堪能たんのう)” の例文
よほど会話に堪能たんのうででもあるかのやうに……が、それからさきが私にはわからなかつたので、早速似顔かきの老画伯に救ひを請うた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「どうだい、君、ひとつ、ここで合わせてみたらどうだ、ちょうど、そこに一管がある、君の堪能たんのうでひとつ、返しを吹いて見給え」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それはともかく、がらあきなのにつけ込んで私は上り込み、そこで楽屋の内部をはじめて堪能たんのうするほど眼に収めることができた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
後學のために、お師匠の許を去るこの私に、一色家に傅はる祕曲を、吹いて聽かして下さればそれで堪能たんのうするのでございます
その年も京二の君津楼の初午はつうまの催しで、得意の手品で私たちを堪能たんのうさせてくれたが、声色、手踊なんかよりはこの方が子供たちには人気があった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
その一人のフリーデマンというのは、彼と同じく音楽家で、オルガニストであって、三十ばかりの年配、才知もあり、自分の職務にも堪能たんのうだった。
若い頃は、恐らく、物静かな、事務に堪能たんのうな、上役にとって何かと重宝ちょうほうがられた侍の一人であったろう、と思われる。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
シャムの話には金翅鳥こんじちょう竜を堪能たんのうするほど多く食おうとすれどそんなに多く竜はない、因って金翅鳥ある湖に到り
しねえんですよ。べっぴんはべっぴんでけっこう目の保養になるんだからね。しわくちゃな親の顔なんぞと比べてみなくとも、ちゃんと堪能たんのうできるんですよ
「この沢野さんは日本語にはもうカナリ堪能たんのうなんですが、しかし万一の不便があってはというんで、私がいくぶん通訳の意味でお伴に上がったわけです。」
かたがた歌道茶事までも堪能たんのうに渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀さいしも総て虚礼なるべし
去年まで応援団に牛耳ぎゅうじっていた新太郎君と寛一君は○○大学の成績が益〻好いにつれて、ソロ/\日曜丈けでは堪能たんのう出来なくなった。但し二人は意味が違う。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それですっかり堪能たんのうして、もっとMRミスタ・タチバナの文学上の意見を聞かまほしやというような顔をしたが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこで辻斬りは役人を五里霧中に迷わせ、女色の深い孫兵衛をしていろは茶屋に堪能たんのうさせる方法となった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
就中なかんずく琵琶びわ堪能たんのうで、娘に手をひかれながら、宿屋々々に請ぜられて、やすらかに、親娘おやこを過ごすようになった。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俺は、吃驚びっくりする彼に、黒鉛の弾を明かして、どうだ、一番芝居をやろうじゃないか。あの利得金で堪能たんのうするためには、まず船場四郎太を戸籍から抹消する必要がある。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
院長の児玉こだま博士は、専門の医学の外に、文学にも堪能たんのうで、殿村などとも知り合いであったから、さい前殿村からの電話を聞いて、彼等の来るのを待ち受けていた程である。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この温泉場の元勲げんくんで、詩書に堪能たんのうであり、雲仙陶器の創始者と知られ、同時に七十三歳を迎えた今年のはじめから、雪白せっぱくの頭に、黒髪をおびただしく生じはじめたことで
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「さ、先生はここ。ソンキさんとならんでください。こっちがわがマッちゃん。ふたりで先生をはさんで、堪能たんのうするだけしゃべりなさい。あとはめいめい勝手にすわって」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それで、ひとまずあれを堪能たんのうしてから、会食するのがこの村のしきたりになってるのだ。あんたは始めてのことで、さぞびっくりなすったことじゃろう。悪く思わないでくれ
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
それからずっとのちまで、長い間、疲れた人や、おなかのへった人や、喉のかわいた人などがそこへ来て、いつも休んでは、不思議の壺から、堪能たんのうするほど牛乳を飲みました。
そのころは遊芸が流行で、そのうちにも富本とみもと全盛時代で、江戸市中一般にこれが大流行で、富五郎もその道にはなかなか堪能たんのうでありましたが、わけて総領娘は大層上手じょうずでありました。
食い終って一通り堪能たんのうしたと見え、彼は焜炉の口を閉じはじめて霰の庭を眺めった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
父は、ある別のものを愛していて、その別のもので、すっかり堪能たんのうしていたのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
Tは独逸語ドイツご堪能たんのうだった。が、彼の机上にあるのはいつも英語の本ばかりだった。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一度でも、好みの衣類に手を通したよろこび——それで堪能たんのうしていたのだった。
