光沢こうたく)” の例文
旧字:光澤
その褐色かっしょくに黒い斑紋はんもんのある胴中は、太いところで深い山中さんちゅうの松の木ほどもあり、こまかいうろこは、粘液ねんえきで気味のわるい光沢こうたくを放っていた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
然し、和尚の顔色も、病者の悪化にきそい立って、日に日に光沢こうたくを失い、そのたくましげな全身に、なんとなく衰えの気が漂った。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
律動リズム和声ハーモニーとの珍しい発見物、光沢こうたくのある柔らかい精緻せいちな織物の配列、色彩の絢爛けんらん、発明力と機智との不断の傾注、などを認めざるを得なかった。
やまには、まだところどころにゆきのこっていました。しかし五がつなかばでしたから、木々きぎのこずえは、生気せいきがみなぎって光沢こうたくび、あかるいかんじがしました。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
つくるために鉛にいたしました。これで、光沢こうたくといい、重さといい、ほんものと少しもちがいはいたしません。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
到底とうてい自分のような光沢こうたくにおいもない力だけの人間が、崖の上の連中に入ったら不調和な惨敗ざんぱいときまっている。わけて真佐子のような天女型の女性とは等匹とうひつできまい。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さのみしげくもないかばのほそぼそとしたみきは思いがけずも白絹めく、やさしい光沢こうたくび、地上に散りいた、細かな落ち葉はにわかに日に映じてまばゆきまでに金色を放ち
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
保吉は人のこみ合ったプラットフォオムを歩きながら、光沢こうたくの美しいシルク・ハットをありありと目の前に髣髴ほうふつした。シルク・ハットは円筒えんとうの胴に土蔵の窓明りをほのめかせている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
学名を Iris laevigata Fisch. と称するが、その種名の laevigata は光沢こうたくあって平滑へいかつな意で、それはその葉にもとづいて名づけたものであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
色彩あり光沢こうたくある虫は毒なりと、姉上の教へたるをふと思ひでたれば、打置うちおきてすごすごと引返ひつかえせしが、足許あしもとにさきの石のふたツにくだけて落ちたるよりにわかに心動き、拾ひあげて取つて返し
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはすべて、にぶい金属光沢こうたくを持った複雑な器械類であった。ほんのしばらくのうちに、円陣の中にはりっぱな実験装置が出来上がった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あかみがかった、光沢こうたくのあるがついていたのであろうけれど、ほとんどちてしまい、また、うつくしい、ぬれたさんごじゅのようなのかたまったふさが、ついていたのだろうけれど
おじいさんが捨てたら (新字新仮名) / 小川未明(著)
さては和尚も苔むしたかと思われるほど、その逞しく巨大な姿は谷底に崛起くっきする岩石めき、まるまると盛りあがる額も頬も、垢にすすけて、黒々と岩肌の光沢こうたくを放つばかりであった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
果実は小粒こつぶ状のかた分果ぶんかで、灰色をていして光沢こうたくがあり、けばえるから、このムラサキを栽培することは、あえて難事なんじではない。ゆえに往時おうじは、これを畑に作ったことがあった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
くもりガラスのような光沢こうたくのない眼球……死骸だ。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あまりに着物を引張るので、その垢じみた単衣はべりべり裂け始め、その下から爬虫類はちゅうるいのようにねっとりした光沢こうたくのある真白なはだきだしになってきた。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しろいし破片はへんに、いろとまじって、ひときわしろ光沢こうたくはなち、しおなどの結晶けっしょうのようにえるのです。方解石ほうかいせきだけは、っても、っても、四角形かくけいれる特徴とくちょうゆうしていました。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、四本が、棚に並んでいたガラスびんの一つをとりあげて、みんなに見せた。中には、黄いろ味をおびた、やや光沢こうたくのある結晶している石がはいっていた。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぼくの身体はもうほこりにまみれて、かつて倉庫番からめちぎられたときのような金色きんいろ光沢こうたくは、もう見ようとしたって見られなかった。全身ぜんしんつやをうしない、変に黄色くなっていた。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
望遠レンズのような感じのする奥深い、そして光沢こうたくをもった目玉だった。その下に、象の鼻を小さくしたようなものがれさがっている。それが、このお面をおどけたものにしていた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
可愛かわいい桜桃さくらんぼのように弾力のある下唇をもっていて、すこし近視らしいがつぶらな眼には湿ったように光沢こうたくのある長い睫毛まつげが、美しい双曲線をなして、並んでいた——というと、なんだか
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして中から出てきたものは、銀色のうつくしい金属光沢こうたくをもった箱であった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
沢のまん中に、直径ちょっけい三メートルもあると思われる金属球が、でんと腰をすえていた。表面はぴかぴかに光沢こうたくを放っている。十字にバンドがしてある。アイ・ボルトが何本かうちこんである。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)