剛毅ごうき)” の例文
折竹が、それに気付いたときの失意のさまといったら、剛毅ごうきな彼とはとうてい思えなかったほどだ。木戸は飛行中「天母生上の雲湖ハーモ・サムバ・チョウ
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一代身上を築いた嘉兵衛は意志の権化のような剛毅ごうきな男ですが、今晩はすっかりに返って、ともすれば湧く涙を拭うばかりです。
神経が太い、あらいと、彼の剛毅ごうきな表面を全部にている者も多いが、実は、家臣にたいしてすら、細かい気をつかう勝頼であった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
永楽の時、史に曲筆多し、今いずくにかそのじつを知るを得ん。永楽簒奪さんだつして功を成す、しか聡明そうめい剛毅ごうきまつりごとす甚だ精、補佐ほさまた賢良多し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ドンな場合でも決して屈することのないプロレタリアの剛毅ごうきさからくるほがらかさが、その言葉のうちに含まさっているわけだ。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「二老人は、ドイツの科学者だ。ドイツ人の沈着、剛毅ごうきな精神力が、この心理的な残虐に堪え得るだろうとおもう」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
単に男というときは、ただちに男らしいとかあるいは剛毅ごうきとか、あるいは大胆不敵だいたんふてき、あるいは果断かだん勇猛ゆうもう、あるいは任侠にんきょうというような一種の印象いんしょう惹起じゃっきす。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ここに驚くべきは我日本国民の資質剛毅ごうきにして頑ならず、常にその固有の気力を保つと同時に、慧眼けいがんく利害の在る所を察して、王政の一新と共に民心もまた一新し
しかもこの流麗な線は、剛毅ごうきで重厚な仏体によってひきしめられ、いささかも繊弱な感じを与えない。円満という言葉はこのみ仏のためにあるようにさえ思われる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼が剛毅ごうきなる、彼が政治上の責任を重んずる、彼が政治上の胆略たんりゃくに富む、吾人ごじんこれを識認す、ただ経世的大眼光に至っては、未だこれを識認するの事実を発見するあたわず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
法師丸は生来負けず嫌いの剛毅ごうきな少年であったから、此の耻ずべき快感が強ければ強いほど、それだけ激しい自己嫌悪けんおを感じ、出来るだけ興奮を抑制しようと努めたに違いない。
読みて、何某は剛毅ごうきなり薄志弱行の徒は慚死すべしなどいふ所に到れば何となく我をそしりたるやうにおもはれて、さまざまに言訳いいわけめきたる事を思ふなり、かくまでに零落したる乎。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
慈円も天台座主てんだいざすに上ったが、兼実は剛毅ごうきで、後白河院の丹後局たんごのつぼねという女傑の反感を招いたため、ことごとに意見が封じられ、関白を止めたときは慈円も天台座主を退くという形になった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
友の無情をえんじ、またそのあわれみを乞うのである。今までは友の攻撃をことごとく撃退したる剛毅ごうきのヨブもついに彼らの同情、憐愍れんびん、推察を乞うに至る。その心情まことに同情に値するではないか。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
一個の知力をそなえ確かに剛毅ごうきな人物でありまたおそらく偉大な人物だったかも知れないこの不幸な男は、社会の痛ましい制度の常として、物質上の欠乏のためにまた精神上の暗黒のために
あの美貌と剛毅ごうきの調和した姿の中に、とうとう、誰にも云わずに秘めて行ったこの謎も、やはり十郎左らしいと伝右衛門は思った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、一方優しく華奢きゃしゃなクララは、見かけによらず剛毅ごうきであった。「どんなことがあっても、ロバートを見捨てはしない」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
極端に失すればいずれもしくなるが、に過ぎぬ以上は、すべからく剛毅ごうきでなければならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さしも剛毅ごうきな海兵どもをふるえ上がらせたというその不思議な出来事は、いま耳にした艇長屍体の消失と、生死こそ異なれ、まったく軌道を一つにしているではありませんか。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼の剛毅ごうきな気性は、ひたすらそこに悩んだ。また、甲州発向こうしゅうはっこうの際、しきりと軽挙けいきょいさめた馬場や山県やまがたの両将にたいしても、意地がはたらいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ワグナーの少時は、モーツァルトのような燦然さんぜんたる音楽的天才の発揚はつようはなかった。が、奔放にして剛毅ごうきなる異色を持った少年であったことは疑いもない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
