僭越せんえつ)” の例文
僭越せんえつにも日耳曼ゲルマン文明が他に卓越しており、従って、これを所有する独人は一種の超人であると自負して、汎日耳曼ゲルマン主義を唱うれば
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
この事件になんの功もない拙者が、それをたずさえて幕府の歓待にのぞむのは僭越せんえつでもあり、第一資格のない自身として恥入りまする。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桃水や一休ほどの器量なきものが遊女を済度さいどせんとしてくるわに出入りすることはみずからはからざる僭越せんえつであり、運命を恐れざる無知である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
本校の恩人大隈公、敬賓けいひん及び本校諸君、余の不学短識を以て職に本校の議員に列し、その員に加わるは、はなは僭越せんえつの事なり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
「気狂いのくせにバタが欲しいなんて斯んな僭越せんえつな奴があるでしょうか、ねえ貴方あなた……」ひどくれ馴れしく斯う言い乍ら
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
まだ御造営の方へ納めない前にわたくしに陳列してこの製作を公衆へ発表するということは、どうも僭越せんえつなことではないかと気遣う向きもありましたが
門末の私が先生についてあえて論讚にわたる言をなすのは、おのずから僭越せんえつしょうを免れず、不遜の罪を免れぬであろう。
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何町歩とかの畑を持たないでは、鶏を飼ってはならないというのである。然るに借家ずまいをしていて鶏を飼うなんぞというのは僭越せんえつもまたはなはだしい。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
このはなはだ僭越せんえつと考えらるべき門外漢の一私案が、もし専門学者にとってなんらかの参考ともならば、著者としての喜びはこれに過ぎるものはない。
僭越せんえつじゃな、わしをあわれみなさるとは。若いかたよ。わしを可哀想かわいそうなやつと思うのかな。どうやら、お前さんのほうがよほど可哀想に思えてならぬが。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
冗談はおいて、この文学的言語で、手っ取り早く浅薄に感情を片付けてしまうという奴は、氷のような、またしゃくにさわるほど僭越せんえつなわけのものですね。
極めて僭越せんえつでかつは大袈裟おおげさのようではあるが、自分を主としたこの山の記録とでもいうような事と、自分がこの山に興味を持って、数回の失敗を重ねて
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
けれども、その疑惑は、間違っています。私は、それに就いて、いま諸君に、僭越せんえつながら教えなければなりません。その時の、男の答弁は正しいのです。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僭越せんえつながら、あなたの愛という幸福こそ求めてはおりますが、同時に不可能な義務を負うことはできません……
テマンびとユリパズは、ヨブの短慮を責める。シュヒびとビルダデは、ヨブの不幸はその罪の罰であると主張する。ナアマびとゾパルは、ヨブを僭越せんえつであるとする。
おれのようなものをかいていながら彼らに芸術家顔をする事が恐ろしいばかりでなく、僭越せんえつな事に考えられる。おれはこんな自分が恨めしい、そして恐ろしい。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は此処に平塚さんたちが道徳家を以て自ら任ぜられることの大胆に一たび驚き、また人間が人間を罰することの可能を確信せられることの僭越せんえつに二たび驚きます。
新婦人協会の請願運動 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
これがため所謂いわゆる生活派と称する一派の文学が、僭越せんえつにも自ら「生活のための芸術」と名乗ったりした。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
たかが、一つの捕物小説を、何も僭越せんえつ至極な表現をする気はないが、この日、菅忠雄君が来なかったら、銭形平次は、こういう形で誕生していなかったかも知れない。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
但し、かかる家臣の努力と苦心についてはお忘れなきよう、僭越せんえつながら念のため言上つかまつります
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは人間として僭越せんえつなことですからね。だから君も僕をこのままに打っちゃっといてくれたまえ。
一流の料理屋の刺身さしみ醤油しょうゆにしても、一々違いますが、それが区分けが出来るように、こんなことはどうも僭越せんえつですが、いわゆる食道楽くいどうらくの立場から、ぜいたくといえば
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
しかしこの僭越せんえつな振舞いには、例の棺を着て硬ばっている紳士はいたく御立腹の様子であった。
なんとはかない私の力であろう! 人を説くにはまだ早い、人を教えるのは僭越せんえつである。それで山を去ろうというのだ。去ってそうして尚一層自分自身をみがこうというのだ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
温泉宿の亭主の胸像は僭越せんえつの沙汰だから、二人の子供が亀の子を持って話しているところにして貰う。亀の冬越しから温泉を思いついたことは温泉煎餅に詳しく書いてある。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それに比べては僭越せんえつであるが、建武けんむの昔、楠正成卿が刀折れ矢尽きて後、湊川みなとがわのほとりなる水車小舎に一族郎党と膝を交えて、七しょうまでと忠義を誓われたその有様がどうやら
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すこし僭越せんえつな言いかたをしたようだと思ったので私はなかばで言いさした。私は須磨子の自殺の原因がなんだかききもしないうちから、きくまでもないもののように思っていた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
