其許そこもと)” の例文
「さて其許そこもとも二十二歳、若盛りの大切の時期、文武両道を励まねばならぬ。時々参られるのはよろしいが、あまり繁々しばしば来ませぬよう」
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
光春、其許そこもとは、すぐ鷺山へ馳せつけて、死をもって、父光安殿にすがり、光安殿とふたりして御主君道三様の思い立ちを、御諫止ごかんし申せ
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど其許そこもとの歯が生えようとしつつある時、余の歯は一本ぐらつきはじめた。そして、昨朝、ついに思い切って抜け落ちた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「当方にとってこそ、絶大なる価値を有する壺、だが、其許そこもとには、なんの用もないはず。おだやかにお渡しくだすって、千万かたじけない」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「とは言え、今の其許そこもとでは、いかに心がはやっても竜之助の向うに立つことはおぼつかない、ようござるか、修行が肝腎かんじんじゃ」
これが人間の貴い命を預る医者の精神であろうか。恥入った、赤面背汗のいたり、辛うて身悶えするばかりじゃ。其許そこもとらに言うているのではない。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其許そこもと卒業の上は分家致すこと兼々両親の宿念しゅくねんに候間、早速取計らい申上度、ついてはその中一度御帰郷可然しかるべく、実は両親も心待ち致居る様子に御座候。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
其許そこもとは、平治の乱で、殺されるばかりのところを、重盛が命乞いして助かったお人、それを、どんな恨があってのことか、当家滅亡の陰謀に荷担せられ
いやさ、名を聞くなら其許そこもとからと云う処だが、何も面倒だ。俺は小室こむろと云う、むむ小室と云う、このあたりの家主なり、差配なりだ。それがどうしたと言いたい。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其許そこもとに契り候こと実証なり。可愛き可愛き其許を思えば、一日既に千秋。千里なお一里。粉骨砕身也。男子出生のみぎりにあるなれば、余が末孫に紛れなく候。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
文「さア大伴氏、其許そこもとは舅の敵の其の上に、よくも此の文治が面部にきずを負わし、痰唾たんつばまで吐き掛けたな、今日こそ晴れて一騎討の勝負、く/\打って来い」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ついては其許そこもとにも急ぎ御供なされよとの上意を、主人徳善院承り、代理としてそれがしが参りました、日頃其許とは御懇志にあずかっておりますので、何事に依らず思し召しおかるゝ事がござりましたら
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
江戸へ下るいとま乞いに藤十郎どのの所へ来て、わがみも其許そこもとを万事手本にしたゆえに、芸道もずんと上達しましたといわれると、藤十郎どのはいつものように、ちょっと顔をしかめられたかと思うと
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あなたは、この謙信が、九年にわたる信玄との血戦を、ただ其許そこもとに頼まれたための義心一片と思いこんでいられたか。……何で。何で
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「百薬の長も度を過ごしてはわざわいもとじゃて——町人、これは其許そこもとの持物じゃろう。しかとあらためて納められい。」
それから例の家来なる者に振返って、「これはやはり其許そこもとがいかぬとだめだな、宙野、いってくれるか」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
文「いつに変らぬお情、切腹を御免になり、又流罪を御赦免下さいましたのも、皆其許そこもとのお執成とりなしと右京殿の御仁心ごじんしんによる事、文治は神仏よりとうとく思うて居ります」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
定石じょうせきを心得ておいでなさるところが感心、とかく初心のうちは、そう打っておいでになるがよろしい、其許そこもとはなかなか筋がようござるな、見込みのあるお手筋てすじじゃ
……其許そこもとの気に入りしものなれば当方に異存も無之次第これなきしだいながら、余り颯急さっきゅうのことにていささか不安を感じ申候。先方の氏素性うじすじょうは無論充分御調査のことと存候が、如何いかがに候哉。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ジャアク先生が席に着けといえば、それが不平、ルグリ先生がったままでいさせれば、それがまた不平か。たぶん其許そこもとは、まだ一人前の扱いを受けるには、年が若すぎるのだよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
第一親の身として其許そこもとに対しても御びの申様も無之これなく、深く耻入はじいり申候。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其許そこもとも、さような思召立おぼしめしだては、必ず御無用になされた方がよろしかろう
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
旱は何も、姫様ひいさま御存じの事ではない。第一、其許そこもとなども知る通りよ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうか、ご遠慮なくおっしゃって戴きたい。こんどの難事件で、其許そこもとのご出馬を願ったからには、いわば、相身互あいみたがいと申すもの……」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……昨夜の佳麗はあの料亭のむすめだというが、其許そこもとはよほど親しくしているのか」
彩虹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
