先登せんとう)” の例文
よる大分だいぶんけてゐた。「遼陽城頭れうやうじやうとうけて‥‥」と、さつきまで先登せんとうの一大隊だいたいはうきこえてゐた軍歌ぐんかこゑももう途絶とだえてしまつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
多分大勢の人々と一緒であるから心強く思ったことであろう。先登せんとうに立ってつかつかと広間のドアーを開けて薄暗い部屋の中へ進んだ。
怪談綺談 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
青谷技師を先登せんとうに、署長以下がこれに続いて、室外に飛び出した。階段をいくつか昇って、とうとう特別研究室に駆けつけた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一等室に這入って見れば、二人が先登せんとうであった。そこへ純一が待合室で見た洋服の男が、赤帽に革包かばんを持たせて走って来た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
先登せんとうはヘッスラーで、次が私、フォイツは後殿しんがりである、ガイドの持ったランターンが、踏み固めた雪路に赤く滲んで、東へ東へと揺れて行く。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
先登せんとうは男で、後のは女である。男は軍服を着た黒岩万五だ。そして、女は、横顔ではつきりはしないが、たしかに、小峯セツ子に違ひなかつた。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
あたかも「アキレスと亀」の詭弁が詭弁ならざる真理として永遠に「シツツアル力」の亀を先登せんとうに立てゝ進みつゝある。
意識と時間との関係 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
武蔵を先登せんとうに女ふたり長刀なぎなたを持ち、百右衛門の屋敷に駈け込み、奥の座敷でおめかけを相手に酒を飲んでいる百右衛門の痩せた右腕を武蔵まず切り落し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
南軍のほうでは、堀尾、中川、高山、池田の各手の将士が、先を争って天王山の先登せんとうを競っていたが、堀秀政だけは
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、その影がだんだんと小さくなって、森に近づいたと思うと、先登せんとうに二人の将校、そのあとから十一名の下士卒が皆無事に森の中へ逃げ込みました。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
強い大きなを前に、順々に帯に手をかけてつながり、鬼がその後の児をろうとするのを、動きまわって先登せんとうが防ぐので、これは動作があまり激しいので
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
天地をゆるがす喊声かんせいとともに胡兵こへいは山下に殺到した。胡兵の先登せんとうが二十歩の距離に迫ったとき、それまで鳴りをしずめていた漢の陣営からはじめて鼓声こせいが響く。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
先登せんとう第一は小浜照子、在原夫人その後より、追次取次来る客は皆慈善会にて見たりし顔なり。けだし今宵の集会は、前日の慰労と兼て将来の方向を談ぜんため。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殿との、早々、御城おしろへお退しりぞきなされませ。拙者せっしゃ朝月あさづき先登せんとうつかまつります。朝月、一の大事、たのむぞ」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
盛庸等海舟かいしゅうに兵を列せるも、皆おおいに驚きおどろく。燕王諸将をさしまねき、鼓譟こそうして先登せんとうす。庸の師ついえ、海舟皆其の得るところとなる。鎮江ちんこうの守将童俊どうしゅんす能わざるを覚りて燕に降る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この研究が一、二年続く中に、何時いつとなく従来の古い型がれて、仏臭が去ったようなわけであって、その頃では、こういってはおかしいが、私は新しい方の先登せんとうであったのであります。
「来た来た。さあどんな顔ぶれだか、一つ見てやろうじゃないか。」地学博士を先登せんとうに、私たちは、どやどや、玄関へ降りて行きました。たちまち一台の大きな赤い自働車がやって来ました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
(一一)先登せんとうの自慢
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ははア中々なかなか急さね位で、一寸ちょっとびっくりして済むことだろう、が、気を沈めて見れば見るほど、先登せんとうの登山をやった人達の、度胆どぎものほどが偲ばれる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
先登せんとうに現れたのは小柄な男で、無論それは玄也であらう、現れるなりいきなり一座へ先づ一瞥を投げるといふ
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
これは死の谷への先登せんとうをやらせるためで、万一危険が生じて来てもこの二人の死刑囚が先ずどうかなる筈で、所謂いわゆるパイロット・ランプの役目を演ずるわけである。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
