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酸鼻
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さんび
ふりがな文庫
“
酸鼻
(
さんび
)” の例文
実にこれ
酸鼻
(
さんび
)
の極み、一九八五年に、初めてブウロオニュの
森林公園
(
ボア
)
を散歩したパアナアルの
石油自動車
(
ヴォアチュレット
)
もかくやと思うばかり。
ノンシャラン道中記:02 合乗り乳母車 ――仏蘭西縦断の巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
半斎の弟子二人は、そこで、見てきたばかりの
酸鼻
(
さんび
)
のさまを、まざまざと思い浮かべたらしく、気の毒そうに顔を見あわせた。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
濛々
(
もうもう
)
と
淡黄色
(
たんこうしよく
)
を帯びた毒瓦斯が、霧のように渦を巻いて、路上一杯に
匍
(
は
)
ってゆく。
死屍累々
(
ししるいるい
)
、
酸鼻
(
さんび
)
を
極
(
きわ
)
めた街頭が、ボッと赤く照しだされた。
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
しかも、あの皮肉な冷笑的な怪物は、法水を眼下に眺めているにもかかわらず、
悠々
(
ゆうゆう
)
と一場の
酸鼻
(
さんび
)
劇を演じ去ったのである。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
かみなりに家を焼かれて
瓜
(
うり
)
の花。そんな古人の句の
酸鼻
(
さんび
)
が、胸に焦げつくほどわかるのだ。私は、人間の資格をさえ、
剥奪
(
はくだつ
)
されていたのである。
鴎
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
▼ もっと見る
およそ古今の
革命
(
かくめい
)
には必ず非常の
惨毒
(
さんどく
)
を流すの常にして、
豊臣
(
とよとみ
)
氏の
末路
(
まつろ
)
のごとき人をして
酸鼻
(
さんび
)
に
堪
(
た
)
えざらしむるものあり。
瘠我慢の説:04 瘠我慢の説に対する評論について
(新字新仮名)
/
石河幹明
(著)
その予想外に
酸鼻
(
さんび
)
な場面と、
鬱積
(
うっせき
)
する異臭にとつじょ直面したため、思わずみんな一個所にかたまって
嘔吐
(
おうと
)
したという。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
二人
(
ふたり
)
は、はた目には
酸鼻
(
さんび
)
だとさえ思わせるような肉欲の腐敗の末遠く、互いに
淫楽
(
いんらく
)
の
実
(
み
)
を互い互いから奪い合いながらずるずると
壊
(
こわ
)
れこんで行くのだった。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
が、死骸の重なり
重
(
かさな
)
つた池の前に立つて見ると、「
酸鼻
(
さんび
)
」と云ふ言葉も感覚的に決して誇張でないことを発見した。殊に彼を動かしたのは十二三歳の子供の死骸だつた。
或阿呆の一生
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
世界はまだ終ってはいないのだ。世界はあの時もまた新しく始ろうとしていた。あの時……原子爆弾で破滅した、あの街は、銀色に
燻
(
くすぶ
)
る破片と赤く
爛
(
ただ
)
れた死体で
酸鼻
(
さんび
)
を
極
(
きわ
)
めていた。
火の唇
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
誰か
凋落
(
ちょうらく
)
の秋に
遭
(
お
)
うては
酸鼻
(
さんび
)
せざらん。人生酔うては歌い、醒めては泣く、
就中
(
なかんずく
)
余は
孤愁
(
こしゅう
)
極
(
きわま
)
りなき、漂浪人の胸中に思い到る
毎
(
ごと
)
に堪えがたき哀れを感じて、無限の同情を捧ぐるのである。
面影:ハーン先生の一周忌に
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
かの地に住みし時この文を作らず、却つて今の
菴
(
いほり
)
にうつりて之を書くは、わが悲悼の念のかしこにては余りに強かりければなり。思へば世には不思議なるほどに
酸鼻
(
さんび
)
のこともあるものかな。
鬼心非鬼心:(実聞)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
私は複雑な思いに胸をかき乱されつつ、
酸鼻
(
さんび
)
を極むる原子野を
徘徊
(
はいかい
)
した。
長崎の鐘
(新字新仮名)
/
永井隆
(著)
正に
酸鼻
(
さんび
)
の極みである。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「やられましたな、常木先生、いやどうも大変な血汐で……」と源内は
酸鼻
(
さんび
)
に顔をしかめながら、気味悪そうに、拾い歩きをして入ってきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
酷烈
酸鼻
(
さんび
)
をきわめた流血の歴史よりかも、すでにそれ以前行われていて、しかも
眼
(
ま
)
のあたり、遺骸の
形状
(
かたち
)
にもそれと
頷
(
うなず
)
かれる恐怖悲劇の方が
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
酸鼻
(
さんび
)
惨虐をきわめた屍体のかたわらに、パッカアが
葡萄
(
ぶどう
)
を入れて売った紙袋と、葡萄の種と皮とが散乱していた。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
おどろおどろ神々の怒りの太鼓の音が聞えて、朝日の光とまるっきり違う何の光か、ねばっこい
小豆
(
あずき
)
色の光が、樹々の
梢
(
こずえ
)
を血なま臭く染める。陰惨、
酸鼻
(
さんび
)
の気配に近い。
犯人
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
ようやく江を渡って、襄陽に入り、味方を顧みれば、何たる少数、何たる
酸鼻
(
さんび
)
、さしもの関羽も悲涙なきを得なかった。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その
屍
(
し
)
体の状態は、いちいち重要な犯行とともにあとで説明するが、検屍の医師が正視に耐えないくらいじつに
酸鼻
(
さんび
)
をきわめたもので、とうてい普通の神経機能所有者の
所業
(
しょぎょう
)
とは思考されない。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
これは、ひょっとしたら、断頭台への一本道なのではあるまいか。こうして、じりじり進んでいって、いるうちに、いつとはなしに自滅する
酸鼻
(
さんび
)
の谷なのではあるまいか。ああ、声あげて叫ぼうか。
八十八夜