ビフテキが燒いてある?………ほ、それは結構けつこうだね。お前はも強壯な筈だから、ウンと堪能たんのうするさ。俺は殘念ながら、知ツての通り、半熟はんじゆくの卵と牛乳で辛而やつと露命ろめいつないでゐる弱虫だ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あのきりょうで鯱鉾立しゃっちょこだちでしょう、江戸中大騒ぎの見物でしたよ、大店の十七娘に、あれだけ恥を掻かせれば、浅田屋の治平は堪能たんのうしたわけで
半畳はんじょうのための半畳を抑え、弥次のための弥次を沈黙させただけの効果と、堪能たんのうとは、たしかに存在したものであります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
広い江戸にも武芸者はたくさんあるが、やり太刀たちと違って含み針なぞに堪能たんのうな者はそうたくさんにいねえんだ。
かたがた歌道茶事までも堪能たんのうに渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀さいしすべて虚礼なるべし
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
射落し志望者は皆二十五六の青年だから自分の年と較べて見て、差控えていたのだった。偶〻たまたま藤浪君は貞代さんの聯想から一つ年上でも堪能たんのう出来る心境にいた。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いったい蛮土ばんどの物は濃厚のうこうで、日本の物は淡味たんみです。菓子でも、干柿ほしがきもちの甘味で、十分舌に足りていたものが、砂糖に馴れると、もうそれでは堪能たんのうしなくなります
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私もこれでもう自分の好奇心は充分堪能たんのうしたことであったから、「じゃ一つはいって来ようかな」と思い切りううんと伸びをすると手拭をぶら下げて立ち上ったが
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
一寸法師は先程からの狂乱にグッタリと疲れて、しかし同時にすっかり堪能たんのうした恰好で群集の列にまぎれてもと来た道を引返した。いうまでもなく背広の男は尾行を続けて行った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三藐院が、書画ともに堪能たんのうであられたことは知っているが、発句を作られたことはかつて聞かない。また三藐院が発句を作られる道理もないと思う。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
プロフェッサーらしい厳格さと、ヴァーチュオーゾの壮麗さを兼ねて、誰にでも堪能たんのうさせる演奏であり、きわめて高度の完成感を持った演奏でもある。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
三河みかわ万歳の鼓でもなし、どうもさる回しのたたくやつじゃないかと思うんですが、それをまたどうしたことなんだか、井上のおだんながひどくお堪能たんのうでね
美味を追求する人間の貪欲にこたえて遠来のわれら凡夫を堪能たんのうさせてくれるこの家のおばあさんの食牛育成における仏心即商魂は、なるほど辰野さんの随筆になりそうだ。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馘った人間を馘り返せば宜いんだから、大体こんなところで堪能たんのうする外仕方あるまい
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今におれの知恵のおそろしさを堪能たんのうするほど見せてやるから。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
両博士とも西班牙スペイン語も独逸語もすこぶる堪能たんのうであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
机竜之助は、どの程度まで尺八を堪能たんのうか知らないが、おそらく、この男が、この世における唯一の音楽の知己としては、これをいてはありますまい。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
イタリー人が歌うことにすぐれているように、ボヘミア人はヴァイオリンをひくことに堪能たんのうで、「旅人がボヘミアでう人の二番目はヴァイオリン弾きだ」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
堪能たんのうしたといったように、しきりと小楊子こようじで歯をせせくっていましたが、座敷へはいってきた小女の顔をみると、やんわりと、まずこんなふうにいったもので——。
「いや、つくづく、女をあわれと思うてのことです。この十日余、かたじけない恩寵の賜物には堪能たんのういたしたが、義貞は武人、ひとたび門を立ってみれば、生死のほどは測りがたい」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探りを入れて見ると、みな仲人結婚なこうどけっこんだ。これあるかなと思った。持ち込まれると、そう/\贅沢を言えない。大概のところで堪能たんのうしてしまうから、拙いのを貰う。運の好い奴が麗人を引き当てる。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
八五郎は一應この説明で堪能たんのうしましたが、説明した平次自身が、かへつて覺束おぼつかなさを感じて居る樣子です。
これまで堪能たんのうの方々から、鈴慕を聞かせていただいたことは幾度かわかりません、聞かせるには聞かせていただきましたけれど、不敏な私には、どうしても今まで
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
じゃ、おれがふたり分堪能たんのうしてやるから、気を悪くすんなよ。——ねえ、だんな、ないしょにちょっと申しますが、ついでだからころあいなのをひとり見当つけておいたらどうですかい。