呼吸こきゅう)” の例文
一年もたつうちには、ちょっとした呼吸こきゅうでもって、屋根や木の枝やその他の高い所から、わけなく飛び下りられるようになりました。
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
これらの川魚かわざかなは、そこあさいたらいのなかに、半分はんぶんしろはらせて、呼吸こきゅうをしていました。そのとなりでは、あまぐりをおおなべでっていました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
そらにあるつきちたりけたりするたびに、それと呼吸こきゅうわせるような、奇蹟きせきでない奇蹟きせきは、まだ袖子そでこにはよくみこめなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
素気無そっけなかおには青筋あおすじあらわれ、ちいさく、はなあかく、肩幅かたはばひろく、せいたかく、手足てあし図抜ずぬけておおきい、そのつかまえられようものなら呼吸こきゅうまりそうな。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
だが、いままではけんをもつと剣をつかおうとする気に支配しはいされ、ぼうをもつと棒をつかう心にくらまされて、この呼吸こきゅうというものが、いつかまったく忘れていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つめている呼吸こきゅうが、いまにも、うううともれて、うなりだしそうにかたくなっている。気をつけのその姿勢しせいは、だれが見たって笑わずにいられるものではなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それから六時間ほど、まるで死んだようになってねていたが、血のめぐりがついてくると、呼吸こきゅうも強く出るようになった。そうしてとうとう目をましたのであった。
しだいしだいに呼吸こきゅうがおとろえて、あけがた、うすあかりが東にほのめくころ、この改悟かいごの義人は、十五少年とケートとインバスにまもられて、その光ある最後の息をひきとった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
口へてのひらを当てがっても、呼息いきの通う音はしなかった。母は呼吸こきゅうつまったような苦しい声を出して、下女に濡手拭ぬれてぬぐいを持って来さした。それを宵子の額にせた時、「みゃくはあって」と千代子に聞いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
千軍万馬のお蓮様、そこらの呼吸こきゅうをよっく心得ている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
またその桔梗ききょういろのつめたい天盤てんばんには金剛石こんごうせき劈開片へきかいへん青宝玉せいほうぎょくとがった粒やあるいはまるでけむりの草のたねほどの黄水晶きずいしょうのかけらまでごく精巧せいこうのピンセットできちんとひろわれきれいにちりばめられそれはめいめい勝手かって呼吸こきゅうし勝手にぷりぷりふるえました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いつしかつばさやぶれ、呼吸こきゅうくるしくなり、もうこのうえは、なるがままにをまかせるよりは、ほかになかったのであります。
小さな金色の翼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
聴衆はいよいよまどった。三百の聴衆のうちには、道也先生をひやかす目的をもって入場しているものがある。彼らに一すんすきでも与えれば道也先生は壇上に嘲殺ちょうさつされねばならぬ。角力すもう呼吸こきゅうである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あせは全身をぬらしてくる。呼吸こきゅうはつまる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうでしたらわたしは、どんなに幸福こうふくでありましょう。わたしは、いつまでもあなたのむねなかきています。わたしちいさなあか心臓しんぞうは、あなたのこころ宿やどって呼吸こきゅうしています。
ふるさとの林の歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
両親りょうしんのない自分じぶんは、ついに、こんな渡世とせいにまでとしましたが、いつも、とりつかまえたときの呼吸こきゅうひとつで、どんなあぶない芸当げいとうも、やってのけるのであります。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、心臓しんぞうただしくっており、はいつよ呼吸こきゅうをし、どこひとつとしてくるっているところはないばかりか、すこしも精神病者せいしんびょうしゃらしいところもうけなかったのです。
笑わない娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「なるほど、その呼吸こきゅうです。よく、わかりました。」といって、あたまげました。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
青々あおあおとしたそらをあおいで、ふか呼吸こきゅうをつづけました。
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)