かを)” の例文
一二月いちにがつころのような小枝こえだに、黄色きいろはなけたり、また蝋梅ろうばいのようにもっとはやゆきなかかをりたかくほこるものもあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それをあめのために、にほひがやはらげられて、ほとんど、あるかないかのように、しんみりとしたふうにかをつてる、とべてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
その時、突然、私の鼻を打つたものは、若葉のにほひから明確に分離してゐる、あのカシミヤブーケの高いかをりであつた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
れがためいろならずきみにおくれてかゞみかげあはおもてつれなしとて伽羅きやらあぶらかをりもめずみだ次第しだいはな姿すがたやつれる
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
風恬かぜしづかに草かをりて、唯居るは惜き日和ひより奇痒こそばゆく、貫一は又出でて、塩釜の西南十町ばかりの山中なる塩の湯と云ふに遊びぬ。かへればさびしく夕暮るる頃なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その中にうす甘い匀のするのは、人知れずに腐つてく花や果物のかをりかも知れない。
東洋の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
老人はあれを頭のなかにはつきり写生して置いたのだらう。あれほどかをり高く円熟はしてゐないが、しかし、その代り端的で鋭くてせつぱ詰つた気合が掛つてゐた。………………
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
巻二(一六二)に、「塩気しほけのみかをれる国に」の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
美くしき譬へがたなき恍惚くわうこつの奥のかをりを。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あたたかいかをりがみちて 空から
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ (新字旧仮名) / 立原道造(著)
ここにかをれる野花あり
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かをりのくさはふまずとも
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ほのかなる朽木くちきかを
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
奥さんの部屋に入ると、そこは小さな、しかし、かをりと潤のある部屋でした。壁にかけられた十字架のまはりに野生の花が飾られ、聖者たちの美しい肖像画が壁のあちこちにつてありました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それも道理だうりゆき夜道よみちしてとはひかねてこゝろならねどまた暫時しばらく二度目にどめれしちやかをうすらぐころになりてもおともなければいまぬものかるものかてにもならずてにして何時いつといふ際限さいげんもなしちがひになるともそれは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かをらざらめやその和毛にこげ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
水の色、かを泡沫うたかた
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
建物の裏からは満開を過ぎた梅の蒸すやうな匂が漂つてゐた。それはしかし、あの四君子しくんしたとへられてゐるやうな清楚せいそなものではなく、何処どこか梅自身欝々うつ/\と病んでゐるかのやうな、重たいかをりだつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
香木かうぼくずゐかを
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)