やすん)” の例文
しかれどもなほやすんぜず、ひそかに歎じて曰く宮本武蔵は※々ひひを退治せり。洋人の色に飢るや綿羊を犯すものあり。僕いまだくここに到るを得ずと。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
怡然たいぜんとして心にやすんじ宇宙に存在する霊気をして我の身体を平常体に復さしむるにあり、これ迷信にあらずして学術的の真理なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
けれどもどうやらお綾さんが人間らしくなって来たので、いささか心をやすんじたはいが——寝るとなると、櫛の寝息に、追続いた今の呻吟うめき。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浮世うきよかゞみといふもののなくば、かほよきもみにくきもらで、ぶんやすんじたるおもひ、九しやくけん楊貴妃ようきひ小町こまちくして、美色びしよくまへだれがけ奧床おくゆかしうてぎぬべし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二年近い旅から帰って、抽斎はつとめて徳に親んで、父の心をやすんぜようとした。それから二年立って優善やすよしが生れた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
実際これは彼の新不平に過ぎないので、不平を説いてはいるが、彼の分にやすんずる一種の空論にしかあり得ない。
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「必ずしも信仰そのものは僕の願ではない、信仰無くしては片時たりともやすんずるあたわざるほどにこの宇宙人生の秘義に悩まされんことが僕の願であります」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
されど此間我胸中には、猶少しの寺院教育のかす殘り居たれば、我も何となく自らやすんぜざる如き思をなすことありき。我はをり/\此滓のためにいましめられき。
人は誰しも其分にやすんじていなければならない。それには諦めが肝要である。諦めは安易を伴い、与えられた型に満足して其埒外に躍り出すことを断念させた。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それが判っていて、自分がその人情にやすんじられないから、伸子は悲しく苦しいのであった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
自然の化育に従って、その性に従うものは従い、また瓦石がせきともなり蚊虻ぶんぼうともなって変化にまかせて行くべきものはまたその変化にやすんじて委せる。これが本当の「道」であるべきだ。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
君子の信ずるところは小人の疑うところとなり、老婆のやすんずる所は少年の笑うところとなる。新をむさぼる者はちんきらい、古を好む者はあやしむ。人心のおなじからざる、なおその面のごとし。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
きよやすんぜぬあだ心。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
われは現時文壇の趨勢を顧慮せず、国の東西を問はず時の古今ここんを論ぜず唯最もわれに近きものを求めてここにやすんぜんと欲するものなり。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
南氷洋を囲みて同様なる陸の堤ありと探検家はいう。まことに神は海の大動揺をある範囲に止めて、人畜をしてやすんじて地の上に住ましむるのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
れほどとほくてもさとらるゝ、したちかみづおどつて、たきになつてつるのをたら、人家じんかちかづいたとこゝろやすんずるやうに、とをつけて孤家ひとつやえなくなつたあたりゆびさしをしてくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
知らないままにのこっていることに、やすんじている。これは何故だろう。
我もいなともとも云ふ暇なくして、接吻せられき。母上片手にて我頬をさすり、片手にて我衣をなほし給ふ。手尖てさきの隱るゝまで袖を引き、又頸を越すまで襟を揚げなどして、やう/\心をやすんじ給ひき。
きよやすんぜぬあだ心。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
裏路地うらろじ佗住居わびずまいみずかやすんずる処あらばまた全く画興詩情なしといふべからず、金殿玉楼も心なくんば春花秋月なほ瓦礫がれきひとしかるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もしなお余の熱心の足らざるを以て余を責むるものあらば、余は余の運命にやすんずるよりみちなきなり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
されば我らは地を見てそこに神の愛を悟るべきである。そしてやすんずべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)