威厳いげん)” の例文
旧字:威嚴
西郷隆盛さいごうたかもりのそばにいると心地ここちよくおう身体からだから後光ごこうでも出ているように人は感じ、おうは近づくとえりを正さねばならぬほど威厳いげんがあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さて、事態がそこまで進むと、先生がこれまで自分の威厳いげんを保つために蓄えていたわずかばかりの心のゆとりも、もうめちゃくちゃだった。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
おのずから貴公子の威厳いげんがそなわっているからだろうと正三君は最初の中ごく単純に解釈していた。ことに高谷たかや君と細井ほそい君は照彦様びいきで
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼はただ粟野さんの前に彼自身の威厳いげんを保ちたいのである。もっとも威厳を保つ所以ゆえんは借りた金を返すよりほかに存在しないと云うわけではない。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
巡査じゅんさは、すばやく起きなおり、威厳いげんをつくろいながら、男に手錠てじょうをはめようとして、なさけない声を出した。
と、その威厳いげんにおどろいた家臣たちは、おずおずと笈のなかをあらためたが、そのなかには、龍太郎の言明したとおり、三体のほとけのぞうがあるばかりだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うめせいよりかもはるかに威厳いげんがあり、何所どこやらどっしりと、きかぬ気性きしょうそなえているようでございました。
このことばに人々はM大尉エムたいい発狂はっきょうしたのではないかと思いました。けれども自信ある態度たいどにおかすべからざる威厳いげんがありましたから、審判官しんぱんかんは、大尉たいいのねがいをききました。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
小初がずっと端麗たんれいに見える。その威厳いげんがかえって貝原を真向きにさせた。貝原は悪びれず
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕は肩から胸へ釣った記録板きろくばんと、両端りょうたんをけずった数本の鉛筆とを武器として学究者らしい威厳いげんを失わないように心懸けつつ、とうとう「信濃町」駅のプラットホームへ進出した。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうしてそんな安ッぽいのじゃない。この大きなくちばしだけでも、威厳いげんがあるからな。しかもこのくちばしで、とんちをふりまいて人をうれしがらせる。まあ、人になることですよ。
雨戸あまど引きあけると、何ものか影の如くった。白は後援を得てやっと威厳いげんを恢復し、二足三足あとおいかけてしかる様に吠えた。野犬が肥え太った白を豚と思って喰いに来たのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お巡りさんの一人が、怖々怪物に近寄って、出来る丈け威厳いげんを示して叫んだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、また来年らいねんあたらしいして、おれ威厳いげんがいっそうくわわるだろう。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うまく行けば、寮監は、すかをってよろける。みんながどっと吹き出す。ところが、先生は、もう一度やり直そうとはしない。自分の番にずるい真似まねをするのは、彼の威厳いげんに係わるからだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
一方わたしは、今しがたのジナイーダの手の振りようを思いうかべながら、本当の女王様でも、あれ以上の威厳いげんをもって、無礼者にドアをさして見せることはできまいと、改めてまた心に思った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そのりんとした声には、女王のような威厳いげんが備わっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「貴様はそう心易くいうが、朝廷では皇叔、外にあっては、左将軍劉予州りゅうよしゅうともあるお方だ。むかしの口癖はよせ。わが主君の威厳いげんを、わが口で落すようなものだ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍団長イワノウィッチは、大刀だいとうたて反身そりみになって、この際の威厳いげんたもとうと努力した。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
には平袖ひらそで白衣びゃくいて、おびまえむすび、なにやら見覚みおぼえの天人てんにんらしい姿すがた、そしてんともいえぬ威厳いげん温情おんじょうとのそなわった、神々こうごうしい表情ひょうじょう凝乎じっわたくしつめてられます。
こちらの運転手は、上等自動車の手前、威厳いげんを見せて、はしたなく怒鳴どなりつける様なことはせぬ。その代り、無言のまま正面を切って、相手の詫言わびごとを黙殺して、しずしずと車を出発させた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼等が随喜渇仰ずいきかつごうしたほとけは、円光のある黒人こくじんではありません。優しい威厳いげんに充ち満ちた上宮太子じょうぐうたいしなどの兄弟です。——が、そんな事を長々と御話しするのは、御約束の通りやめにしましょう。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きらきらする眼とてもそう威厳いげんのあるものではなく、顔はこの炎天に赭黒あかぐろけて、それと知る者でなければまず兵百人持ぐらいな一将校としか思われない風采ふうさいであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とにかく御大将おんたいしょうともあれば、威厳いげんをそこなわないことには、秘術を心得て居る。
御林の旗幡きはんは整々と並び、氷雪をあざむくほこや鎗は凛々りんりん篝火かがりびに映え、威厳いげん森々しんしんたるものがあるので、さすがの蛮王も身をすくめてただらんたる眼ばかりキョロキョロうごかしていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太い威厳いげんのある頭目の声が、牛丸の胸を刺した。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蛾次郎、口をとンがらかして、すこぶる威厳いげんを傷つけられたように、憤然ふんぜん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熊蔵くまぞうはすこしキッとなって、山目付やまめつけらしい威厳いげんをとった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)