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
ただここに最も世人を歯ぎしりさせた一事は、この
酸鼻
(
さんび
)
を起した当の張本人荒木村重が、ついに
追捕
(
ついぶ
)
の網にもれて逸早く逃げてしまったことである。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
見れば、見るほど、
酸鼻
(
さんび
)
の極である。
畜犬談:―伊馬鵜平君に与える―
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
とくに西坂本、ひがし坂本では、主力と主力との激突がくりかえされ、すすんでは、洛内に近い所の部落戦、河原戦、畑合戦など、
酸鼻
(
さんび
)
をきわめた。
私本太平記:12 湊川帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
無情な天は、そこからあがる黒煙に、陽を潜め、月を隠し、ただ
暗々
(
あんあん
)
瞑々
(
めいめい
)
、地上を
酸鼻
(
さんび
)
にまかせているのみであった。
三国志:03 群星の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
またもその
酸鼻
(
さんび
)
な
殺戮
(
さつりく
)
が、真昼中、太陽の下に演じられるかと、本国寺のなかは既に名状もできない混乱に
陥
(
お
)
ちた。
新書太閤記:03 第三分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
恋の陶酔に他念のなかった新九郎と千浪が、辻堂の縁から
転
(
まろ
)
び下りて、この
酸鼻
(
さんび
)
な生ける葬式に
邂逅
(
かいこう
)
したのは。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
すると、この
酸鼻
(
さんび
)
な戦場の
地獄
(
じごく
)
へ、血をなめずる山犬のように、のそのそとウロついてくる人影がある。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いや、それよりも
酸鼻
(
さんび
)
なのは、彼の刀にあたって、
処々
(
しょしょ
)
に
唸
(
うめ
)
いたり、這ったりしている
傷負
(
ておい
)
や死人だ。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
坑道内の傾斜を泥の濁流が
一瀉
(
いっしゃ
)
千里にながれて行ったことだろう。さらに
坑口
(
あなぐち
)
の一台地にいた軍勢も、投石や投木に打ちひしがれ、そこもほとんど全滅的な
酸鼻
(
さんび
)
だった。
私本太平記:07 千早帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
すでに自分の隊の人馬も行路の炎暑に渇して
戒
(
いまし
)
めるいとまもなく泉に近づき、たちまち数十名の犠牲を出し、その苦悶と死状は
酸鼻
(
さんび
)
見るにたえないものであると告げた。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
酸鼻
(
さんび
)
をきわめた辺りの状は、なおそのままで、余りの生々しさに、
鴉
(
からす
)
も近づいてはいなかった。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それにしても、四百余人の集団死とは、あまりに
酸鼻
(
さんび
)
もはなはだしい。あるいは、これも古典常套の誇張でないかとの疑問もおこるが、しかしこれには疑いえない史証もある。
私本太平記:08 新田帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
暗さは暗し、双方とも
疑心暗鬼
(
ぎしんあんき
)
に襲われているところである。——当然、大衝突を起すと共に、かつての戦史にも見られない程な——
酸鼻
(
さんび
)
な同士討ちを徹底的に演じてしまった。
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
三番大隊・四番大隊・五番大隊、どこを歩いても
酸鼻
(
さんび
)
を極めていた。意気はなお
旺
(
さかん
)
なものがあったが、一戦ごとに、一日何度となく、
死屍
(
しし
)
負傷者は運ばれてくるし、病人はふえる。
日本名婦伝:谷干城夫人
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その
酸鼻
(
さんび
)
に、
面
(
おもて
)
をそむける様子もなく、孫兵衛の頭巾の上からもとどりをつかみ、胸をもって押しつけるような形をしていたかと思うと、ぶっすり、首を切り離して草の上へ置き
鳴門秘帖:06 鳴門の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
酸鼻
(
さんび
)
とも残忍ともいいようがない。敵とはいえ、物の数ではない少年ではないか。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
行く行く見れば、兵の死骸や
黒焦
(
くろこ
)
げの男女の死体もころがっている。あきらかにこれは
戦
(
いくさ
)
の
酸鼻
(
さんび
)
であった。秦明は我を忘れて馬にムチをくれ、一気に州城の城門下まで飛ばして行った。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
口に平和を約さない指導者はなく、戦の
酸鼻
(
さんび
)
を知らない士人もなく、始まればすぐ生命をおびやかされるを怖れない庶民はない。人間という人間ことごとくが平和を
希
(
ねが
)
っていない者はないのだ。
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
砦
(
とりで
)
はゆうべの
酸鼻
(
さんび
)
な空気をおどませて、
輝
(
かがや
)
きのない朝をむかえていた。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
何にしても、相互、
夥
(
おびただ
)
しい犠牲を出して、
揉
(
も
)
み戦った
酸鼻
(
さんび
)
は分る。
剣の四君子:02 柳生石舟斎
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかしこんな小合戦ですら、それは
酸鼻
(
さんび
)
をきわめている。
私本太平記:06 八荒帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
酸鼻
(
さんび
)
は、これだけに
止
(
とど
)
まらない。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「ああ、
酸鼻
(
さんび
)
な——」
三国志:02 桃園の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
酸
常用漢字
小5
部首:⾣
14画
鼻
常用漢字
小3
部首:⿐
14画
“酸”で始まる語句
酸
酸漿
酸味
酸素
酸漿提灯
酸模
酸乳
酸乳皮
酸摸
酸敗