李陵は韓校尉かんこういとともに馬にまたがり壮士十余人を従えて先登せんとうに立った。この日追い込まれた峡谷きょうこくの東の口を破って平地に出、それから南へ向けて走ろうというのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
東京人は、日本中で先登せんとう第一に、アメリカ魂、イギリス魂、独逸ドイツ魂、ロシア魂のすべてにカブレて、そのどれにもなり得なかった。只、大和魂をなくしただけであった。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
殉死の先登せんとうはこの人で、三月十七日に春日寺かすがでらで切腹した。十八歳である。介錯は門司もじ源兵衛がした。原田は百五十石取りで、おそばに勤めていた。四月二十六日に切腹した。介錯は鎌田かまだ源太夫がした。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
突貫とっかん。」烏の大尉は先登せんとうになってまっしぐらに北へ進みました。
烏の北斗七星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ば、美濃攻めの先登せんとう第一の武勲とするであろう
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入ってみると、そこは何の変哲へんてつもないカフェだった。広いと思ったのは、表だけで、莫迦ばか奥行おくゆきのない家だった。帆村は先登せんとうに立って、ノコノコ三階まで上った。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先登せんとうはシュトイリ、次が私でカウフマンが後殿しんがりである、私の一行はカリッシュ君の先きに立った。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
先登せんとうの一人がきはだつて美しいので、お供の大久米命に命じて今宵あひたいと伝へさせたのさ。すると娘が大久米命の顔を見つめて、アラ、大きな目の玉だこと、と言ふのさ。
女体 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「神様が男のかすから女を作った」の、「女は家庭の付属物」だのと心得ているのは、中世紀か封建時代の思想である。その粕が馬に乗って民衆運動の先登せんとうに立った時代も過去の事である。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
中にも一番おどろいたのは、所轄K町署員だった。血まみれの怪漢を庄内村の交番で捕えたという報があったので、深夜をいとわず丘署長が先登せんとうになって係官一行が駈けつけた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
左の手にバイブルをぶらさげた看護人を先登せんとうにして疑惑の中の怪人物が現れてきた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
大江山課長は先登せんとうに立つと、家の中に入っていった。帆村も一番殿しんがりからついていった。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男は重苦しい宿酔いにつぶされる思いで一時いっときも早く部屋を抜けると冷酷な山間を葬列のように黙りこくって彷徨さまようのであるが、所在がなくてほろ苦くて、先登せんとうが不意に枯枝を殴り落すと
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一行中の気早きばやの若者が、射撃を加えた。人影は峠の彼方かなたに消えた。一行はこれをきっかけに戦闘準備を整えて、二名の死刑囚を先登せんとうにして、まっしぐらに、峠へ駈け上がって見た。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
僕はみずか先登せんとうに立って、冷い螺旋階段の手すりにわ手をさしのべたときだった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一等運転士は、操舵そうだ当番へ、大ごえで進航命令を下した。それと同時に、平靖号へも、全速力で、ノーマ号の先登せんとうに立って、ドンナイ河の河口をさかのぼるようにと、信号旗を出した。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人造人間部隊が粛々しゅくしゅくと行軍を開始して向ってきたので、原地人軍は、さすがにちょっと動揺どうようを見せた。が、先登せんとうに立つ勇猛果敢ゆうもうかかんな酋長は、槍を一段と高くふりまわして、部下を励ました。
「じゃ、わしが先登せんとうに昇るから、直ぐうしろから、ついて来い。いいかッ」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
研究室のドアをコツコツと叩くと、直ぐにこたえがあった。入口が奥へ開かれると、そこへ顔を出したのは、頭に一杯繃帯ほうたいをして、大きな黒眼鏡をかけた若い女だった。先登せんとうに立っていた課長は
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
化物探険隊の先登せんとうに立って、真偽しんぎたしかめたが、上と下とのスウィッチが、どっちもいているのに、クレーンが、轟々ごうごうと動いたというので、これはいよいよ、怨霊おんりょう仕業しわざということにまった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先登せんとうけあがって来た娘の顔を見て、私の心臓は少し動悸をうった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)