凹凸おうとつ)” の例文
わずかな高低凹凸おうとつの複雑に分布した地面の水準測量をするのに、わざと夜間を選び、助手に点火した線香を持って所定の方向に歩かせ
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
次に出来る場合というのは、土の表面に小凹凸おうとつがあって、その中のとがった点から凍り初めた場合であるということを確めている。
「霜柱の研究」について (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
肉体の凹凸おうとつに応じて、紫色の隈を置いた、それ故に一層陰影の多く見える裸体が、背景の真赤な花の屏風びょうぶの前に、次々と浮出して来るのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこにはヴァテカン美術館のそれにも劣らない一面の壁彫刻が微細に凹凸おうとつしていた。垂れ絹ドレイパリイはすべて五月の朝のSAVOY平野の草の色だった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
しかし、年をとるにつれて、樹皮がこぶだらけになり、凹凸おうとつができる一方、たくさんの短い枝が幹にあらわれるのである。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
そして十二日も雪に明け、十三日も雪に暮れ、十四日の大江戸は、ほとんど雪の底に丸い凹凸おうとつを示しているだけで、世間は終日ひねもす、ほとんど人声もしない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その実体鏡でみると、この狭い家の中の遠近がハッキり見え、そして多勢の身体も実体的に凹凸おうとつがついていて、本当の人間がチャンとそこに見えるのであった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてついに、こんどこそはと思われる逸品いっぴんができあがりつつあった。春吉君は、細心の注意をはらって、竹べらをぬらしては、茶わんのはらの凹凸おうとつをならしていった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
手燭を持ち添えた大きな顔が二つ、凹凸おうとつをくっきりとくま取らせて、赤鬼のようにのぞいている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「クレッヴァス」の凹凸おうとつが、かなりの遠くから肉眼でもハッキリと見えるし、大氷河でなくては、滅多に見られないところの、側堆石までを具備しているのでも伺われる
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ある人々はこのような静かな砂底の池においてさえ深くて危険な穴があるようなことをよくいうものだが、こういう状態の水の作用はすべての凹凸おうとつを平坦化するものである。
此時このときたちまわたくしとまつたのはこの不思議ふしぎなる洞中造船所どうちゆうざうせんじよ中央ちうわうくらゐして、凹凸おうとついわかたち自然しぜん船臺せんだいをなしたるところ其處そこいま工事中こうじちゆうの、一種いつしゆ異樣ゐやう船體せんたいみとめられたのである。
スピッツバーゲンの北西隅にあるアムステルダム島は、わが右舷のかたに当たって見える——島は火山岩の凹凸おうとつ線をなし、氷河を現出している白い地層線と交叉こうさしているのである。
何の凹凸おうとつもない、真っ直ぐな背筋と腰と臀の線、そう云う胴の全体が顔や手足に比べると不釣合に痩せ細っていて、厚みがなく、肉体と云うよりもずんどうの棒のような感じがするが
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いま動物どうぶつはそのおほきいしつ天井てんじよういてあつたが、いし凹凸おうとつたくみに利用りようして突出部とつしゆつぶ動物どうぶつ腹部ふくぶとし、くろ褐色かつしよく彩色さいしきをもつていてあつて、それがあり/\とのこつてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
凹凸おうとつし、錯雑し、のこぎり形をし、入り組み、広い裂け目を銃眼とし、それぞれ稜角堡りょうかくほうをなす多くの築堤でささえられ、そこここに突起を出し、背後には人家の大きな二つの突出部が控えていて
どの石の在処ありかも彼にとっては何かの意味となった。彼はその在処を皆知っていた。わだちの跡の凹凸おうとつも、彼にとっては地理的の大変化であって、タウヌス連山などとほとんど匹敵するものだった。
地上の凹凸おうとつが雪の表面にうかがわれた。なお照りつける陽光に、ついに敗れて、じゅン、と、悲鳴をあげた。白い雪の結晶が突然水に変った。それは、その下にある雪にぷすッと浸みこんだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
庭の無花果いちじくの木かげに一枚の花莚はなむしろを敷いて、その上でそれ等の赤まんまの花なんぞでままごとをしながら、肢体したいに殆どじかに感じていた土の凹凸おうとつや、何んともいえない土のやわらか味のある一種の弾性や
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