むろん偽善の一方法ともなり得るが、しかし恐らくは世の中のことで偽善になり得ないものはあるまい。柔和を偽善とうるならば、それと同じく剛毅ごうきもまた偽善に供することが出来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
他家の質子ちしとはなっても、父孝高よしたか剛毅ごうきと、戦国の骨太ほねぶとな育成に生い立って、すこしもいじけた子となってはいなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この呉妹ごまいは、生れつき剛毅ごうきで、武芸をこのみ、脂粉霓裳しふんげいしょうの粧いも凛々りんりんとして、剣のかんざしをむすび、腰にはつねに小弓を
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝頼は、側近数十騎と共に、小松ヶ瀬をわたって、ようやく、武節ぶせつの城へ逃げこんだ。——剛毅ごうき無双な彼も、終始、おしのような無口になっていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喧嘩を気にかけていては、一兵卒でも、今の鎌倉には、一日も住んでいられないほど、剛毅ごうきと剛健のよりあいなのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博学も、剛毅ごうきも、雄弁も、ひとを群小輩とるくせも、その自負から生じている。まして、恋には、なおさらである。
けれど、ひとたび、そういう不純な疑いが、味方のうちに、ささやかれ出した以上、かれの布陣も、三河武士の剛毅ごうきも、もう健康な一体とはいえなくなる。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ずいぶん剛毅ごうきで通った忠右どのだが、年も年だし。市十郎のことも、憂いにかさみ、さすが、こたえたものとみえる。……お縫も共に、病まねばよいが」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祖父大納言頼宣よりのぶに似て、剛毅ごうきで果断、しかし丹生にゅう三万石の貧乏家来をひきいて、生涯を終るかにおもわれた彼。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倉橋伝助、奥田孫太夫、磯貝十郎左、赤埴源蔵、高田郡兵衛、田中貞四郎と——順々にあらわれて来る顔は、浪々の後も、決して剛毅ごうきおとろえさせてはいない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その剛毅ごうきにかけては依然変化ないように、自然にそなわって来るはずの思慮とか教養とかいう人間的な一面のほうも、いッかな育ちもしなければ光沢も加えて来ない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ですから、あんなあどけない容子ようすもありながら、折にふれては、男も及ばない剛毅ごうきなところがあったりして、私なども、ままびッくりさせられることがあるのでございます
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもてを上げい」泥土によごれた革足袋かわたびが、曲者の肩を蹴った。曲者は横に倒れたが、すぐに坐り直して、剛毅ごうきな態度をとった。しかし俯向うつむいたきりで、顔を見せないのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い近習におしえるこころばかりでなく、逍遥軒は、勝頼のおどろきをなだめるためにもいわざるを得なかった。なぜならば日頃の剛毅ごうきにも似合わず勝頼がひどく顔色を変えたからである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆらい持明院統の後深草は温和だが、亀山は剛毅ごうきでとかく荒々しい。かねがねの御遺恨から、伏見天皇をうしない奉ろうとした御使嗾ごしそうにちがいない。——ありそうなことと、世間もいった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常陸はずんと風もあらい、地もあらい、人も荒削あらけずりじゃが、剛毅ごうきというやつが骨太ほねぶとに坐っておる。こう二つのものの中庸ちゅうようを行って、よく飽和ほうわしているのが大石大夫の人がらじゃと、わしは思うが
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、それのみを剛毅ごうきに持って、知性にとぼしく、武骨と精悍せいかんばかりで、まるで土から生え出たようなのが多い土豪の間には、彼女の心をひくような殿輩は、そういう点でも、見あたらなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊勢の山田奉行であった時から、すでに二、三の事件で、御三家たる紀州家を相手どって、地方民のため、がんとして、法を曲げなかった剛毅ごうきなる彼を——まざと、今、目の前に見たからである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小牧対陣中、また丹羽長秀の調停運動の前後など、何が起っても、すぐ味方の衆目が、味方の数正のうごきをさぐった。——武人の剛毅ごうきとよくいうが、武人の猜疑さいぎと小心もまたうるさいものだ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剛毅ごうきで天才的な少年武蔵は、常に父の無二斎をもないがしろにする風があった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)