奔馬ほんば)” の例文
高山から飛越国境の蟹寺までの間、二十里ばかり、宮川は奔馬ほんばのように急勾配の渓底を駆けくだっている。恐ろしいほど荒い川である。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
奔馬ほんばちゅうけて、見る見る腕車を乗っ越したり。御者はやがて馬の足掻あがきをゆるめ、渠に先を越させぬまでに徐々として進行しつ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
断雲だんうんは低くたれて、奔馬ほんばのごとくとびきたり、とびさる、まだいきおいのおとろえない風のなかを、四人はたがいに腕をくんで浜辺に出た。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あげての、人間の悪さ競べにならねばよいが、武者所など、さしずめ、悍馬かんば奔馬ほんば、じゃじゃ馬などの、集まり所。……こわいのう
程たたぬまにそこへ命じた白木しらきの板が運ばれたのを見すますと、たっぷり筆に墨を含ませて書きも書いたり、奔馬ほんばくうを行くがごとき達筆で
かのいはほの頭上にそびゆるあたりに到れば、谿たに急に激折して、水これが為に鼓怒こどし、咆哮ほうこうし、噴薄激盪げきとうして、奔馬ほんばの乱れきそふが如し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大詰おおづめ奔馬ほんばの魔術という大道具の一場があって、その日の打出しとなりましたが、これを最後まで見ていた見物のうち、二人の壮士がありました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この時において彼徒爾とじにしてまんや。蹈海とうかいの雄志は奔馬ほんば鞭影べんえいに驚きたるが如し。彼に徒爾にしてまんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
二連銃にれんじう銃身じうしんにぎつて水兵すいへい顧見かへりみると、水兵すいへいいきほひするどく五六此方こなたはしちかづく、此時このとき二發にはつ彈丸だんぐわんくらつた猛狒ゴリラ吾等われら打捨うちすてゝ、奔馬ほんばごとむかひ、一聲いつせいさけぶよと
正月十日、霜天そうてんに泡を吹いて、ガラツ八の八五郎、奔馬ほんばのやうに飛んで來たのです。
甲板かんぱんに出ても、これまで群青ぐんじょうに、かがやいていたおだやかな海が、いまは暗緑色にふくれあがり、いちめんの白波が奔馬ほんばかすみのように、飛沫しぶきをあげ、荒れくるうのをみるのは、なにか、胸ふさがる思いでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
お初の情熱は、いわば、らちね越えた奔馬ほんばのようなものであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
で、彦七は身をひるがえすと、奔馬ほんばのように走り出した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奔馬ほんばは、その荷を振り落し、自軍の列を、駈けみだした。小荷駄頭の朝舎丹後あさのやたんごは、よく指揮し、よく戦ったが、足手まといにわずらわされ
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富士山麓の山中湖から源を発して三、四十里、相州の馬入村で太平洋へ注ぐまで、流れは奔馬ほんばのように峡谷を走っている。
香魚の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
お玉はわづかのすきを狙つて、はやり切つた奔馬ほんばのやうに、兩國へ驅け戻つたのでせう。
奔馬ほんばというものは、前から捉えるにやすくして、後ろから追うにはこの通りほねだが、そうかといって馬というやつは、蝶々トンボのたぐいと違って、どう間違っても空中へ向けて逸走することはない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巌はわれをわすれて窓によじのぼり、奔馬ほんばのごとくろうかへ降りた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
見るとそれは秘命をおびて、伊那丸いなまるの本陣あまたけをでた奔馬ほんば項羽こうう」。——上なる人はいうまでもなく、白衣びゃくえ木隠龍太郎こがくれりゅうたろうだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は八五郎の耳に囁くと、八五郎は奔馬ほんばのやうに飛び出してしまひました。
竹槍をしごいた両岸の先陣五六名ずつが、その声にあおられて、奔馬ほんばのような勢いで、米友をめがけて——事実、米友としては、そう見るよりほかに見ようがない——両方から殺到しきたるのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
チビ公は奔馬ほんばのごとく走りだした。光一も走りだした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「ちぇッ」と、かれは地団太ふんで、さらに奔馬ほんばのような勢いで往来へ出た。もう思い出す湯はこの近くに小町湯とお豊風呂の二軒しかなかった。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「将軍、帰り給え。将軍、引っ返し給え」と呼んでいたが、張郃は、憎き魏延を打ちとめぬうちはと、奔馬ほんばの足にまかせて鞭打つ敵を追っていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広きへ殺出さっしゅつした城兵と、押太鼓を打って、狭きへ迫り会った寄手とが、喊声かんせいをあげ、奔馬ほんばを駈け合わせ、はやくも狂瀾怒濤の相搏あいうつ状をえがき出した。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、呂布もこよいばかりは、その奔馬ほんばを引止めるのに汗をかいた。もし敵の一矢でも、一太刀でも、背の娘にうけたらと、それのみに心をひかれるからであった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまぞ花の散りどころと、伊那丸は、あぶみを踏んばり、くらつぼをたたいて叫びながら、じぶんも、まっさきに陣刀をぬいて、城門まぢかく、奔馬ほんばを飛ばしてゆく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おお、いよいよ奔馬ほんばは近づいてきた。しかもそれは一ではない。あとからつづくもう一騎がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しり松火たいまつをつけられているように、真っ赤な傷口を持っている例の奔馬ほんばは、あれから盲滅法に駈けだして、八百八谷はっぴゃくやだにという鈴鹿の山坂を、またたく間に駈け通し、蟹坂かにさかを突破し
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一すじの道にかかっている自分と武蔵との間をまた忽ち遠くしてしまうものであるにせよ——この男に奔馬ほんばの脚を与えることは断じて出来ないと、朱唇しゅしんを噛んで意思するのであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八雲は、奔馬ほんばの群を待っていた。そして、先頭の華やかな武者のあぶみへすがって
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とどまるを知らない奔馬ほんばの手綱をやっと締めて——光春が、田のあぜの、湖に注いでゆく小川の縁から振り向いたときは、もうその二人も見えず、追って来る秀政のすがたも見えなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奔馬ほんばの脚を、急激に止めながら、秀吉は、馬の背にへばりついたまま訊ねた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ござんなれ」と、奔馬ほんばをよせて斬りかけた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奔馬ほんばの脚では一べんの間であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奔馬ほんば
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)