやしまくに八十国やそくに、よりによりにめぐらし、いちじろき神のやしろに、ぬさまつりをろがみまし、御世御世のみおやの御陵みはか、きよまはりをろがみまして
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
菅家くわんけ、このたびはぬさもとりあへず手向山たむけやま……」
ぬさの様に魚をとる道具を美しく作り
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
引き出だすぬさに牡丹の飾り花車だし
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
白いぬさを立てた、三尺四方ほどの堂と、賽錢箱と、鈴と、それに赤い小さい鳥居と。
内陣の正面、東照公の木像を納めた扉の前に立っている、三本の金の御幣ごへいを担ぎ出したものがあります。事のついでに左右の白幣も、拝殿に立てたぬさも引っこ抜いて担ぎ出しました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伏拝ふしをがみ越えつつくだる道の奥道祖だうその神にぬさたてまつる
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
少しの酒を作りまして、小さなぬさ
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
去年こぞ今年ことし国の禍事まがごとしきりなり夜天の宿しゆくぬさ奉る
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ぬさ手向たむけの男山
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)