余と碧梧桐君と同宿していた下宿を、他にも同宿人があるにかかわらず我らは僭越せんえつにもかく呼んでいた。そうして俳句の友、謡の友は此処ここを梁山泊のようにして推しかけて来た。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
汽車に乗って、がたがた来て、一泊幾干いくらの浦島に取って見よ、この姫君さえ僭越せんえつである。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが探偵小説界の鬼才江戸川兄の創作集に、私が序文を書くなどということは、僭越せんえつでもあり恥かしくもあるが、同時にまた、私に序文を書かせてくれる江戸川兄の心が嬉しくてならぬ。
「心理試験」序 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
差出口をするのは僭越せんえつであり失礼であろう。雨漏あまもりがしていられなくなれば引越先をさがすより仕様がない。引越す目当がなければ枕元にたらいでも持出しておもむろに空の晴れるのを待つばかりだ。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今度はよくむつまじく話して、過去においては長く僭越せんえつな競争者であると見ていた人に好意を持ちうるようになり、若宮を愛する気持ちの交流があたたかい友情までも覚えさすことになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
白状すれば、私なども僭越せんえつながら其発頭人の一人である。作物の上に長く煩いした学問のとらわれから、やや逃げ道を見出したと思って、私のほっと息つく時に、若い人々の此態度を見るのである。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
しかしそのような情景を彼は想像してみるだけで、それ以上に気持をうごかして三元のことを考えることは、彼にはひどく僭越せんえつなことに感じられた。どんなことをおれが考えることが出来るだろう。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
僭越せんえつながら指名のお許しを願って、矢内亀之丞どの、第三の道路係りとして関重之進どの、よろしく、ここの係り最も重要な本部隊なれば、税庫の落成次第門田与太郎どのの一隊がこれに合するはず
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
一閲するにその文章のたくみなる勿論もちろん主人などの及ぶところにあらず小説文壇に新しき光彩を添なんものはけだしこの冊子にあるべけれと感じてはなは僭越せんえつの振舞にはあれどただ所々片言隻句せっくの穩かならぬふしを
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ルーシンは『僭越せんえつながら祝辞を述べる』ことになった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
人見のせがれはしからぬ、卜幽の子は不肖だと、よう陰口を耳にするが、故あるかな、そちの言は、どうもいちいち僭越せんえつすぎるようだの。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は芸術家だ。仙術太郎氏の半生と喧嘩次郎兵衛氏の半生とそれから僭越せんえつながら私の半生と三つの生きかたの模範を世人に書いて送ってやろう。かまうものか。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
精神的には導かれ守られる代りに、世俗的な煩労はんろう汚辱おじょくを一切おのが身に引受けること。僭越せんえつながらこれが自分のつとめだと思う。学も才も自分は後学の諸才人におとるかも知れぬ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「いろいろお話をうかがいましたけれども、まことに僭越せんえつでございますけれども、また、申し訳のないところもございますけれども、私は御意見に添うわけにはまいりません」
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この点では僭越せんえつながら世上広しといえども、自分は美食家として唯一とはいわないが稀有けうの存在であると信じている。もとよりそれが善事とも悪事とも思わないこと、もちろんだ。
河豚食わぬ非常識 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
どうしてわたくし風情ふぜいが、いにしえの高僧のお生れかわりだなんて、僭越せんえつも僭越——左様なことをおっしゃられると、私は冥加みょうがのほどが怖ろしうございますといって、その人の手を取って
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大新聞を足場として彼に下されてる判決文、無知と自身の無事とから来る傲慢ごうまんさをもって芸術を指導せんとする、僭越せんえつな批評家どもの判決文、それを彼は読んでも、ただ肩をそびやかしながら言った。
その点から言えば、僕たちはひどく僭越せんえつなことを
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それは少し僭越せんえつ過ぎることだろうか。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ああ、女の法外な僭越せんえつ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「わしは原士のおさ郷高取謁見格ごうたかとりえっけんかく、お前たちが退れの、下におれのというのは僭越せんえつじゃ。殿様にもう一言ひとこといわねばならぬことがある、離せ」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「処士の身でまことに僭越せんえつですけれども、左近頼該から言上すべき旨を申付かってまいったのです、特に先生のおとりなしをたのむよう御迷惑ながら押してという事でお願いにあがりました」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僭越せんえつでおざろう。何で一木下ごときを、世人がとがめよう。織田軍として行うたことは、すべて殿の御名おんなに帰してくる」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)