東西一里南北二里余、一望些少の凹凸おうとつなく、低湿ていしうにして一面湿草しうさうを生じ、所々に凹所ありて水をたたゆ、草あるところは草根によりて以てあし支持しじすれども、草なき所は湿泥しうでいあしぼつす、其危険きけん云ふべからず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
なかんずく月の表面の凹凸おうとつの模様を示すものや太陽の黒点や紅炎やコロナを描いたものなどはまるでうそだらけなものであった。
断水の日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この力は大変強いので、北満ほくまんでは煉瓦れんが造りの家屋がそのために崩壊したり、それよりも困るのは、鉄道線路に凹凸おうとつが出来て汽車が走れなくなる。
小舟は凹凸おうとつの烈しい断崖に沿って、隠れたかと思うと、又切岸の彼方かなたに現われて、段々魔の淵へ近づいて行った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
凹凸おうとつのはげしい石畳・古風な構えの家々・地下室から鋏の聞える床屋・作り物のバナナを
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
熊笹くまざさにせばめられた道、凹凸おうとつのはげしい坂、いきをあえぎあえぎ、そのいわもとまでいそいできた四人は、そこへくると同時に、岩の上をふりあおぎ、声もひとつによびかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その潜水艦は、艦体が、壊れかかったセルロイドの玩具のように、凹凸おうとつになっていた。潜望鏡のくだも、マストも、折れ曲ったまま、ぶらぶらしていた。しかし艦体は、ピカピカに光っていた。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
デパートアルプスの頂上から見おろした銀座ぎんざ界隅かいわいの光景は、飛行機から見たニューヨーク、マンハッタンへんのようにはなはだしい凹凸おうとつがある。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もっとも地球が完全な球形であるというのは本当は間違いで、第一に地球の表面にはヒマラヤの山もあれば、日本海溝もあるので、詳しく言えば、凹凸おうとつのあることは勿論もちろんである。
地球の円い話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
白絹は凹凸おうとつを作って、細い皺まで一つ一つ現わしてあったし、娘の髪は、本当の毛髪を一本一本植えつけて、人間の髪を結う様に結ってあり、老人の頭は、これも多分本物の白髪を
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
油で濡れているように、顔の凹凸おうとつが青く光る。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煙の柱の外側の膚はコーリフラワー形に細かい凹凸おうとつを刻まれていて内部の擾乱渦動じょうらんかどうの劇烈なことを示している。
小爆発二件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
写真では黒白の線しか分らないのであるが、眼で見た時は、こまかい小凹凸おうとつがあるために、繊細なあの模様の縁に空の光が反射して、水晶細工のような微妙な色が見えるのであった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
反射させると明きらかに凹凸おうとつが現われるという、このえたいの知れぬ事実が、たとえば顕微鏡で何かをのぞいた時に味わう、微細なるものの無気味さ、あれに似た感じで、私をゾッとさせるのでした。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
蝋管に刻まれた微細な凹凸おうとつを巧妙な仕掛けで郭大した曲線を調和分析にかけて組成因子の間の関係を調べたりして声音学上の知識に貢献した事も少なくない。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それに因る沈積の結果から生ずる凹凸おうとつが、ちょうどその渦流に好都合なような器械的条件に相応すれば、この凹凸は自然に規則正しく発育成長するのが当然である。
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
うちの洗面台はきわめて粗末な普通のいわゆる流しになっていて、木製の箱の上に亜鉛板を張ったものであるが、それが凹凸おうとつがあって下の板としっくり密着していないために
日常身辺の物理的諸問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一方はただ不規則な乾燥したそして簡単な繊維の集合か、あるいは不規則な凹凸おうとつのある無晶体のかたまりであるのに、他方は複雑に、しかも規則正しい細胞の有機的な団体である。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
のこぎり歯というよりは乱杭歯らんぐいばのような凹凸おうとつが見える。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)