“吝(おし)” の例文
その頃の西洋地理書から訳出したものらしいが、欧州の博識連へ聞き合したるも今に所拠が知れぬ。御存知の方は教示を吝(おし)むなかれ。
「ふゝん! それでも少しは変な気がする筈だ。……変な気がするだろう!」負け吝(おし)みを言うな、譃だろう、というように冷笑する。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一方は赤裸々の心事を、赤裸々に発表すれども、他方は苟(いやし)くも人に許さず、甚だ一笑一顰(いっぴん)を吝(おし)み、礼儀三千威儀(いぎ)の中に、高く標置す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
尚お一言附け加えて置きますが、もし諸君が不明の病症で殪(たお)れた場合は御遺族の方から御一報次第参上、執刀の労を吝(おし)まない積りであります
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
吝(おし)んでいるのですから、姉妹二人とも薄暗い石油洋燈(ランプ)の光で、それも、少しでもながくともせば、こいつが大騒ぎなんです。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これらはいずれもが、漫然出来得ると軽率にも誤認し、それを空(むな)しく求めているだけだと、私の常識と経験はいつでも断言を吝(おし)まないのである。
私はたとい、親鸞が信心決定の後、業に催されて殺人を犯そうとも、パウロが百人の女を犯そうとも、その聖者としての冠を吝(おし)もうとは思わない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
嫁に食べさせる物を吝(おし)んで蓄(た)めた金を寄附して、早晩滅亡する運命を持っている両本願寺のような迷信の府を愚かにも支持しようとするに過ぎない。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
どういう人と限ることは出来ませんが、遊びと云えば元々奢(おご)りですから、金を吝(おし)むなら奢らぬがいゝのですが、とかくこのごろは安く遊ぶことばかりを心掛け
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
この年七月二十日に山崎美成(やまざきよししげ)が歿した。抽斎は美成と甚だ親しかったのではあるまい。しかし二家(にか)書庫の蔵する所は、互(たがい)に出(い)だし借すことを吝(おし)まなかったらしい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なかなか浮み上る程には参らぬが、デモ感心には多(おおく)も無い資本を吝(おし)まずして一子文三に学問を仕込む。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
狐に憑(つ)かれておわすなぞと罵(ののし)ることもある程だが、平日は穏便なることが好きな、物分りの宜い人であるから、氏郷贔負では有るが政宗にも同情を吝(おし)む人では無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
切に冀(こいねがわ)くは世の閎覧(こうらん)博物の君子、指教を吝(おし)まず我儕の足らざるを補ひ、以て世に益するあらば幸甚。
少し絶頂を下った普賢の祠(ほこら)の大岩壁にも、この石楠花は一面に咲いていて、これも霧のまがいに隠見する風情は、下界のものにのぞかれるのを吝(おし)むかのように見えた。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
わが怯(おそれ)は已みて、我聲は朗になりぬ。一座は喝采を吝(おし)まず、かの猶太おうなさへやさしげに頷きぬ。
「さまよえる猶太人」に関して、自分の疑問に対する答を、東西の古文書(こもんじょ)の中に発見した人があれば、自分は切(せつ)に、その人が自分のために高教を吝(おし)まない事を希望する。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分がかの特別号を発表する前に、もしこれを精読するの労を吝(おし)まなかったならば、今少し疵の少い研究ができたのであったろうにと、残り惜しく思わずにはいられない。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
同じく喜捨のお鳥目を吝(おし)まず、搗(かて)て加えては真宗の人も、浄土の人も、真言、天台、禅、曹洞、諸宗の信徒悉く合掌礼拝、一応の崇敬をば忽(ゆるが)せにせず、帰りには名物の煎餅
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
これをたとうれば、立派なストーブを据え付けながら、炭を吝(おし)んで行火火(あんかび)ほどのものを入れ、おおぜいの人がこれを囲んで、冬の日寒さに震えつつあるがごときものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
会員が案外よく会の本質を理解して積極的な活動を吝(おし)まないことと、絶えず熱心な入会者のあることとは、前途になお幾多いよいよ大なる困難の横たうものあるを予想しながらも
三田社会科学研究会報告 (新字新仮名) / 野呂栄太郎(著)
若しその附け届けを吝(おし)めば受持ち客の通し物をしても仲々拵えないで困らせる始末、併し心附けで済む間はまだ我慢のしようもあるが遂に彼等は最後のものまで要求するのである。
女給 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
味方のためには眼も耳も吝(おし)んで、問わず、聞かず、敵のためには粉骨砕身をして、夜の目も合わさない、呼吸(いき)もつかないで働いた、それが事実であるか! いや、感心だ、恐れ入った。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
書籍ハ植物記載〔所載ノ意ナリ〕ノ書ニシテ仮令(たと)ヒ鶏肋ノ観ヲ為スモノト雖ドモ悉ク之ヲ渉猟閲読スルヲ要ス故ニ植学ヲ以テ鳴ラント欲スルモノハ財ヲ吝(おし)ム者ノ能ク為ス所ニアラザルナリ
