垂下たれさが)” の例文
写真で知つて居る詩人の垂下たれさがつた長いひげう白く成つて居るかと云ふ様な事を聞いた。詩人は故郷の白耳義ベルジツクを旅行して居るのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
庭の正面に大きな笠松の枝が低く垂下たれさがって、添杭そえぐいがしてあって、下の雪見灯籠ゆきみどうろうに被っています。松の根元には美しいささが一面にい茂っていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
と思いながらフト足もとを見ますと、一本の蔦葛つたかずら垂下たれさがって、ずうっと崖の下の家の側まで行っております。
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
するするとおときの指輪の光る指の間から、細く長い皮が垂下たれさがって、水気のある肉はあからさまになった。それを四つに切って新吉にもすすめ、自分も口に入れた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
どうかすると節子は彼の見ている前で、帯の間からくしなぞを取出して、彼女の額に垂下たれさがる髪をときつけたり、束ねた髪のかたちを直したりするほどの親しみを見せる。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また賽銭箱の上にはだらりと赤、白、紫の交りの紐が垂下たれさがっていて、青錆の出た鈴が上に吊されていた。其等それらの紐は、多くの人々の手垢に汚れて下の方が黒くなっていたことを覚えている。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こゝに年歴としへたる藤蔓ふぢづるの大木にまとひたるが谷川へ垂下たれさがりたるあり、とまやまして水くむものたるにくゝしひ、此ふぢづるをたよりとして谷川へくだり、水をくみてたるの口をつめておひ
救いに行った、私の兄の帆村荘六ほむらそうろくは、その洋館の一室で、足を天井につけ、身は宙ぶらりんに垂下たれさがっていました。ニュートンの万有引力ばんゆういんりょくの法則を無視したような芸当げいとうですから私は驚きました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんと、棕櫚しゆろのみところに、一人ひとりちひさい、めじりほゝ垂下たれさがつた、青膨あをぶくれの、土袋どぶつで、肥張でつぷり五十ごじふ恰好かつかうの、頤鬚あごひげはやした、をとこつてるぢやありませんか。なにものともれない。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大空重く垂下たれさがりてものおおふ蓋の如く
その少し藪にらみな白い大きな目が赤い紙で包んだ電灯のもとで光るのは不気味だが、その好い声を聴き、垂下たれさがつた胡麻塩髭の素直なのを見れば
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その並木の青葉も岸本が巴里パリに着いたばかりの頃から見ると早や緑も濃く、花とも実ともつかない小さなくりのイガのようなものが青いまりを見るように葉蔭から垂下たれさがった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それとにはか心着こゝろづけば、天窓あたまより爪先まで氷を浴ぶる心地して、歯の根も合はずわなゝきつゝ、不気味にへぬ顔をげて、手燭ぼんぼりの影かすかに血の足痕あしあと仰見あふぎみる時しも、天井より糸を引きて一疋いつぴきの蜘蛛垂下たれさが
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お房は、耳のあたりへ垂下たれさがる厚い髪の毛をうるさそうにして、うっとりとした眼付で二人の方を見た。何処どこか気分のすぐれないこの子供の様子は、余計にその容貌おもばせを娘らしく見せた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あたまからほゝ縱横たてよこ繃帶ほうたいけてる。片頬かたほゝらでも大面おほづらつらを、べつ一面ひとつかほよこ附着くツつけたやうに、だぶりとふくれて、咽喉のどしたまで垂下たれさがつて、はちれさうで、ぶよ/\して、わづかにと、はな
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見れば種牛はもゝから胴へかけて四つの肉塊かたまり切断たちきられるところ。右の前足の股の肉は、既に天井から垂下たれさがる細引に釣るされて、海綿を持つた一人の屠手が頻と其血を拭ふのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ちょっとうらを余して垂下たれさがる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)