矢沢 久保氏、其許そこもとの挙動は、合点がいきませぬ。何かはばかりのあることですか。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其許そこもとが他日代議士にでもなればわかることだ。その手の人物はいくらでもいるよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
文「これ島人、最前から怪しい者ではない、助けてくれと申した言葉は其許そこもとの耳に通じないか、我は難船した者でござる、頼りなき漂流人でござるぞ、お聞入れなすったか、宜しいか」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なかなか。して、其許そこもと何人なんびとにおわすのじゃ」
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其許そこもとは誰でござる」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それにればたとい先方にて懇望致され候とも其方様の思召おぼしめし如何いかがにやと存ぜられ候節も有之これあり格別惜しき縁談にては御座なく候ただ其許そこもと様始め皆々様に御足労相かけ候段何ともお気の毒様にて申訳も無之候末筆ながらくれぐれも雪子様へよろしく御伝言被下くだされたくお願い申上げ候
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しからぬ男だ、帰ったら糾明きゅうめいせねばならぬ。——其許そこもとを怨むどころか、此方このほうこそ、門下どもの統御の不行届き何とも面目ない」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
森越中殿もりえっちゅうどの其許そこもとは御裕福でござろう、塩という財源をひかえておらるるからナ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「行って帰るまで多くかかっても二十日、帰ったら其許そこもとと改めて祝言だ」
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
... 此の花はたちま散果ちりはて可申もうすべくじく其許そこもとさまへつぼみのまゝ差送さしおくり候」はて…分らん…「差送候間御安意ごあんい為め申上候、好文木こうぶんぼくは遠からず枯れ秋の芽出しに相成候事、ことに安心つかまつり候、余は拝面之上匇々そう/″\已上いじょう、別して申上候は」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし黄忠は耳にもかけず、其許そこもとたちは見物してござれ、と一言云い捨てて行ってしまった。張南、馮習はあきれ顔に見送っていたが
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一人の絵師に頼んだのは念のためで、正式の揮毫者きごうしゃはやはり其許そこもとだからね、このことを角屋に話さないのは、角屋が其許に遠慮して、なにか奔走しはしないかと思われるからだ、其許の絵を
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それよりは、其許そこもとのいのち一つも、謙信がいのち一つも、息あるうち、いかに大きく捧げ奉らんかを、朝暮に都の方へ向って念ぜられよ
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其許そこもとの組下たちで、水練を師範者なしにやって来たのかとくんだ」
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其許そこもとたちの尋ねる者は、志して行く土地にはおらぬ。まして行く手にあたって怖ろしい殺気がある。西へ避けろ、上州路へ廻れ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「紙入を届けてまいったのは其許そこもとか」
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いやいや、その折は、拙者こそ大きに失礼いたした。時にこれにおるは、其許そこもともご存知であろう、噂のたかい、上方の羅門塔十郎殿で」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「実は、曹丞相から密書をもって玄徳を殺すべしというご秘命だが、やり損じたら一大事である。なにか其許そこもとに必殺の名案はあるまいか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「小林弥左衛門は自分だが、佐々どのの茶坊主とかいう其許そこもとが、何用あって、こんな所へ、自分たちを追い慕って来られたのか」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其許そこもとらが生きているうちに成功しなんだら、可惜あったらほり埋草うめくさじゃ。仮に間に合っても、ずるいのは、お先棒には飛び出さんものだ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「時に。きょうは、折入って、其許そこもとのお胸を叩いてみたいことがあるが……。何と、藤孝の申す秘事に、お耳をかし賜わろうか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ほかでもないが、藩邸の中で、近頃しきりにうわさにのぼるらしいが——何か、うわさの火元は、其許そこもと自身の口からだと人は申すが』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが其許そこもとのような人間を、そう齷齪あくせくと、功利に疲らせて、御自身勿体ないと思わぬかな。——山中人の人生にも、なかなか深い意義もある。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これにおる同僚が、先夜、上野の寛永寺の森で、たしかに、其許そこもとがお燕を駕籠へのせて逃がしたのを見とどけておるし……。またそのお燕を
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万が一にも、其許そこもと様よりお構いあるに於ては、やむを得ぬ儀、いささかの備えもござれば、お相手も仕り、そちら様へ乱入にも及びまするぞ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)