肉食に慣れて腥臭を意とせぬわれわれは、平生はさほどに感じないけれども、時に純粋なる精進料理——未だかつて腥物を知らぬ鍋で煮た精進料理を味ったら、やはり讃歎の声を吝(おし)まぬかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
今でも吝(おし)みながら使い耗(へ)らしているかも知れぬ。6585
英国ではこの尊者の忌日、七月二十五日に牡蠣(かき)を食えば年中金乏しからずとて、価を吝(おし)まずこの日売り初めの牡蠣を食い、牡蠣料理店大いに忙し。
「一番仕舞いへ来て何(ど)うだい? 親猿は子猿の死骸に縋(すが)りつき、よゝとばかり声を吝(おし)まず泣きたる様、畜類ながら子を思う親の心に変りなしとて云々(うんぬん)」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
憚(はばか)りながら私は、日本の古九谷芸術を、より以上芸術的生命あるものとして、推賞を吝(おし)まない一人である。
古器観道楽 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
鬢(びん)すこし白んで、悦ばしそうに貞之進を諦視(なが)め、一旦思込んだ修行の遣(や)り遂げるまでは、決して費用を吝(おし)む所存はなく、そうかと云ってお前を危ぶむではないが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
なんの必要ありてかそのもっとも大切なる権理をば吝(おし)む気もなく人民に譲与したるか。唯一の必要あるのみ。すなわち兵備を維持する一の必要あるがゆえなりしことを。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
東京に往くは好(よ)い。学業成就して弘前に帰るなら、我らはこれを任用することを吝(おし)まぬであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
味方のためには眼も耳も吝(おし)むで、問はず、聞かず、敵のためには粉骨碎身(ふんこつさいしん)をして、夜の目も合はさない、呼吸(いき)もつかないで働いた、それが事実であるか! いや、感心だ、恐れ入つた。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼はお藤の方を振り返って、その感謝に答うべき微笑を送る事を吝(おし)まなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
アヌンチヤタが痍負(てお)ひたるベルナルドオに吝(おし)まざりし接吻は、今憶(おも)ふも猶胸焦がる。サツフオオの美はアヌンチヤタに似て、その戀情の苦は我に似たり。波濤はこの可憐なる佳人を覆ひ了(をは)んぬ。
和尚は人に求められれば是非ないからわが有(も)っている者を吝(おし)みはしないが、人からは何をも求めまいというような態度で、別に雑話(ぞうわ)を聞きたくも聞かせたくも思っておらぬ風(ふう)で、食事が済んで後
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでなくとも、鼻翼(こばな)や目窪や瞳の光りなどにも、何となく、目前の不吉を予知しているような兆が現れているので、最早寸秒さえも吝(おし)まなくてはならぬ時期に達しているのではないかと思われた。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
おおように、吝(おし)まずに不思議を見せるのである。
書籍ヲ購(あがな)フ財ヲ要スルナリ器械ヲ求ムル財ヲ要スルナリ苟(いやしく)モ此学ノ考証ニ備ヘ此学ヲシテ益(ますます)明ナラシムル所以ノモノハ皆一トシテ財ヲ要セザルナシ財ヲ投ゼザレバ書籍器械等一切求ムル所ナシ故ニ曰ク財ヲ吝(おし)ム者ハ植学者タルヲ得ズト
欧州また日本でも財を吝(おし)む者死して蛇となり、その番をすると信ずると等しく、鼠もまた財宝を埋めた穴に棲(す)む事あるより、時に伏蔵を守ると信ぜられたのだ。
と鳥居氏は兄貴に故なくして二百円差出すものが妻の羽織に五十円吝(おし)んでいる矛盾を認めた。
或良人の惨敗 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いやそれにしても唯一言を吝(おし)まれることはあるまい、ただしは夜目で見えなかったか、見忘れる気遣いはないのだけれども、生憎車へ乗ろうとして後向になって居た時だから
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
時間を吝(おし)まずに案内をして歩いて、ベルリンへ行ってから著(き)る服まで誂(あつら)えさせてくれた。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私をしていわしむれば、一旦筆を持てば、この程度に書ける者である氏がなにを苦しんで、巨礼を吝(おし)まず、ひそかに自己の代書を敢えてせしむるかを不思議とせざるを得ないのである。
高橋箒庵氏の書道観 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
自分の血を吝(おし)まないように、9845
それで吝(おし)むところなく一々相槌を打っていたから、連れ立って三越へ向うまでには二時間近くもかかった。但しこれ丈け話し込んだのに、昨日の主人公の俸給の件は一向出て来なかった。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
緊羯羅(こんがら)童子を使うて、世間の新聞一切報告せしむる方を載せ、この童子用なき日は、一百金銭を持ち来り、持呪者に与う、しかしその銭は仏法僧のために用(つか)い却(はた)し、決して吝(おし)んじゃいけないとは
「……論(どん)より証拠使用人が大将の為めに労(どう)を吝(おし)みません。第一人格が立派(いっぱ)です」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
貴君今十万円を吝(おし)めば前途なし。十万円を捨つれば有らゆる可能性あり……
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「負け吝(おし)みは駄目よ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)